6 / 57
ナイツオブラストブリッジ
05
しおりを挟む
ひんやりとした廊下は静寂に包まれていたが、今まで武器を構えて伏せていた盗賊団の男たちが、おっかなびっくり立ち上がりながらひそひそ話を始めた。それから、一人の男が俺とマルガリータに近づいてきて頭を深々と下げてきた。
「お頭。本当にすいやせんでした。その老騎士がお頭のお仲間だったとはつゆ知らず……。その老騎士は確かある村を俺たちが襲撃した時に頭領がいつもの卑怯な手を使って倒したんでやす。老騎士は最後まで村のために戦ったんでやすが、頭領のずる賢さの方が一枚も二枚も上だったでやす。それ以来、頭領は老騎士を牢へと入れてからどこかへ旅に出たんでやすよ。その後、頭領が旅の途中で死んじまったと、風の噂で聞いたんでやす……」
「そんなに凄い人だったのか? あの老人?!」
俺は事の次第を知った。
英雄だったんだ。
あの老人は……。
でも、人死にはこれで二度目だ……。
薄暗い廊下で松明に写るマルガリータは、心底納得したという顔をしていた。でも、俺は見逃さなかった。マルガリータが一瞬涙ぐんだ顔をしたことに……。
「そうだったのね……。ハイルンゲルト……。噂で何度も聞いたわ。元四大騎士で最強の聖騎士ハイルンゲルトはドラゴンからもラピス城を救った英雄だって、大多数に囲まれても冷静さを失うこともなかったって。例え命が掛かっても王女をお守りしたって……。でもね、鬼窪くん。そのハイルンゲルトから聖騎士の力を受け継いだんだから、これからもっと激しくなっていく戦闘には必ず参加しないといけないわ。そして、盗賊団の人達もよ」
「ああ……」
俺は俯いてハイルンゲルトが掴んだ右腕を何度も摩っていた。
「俺たちは構いませんぜ! いつも新しい頭領と一緒にいます!」
「あっしらも!」
「あっしも! 罪滅ぼしでさー!」
松明の明かりで照らされた凶悪な顔の盗賊団の男たちは、俺のためならいつ死んでもいいという顔をしていた。
暗い盗賊団の洞窟から出ると、明るい外はやはり荒廃した草原が広がっていた。盗賊団の一人の男が俺に近づいて、とても動きやすい黒一色の中に金の輪や銀の輪が縫われたマントと、金の刺繍のある茶色の布のズボンに大きな髑髏マークのついた灰色のシャツを渡して来た。
そして、黒い骸骨が彫り込まれた短剣とどこかの国の紋章が浮き出た長剣も渡した。
俺は盗賊団の男たちから学ランを脱がされ、それらに身につけていく。
「え?! その剣……神聖剣よ! こんなところにあったの?!」
「神聖剣?」
「ええ、ハイルンゲルトの剣よ。そして、グレート・シャインライン国の唯一残っていた国宝なの」
俺は目を閉じて神聖剣を一振りしてから、鞘へ納めた。
マルガリータが目を丸くして、神聖剣を見つめていた。
「ふーっ……じゃ、色々あったけれど。鬼窪くん乗って。さあ、行くわよ。黒の骸団の人たちもすぐにラピス城へ向かってね」
俺はマルガリータの跨る大きな箒の後ろに同じく跨った。
不思議なことにまったく恐怖しない俺を乗せて箒が浮いてきた。
その次はマルガリータが「飛んで!」と箒に向かって叫ぶと、箒はマルガリータの言葉を理解したのか天高く空を飛んだ。見る見るうちに下方の草原の荒れ果てた大地が遠ざかっていく。
「うわああああー、た、高い! 高いぞ!」
「あははは。私がお師匠様の箒に初めて乗せてもらった時と同じ反応なのね。あの時は死ぬかと思ったけど、まあいいわよね。急ぐわよ! 鬼窪くん! しっかり掴まっていて……って!! どこ触ってるのよーーー!!」
「うへええええー!」
でも、高いところは苦手だ! 俺は空中で目を閉じて、前方から叩きつけるかのような突風の中で、必死に両手で柔らかくて暖かいものを掴んでいた。
猛スピードでマルガリータの箒が飛んでいるのがわかる。しばらくして目を開けると、前方にラピス城の長い橋が見えてきた。
「もーうっ!! いい加減! 離しなさーーい!!」
「あ! ごめーん! わかったってーーー!!」
マルガリータの控えめな胸を今まで必死に掴んでいんだな俺……。
激怒したマルガリータは何故かハッとして、片手から下方へ火炎を放った。
ラピス城へ繋がる橋の中央に火炎がぶち当たり、轟音と共に煙を巻き上げる。俺は驚いて橋を見ると、そこにはライラック率いる青い鎧の人たちが埋め尽くしていた。
