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第2話「アーティのリアル・ダンス」

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 目をつぶってブツブツと詠唱を始めるゼッピ。 
 これわ! 魔導か! 何をする気だ!
「ちょっと、こんな昼間っから、人も一杯いるのに! 吹き飛ばすんですか!」
 詠唱の邪魔だと思ったのか、ゼッピは指でシッシとしてきた。失礼な女だ。

 前方、ギルド前を見渡せば、開場まであと少し。人だかりも増えてきている。
 都度都度つっかかってくる謎女であるが、ものが売れないからって爆破するようなことはしないはず。
 だが……

「ヨシ! 完成!」
「うわ! きちゃった!」
「なによ! みてなさい。【スキル:仮想変化コスプレーション】!」
「こすぷれーしょんんんんん?!」
「そう! 私のレアスキル! いでよ! 【ブロンド・メイド】!」
「ぶろんどめいどおおおおおお?!」
「オウム返し、うるさいわね!」

 魔導とともに放たれる閃光! 
 というほどでもなかったが、一瞬ゼッピの存在感がゆらいで。
 現れたのは、ゼッピとは遠くかけ離れたビジュアルの女だった。
 ボディにメリハリが効いている。
「いやそんな変わらないから! コスプレよコスプレ! 知らないの?!」
「そういえば、昨日もやってましたね。冗談は胸だけにしといてくださいよ。髪もスタイルも全然ちが……ふぎゃ!!」
 大いなる獄炎の力が俺を吹き飛ばした……わけではなくて、足を強く踏まれた。
「下ネタ禁止!」
「スイマセン」

 顔こそゼッピだが、髪は金髪で巻かれており、服装はいわゆるメイド・コスチューム。そしてスタイルもなんだか凹凸がはっきりしている。
 いや、下ネタ禁止っていわれたから、扇情的な表現を避けたんですけどね。
 ま、俺は下ネタキャラじゃないし、ギルドには女性冒険者も増え、発言に気をつけなきゃっていう時代ではある。
 男同士でバカやってる、そんなパーティは淘汰の憂き目にあうだろう。
 オルステの勇者パーティは、キレイラとかいたし、その辺気をつかっていた。
 が、むしろキレイラがパーティの風紀を乱していた気もする……ストレイとデキてたんだろうな。
 俺はそんな過ちは犯さないが!

「で、その格好は趣味ってわけですか」
「ちがーう!」
「ふぎゃ!」
 また、足を踏まれた。性格は変わらないようだ。今のところ。

「冒険者たちは男ばっかでしょ。だったら魅惑の格好で集客! がキホンじゃない!」
「あーなる、そういえば昨日いってましたね……」
「忘れすぎ!」
 女性冒険者が増えた、とはいえ、いまだに圧倒的多数は男。
 特にここアーティでは、朝っぱらからギルドを訪れるのは、野郎どもばかりだ。
「素のわたくしでも十分魅力的ではあるんですけどね! より効率アップ! ってことで、るんるん」
 ――訂正。コスチュームでテンションが変わるのは、魔導のおかげなのか、女性特有の気分なのか。
「じゃあその格好で、声出しですかね?」
「それじゃ、弱い弱い」
「やらせといて……」
「なんかいった?」」
「いや、なんでもございません……」
 いつもの清楚黒髪ローブスタイルより、圧を感じてしまうのが人間ってものかもしれない。
 ゼッピは軽く詠唱して、また違う魔導みたいだ。
「【ピュア・メロディ】!」
 なんと、メイド・コスチュームからメロディが流れ始めた!
「それって、歌うんですか?!」
「ノンノン! まずは踊るっ!!!」
 なんだかハイテンションのゼッピは前方に進んで、冒険者たちの前に踊り出た!
 正確には、まだ踊り始めてはいないが……
「そうそう冒険ハムサンド、ひとつ作っておいて!」
 ゼッピが声を張って指示を飛ばしてくる。
「そりゃそうか。なんのパフォーマンスかわからないもんな」
 直接的に冒険者たちを店に集めてしまうような、催眠みたいな魔導はないものだろうか……
 なんて思いながら、俺は俺で調理を始めた!

「わ、なんだなんだ? ずいぶんセクシーなガールじゃねえか!」
「新手のインフルエンサーか?!」
「帝国の歓び組!?」

 「ピュア・メロディ」というのどかな名前には反したアグレッシブな音楽が流れて、メイド姿のゼッピがしゅた! しゅた! と踊り始める。
 体のキレはいいようだ。それも魔導の力か?

 開場前で暇してた野郎どもが野太い声を上げ始めた。
「いいぞいいぞお!」
「もっとやれえ!」
「ひゅーひゅー!」

 俺はじゅーじゅーと肉を焼く……必要はないのだった。
 これはハムサンド。ローストポークじゃないから、提供が楽にできる。
 しかしクラシックな冒険者たちである……アグリガルはおじさんばっかか!
 セルリアの自警団もなかなか典型的な言葉づかいだったよな。
 バイカー集団はアーティの出身じゃないってことだったが。
 おじさんばかりに縁のある日々だ。

 1曲終わった。
「おおおおおおおおおお」
「わああああ」
 さすがにクラシカルなおじさんたちといえど、「ぱちぱちぱち」とは、口ではいわない。
 オーソドックスに拍手と歓声。
 いい光景だ。俺にはできない芸当。

「『マドリーのフードトラック』はじめました! オープニングセールやってます! ほら! マドリー!」
「あ、お待ちを!」
 ちょうどハムサンド1つ作り終えたので持っていく。

 そして、ふわふわと巻かれた金髪を書き上げながら、ゼッピはハムサンドをほおばる。
 ゼッピの小さな口にはハムサンドは大きく、口を大きく開けるから、目が小さくなる。
 ひとかじりして、口元からトマトの汁がこぼれる。ローストポークじゃないから、肉汁じゃないのだ。
「うわあああ、フェティシズムううう!」
「メイドのトマト汁!」

 そして、口元をぬぐう。
「人生最高の冒険ハムサンド! あなたの冒険にひとしずくの癒しを! これでクエスト成功間違いなし!」

 俺の趣味じゃないが、おじさん冒険者たちのハートはガッチリつかんだようだ。
 まだ、ギルド開場前だが、魔導車両マホトラの回りに客が並び始めた。
「マドリー! 急いで調理調理!」
「わわ、ですね!」
 俺は急いで魔導車両マホトラに戻る。

「1つくれ!」
「俺たちは4つ!」
 急に忙しくなる。
「ゼッピさん、接客お願いしますー!」

「あら、そうね」
「えーもう終わっちゃうの??」
「もっと踊ってよ!」
「アンコール!」

「ハムサンド買ってくれたら、踊りますよっ!」
「わかった! クエストチェックしてから、戻ってくる!」
「俺も、俺もだ!」

 予約チックなものも入り出したようだ。
 なかなかの商才である。

 そして、ギルドも開場し、冒険者たちの往来が増え。
 冒険ハムサンドは飛ぶように売れていった。
 ……パーティから追放されてどん底だった俺も、初めて手応えを感じていた。
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