ラピス城側の数少ない普通の鎧の人たちは、皆降伏しようとしているか全滅寸前の状態だった。
さっきマルガリータの放った火炎は、僅か二人のためだった。未だ戦っているのは白い鎧を着たソーニャと普通の鎧を着た大女だけだったのだ。
「鬼窪くん。さあ、行って! 私は後方支援に回るわ!」
ライラック率いる青い鎧の人たちが、遥か下方からこっちへ弓を引いてくる。雨あられのような矢が飛んでくるが、マルガリータは難なく片手から発生する火炎で矢を振り払っていく。
「わかった!」
俺は決死の覚悟で、わけもわからずマルガリータの箒から橋へと飛び降りた。
「お頭。本当にすいやせんでした。その老騎士がお頭のお仲間だったとはつゆ知らず……。その老騎士は確かある村を俺たちが襲撃した時に頭領がいつもの卑怯な手を使って倒したんでやす。老騎士は最後まで村のために戦ったんでやすが、頭領のずる賢さの方が一枚も二枚も上だったでやす。それ以来、頭領は老騎士を牢へと入れてからどこかへ旅に出たんでやすよ。その後、頭領が旅の途中で死んじまったと、風の噂で聞いたんでやす……」
「そんなに凄い人だったのか? あの老人?!」
俺は事の次第を知った。
英雄だったんだ。
あの老人は……。
でも、人死にはこれで二度目だ……。
薄暗い廊下で松明に写るマルガリータは、心底納得したという顔をしていた。でも、俺は見逃さなかった。マルガリータが一瞬涙ぐんだ顔をしたことに……。
「そうだったのね……。ハイルンゲルト……。噂で何度も聞いたわ。元四大騎士で最強の聖騎士ハイルンゲルトはドラゴンからもラピス城を救った英雄だって、大多数に囲まれても冷静さを失うこともなかったって。例え命が掛かっても王女をお守りしたって……。でもね、鬼窪くん。そのハイルンゲルトから聖騎士の力を受け継いだんだから、これからもっと激しくなっていく戦闘には必ず参加しないといけないわ。そして、盗賊団の人達もよ」
「ああ……」
俺は俯いてハイルンゲルトが掴んだ右腕を何度も摩っていた。
「俺たちは構いませんぜ! いつも新しい頭領と一緒にいます!」
「あっしらも!」
「あっしも! 罪滅ぼしでさー!」
松明の明かりで照らされた凶悪な顔の盗賊団の男たちは、俺のためならいつ死んでもいいという顔をしていた。
暗い盗賊団の洞窟から出ると、明るい外はやはり荒廃した草原が広がっていた。盗賊団の一人の男が俺に近づいて、とても動きやすい黒一色の中に金の輪や銀の輪が縫われたマントと、金の刺繍のある茶色の布のズボンに大きな髑髏マークのついた灰色のシャツを渡して来た。
そして、黒い骸骨が彫り込まれた短剣とどこかの国の紋章が浮き出た長剣も渡した。
俺は盗賊団の男たちから学ランを脱がされ、それらに身につけていく。
「え?! その剣……神聖剣よ! こんなところにあったの?!」
「神聖剣?」
「ええ、ハイルンゲルトの剣よ。そして、グレート・シャインライン国の唯一残っていた国宝なの」
俺は目を閉じて神聖剣を一振りしてから、鞘へ納めた。
マルガリータが目を丸くして、神聖剣を見つめていた。
「ふーっ……じゃ、色々あったけれど。鬼窪くん乗って。さあ、行くわよ。黒の骸団の人たちもすぐにラピス城へ向かってね」
俺はマルガリータの跨る大きな箒の後ろに同じく跨った。
不思議なことにまったく恐怖しない俺を乗せて箒が浮いてきた。
その次はマルガリータが「飛んで!」と箒に向かって叫ぶと、箒はマルガリータの言葉を理解したのか天高く空を飛んだ。見る見るうちに下方の草原の荒れ果てた大地が遠ざかっていく。
「うわああああー、た、高い! 高いぞ!」
「あははは。私がお師匠様の箒に初めて乗せてもらった時と同じ反応なのね。あの時は死ぬかと思ったけど、まあいいわよね。急ぐわよ! 鬼窪くん! しっかり掴まっていて……って!! どこ触ってるのよーーー!!」
「うへええええー!」
でも、高いところは苦手だ! 俺は空中で目を閉じて、前方から叩きつけるかのような突風の中で、必死に両手で柔らかくて暖かいものを掴んでいた。
猛スピードでマルガリータの箒が飛んでいるのがわかる。しばらくして目を開けると、前方にラピス城の長い橋が見えてきた。
「もーうっ!! いい加減! 離しなさーーい!!」
「あ! ごめーん! わかったってーーー!!」
マルガリータの控えめな胸を今まで必死に掴んでいんだな俺……。
激怒したマルガリータは何故かハッとして、片手から下方へ火炎を放った。
ラピス城へ繋がる橋の中央に火炎がぶち当たり、轟音と共に煙を巻き上げる。俺は驚いて橋を見ると、そこにはライラック率いる青い鎧の人たちが埋め尽くしていた。
ラピス城側の数少ない普通の鎧の人たちは、皆降伏しようとしているか全滅寸前の状態だった。
さっきマルガリータの放った火炎は、僅か二人のためだった。未だ戦っているのは白い鎧を着たソーニャと普通の鎧を着た大女だけだったのだ。
「鬼窪くん。さあ、行って! 私は後方支援に回るわ!」
ライラック率いる青い鎧の人たちが、遥か下方からこっちへ弓を引いてくる。雨あられのような矢が飛んでくるが、マルガリータは難なく片手から発生する火炎で矢を振り払っていく。
「わかった!」
俺は決死の覚悟で、わけもわからずマルガリータの箒から橋へと飛び降りた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
亡霊剣士の肉体強奪リベンジ!~倒した敵の身体を乗っ取って、最強へと到る物語。
円城寺正市
ファンタジー
勇者が行方不明になって数年。
魔物が勢力圏を拡大し、滅亡の危機に瀕する国、ソルブルグ王国。
洞窟の中で目覚めた主人公は、自分が亡霊になっていることに気が付いた。
身動きもとれず、記憶も無い。
ある日、身動きできない彼の前に、ゴブリンの群れに追いかけられてエルフの少女が転がり込んできた。
亡霊を見つけたエルフの少女ミーシャは、死体に乗り移る方法を教え、身体を得た彼は、圧倒的な剣技を披露して、ゴブリンの群れを撃退した。
そして、「旅の目的は言えない」というミーシャに同行することになった亡霊は、次々に倒した敵の身体に乗り換えながら、復讐すべき相手へと辿り着く。
※この作品は「小説家になろう」からの転載です。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
私はただ自由に空を飛びたいだけなのに!
hennmiasako
ファンタジー
異世界の田舎の孤児院でごく普通の平民の孤児の女の子として生きていたルリエラは、5歳のときに木から落ちて頭を打ち前世の記憶を見てしまった。
ルリエラの前世の彼女は日本人で、病弱でベッドから降りて自由に動き回る事すら出来ず、ただ窓の向こうの空ばかりの見ていた。そんな彼女の願いは「自由に空を飛びたい」だった。でも、魔法も超能力も無い世界ではそんな願いは叶わず、彼女は事故で転落死した。
魔法も超能力も無い世界だけど、それに似た「理術」という不思議な能力が存在する世界。専門知識が必要だけど、前世の彼女の記憶を使って、独学で「理術」を使い、空を自由に飛ぶ夢を叶えようと人知れず努力することにしたルリエラ。
ただの個人的な趣味として空を自由に飛びたいだけなのに、なぜかいろいろと問題が発生して、なかなか自由に空を飛べない主人公が空を自由に飛ぶためにいろいろがんばるお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
そして、腐蝕は地獄に――
ヰ島シマ
ファンタジー
盗賊団の首領であったベルトリウスは、帝国の騎士エイブランに討たれる。だが、死んだはずのベルトリウスはある場所で目を覚ます。
そこは地獄―― 異形の魔物が跋扈する血と闘争でまみれた世界。魔物に襲われたところを救ってくれた女、エカノダもまた魔物であった。
彼女を地獄の王にのし上げるため、ベルトリウスは悪虐の道を進む。
これは一人の男の死が、あらゆる生物の破滅へと繋がる物語。
――――
◇◇◇ 第9回ネット小説大賞、一次選考を通過しました! ◇◇◇
◇◇◇ エブリスタ様の特集【新作コレクション(11月26日号)】に選出して頂きました ◇◇◇
いい子ちゃんなんて嫌いだわ
F.conoe
ファンタジー
異世界召喚され、聖女として厚遇されたが
聖女じゃなかったと手のひら返しをされた。
おまけだと思われていたあの子が聖女だという。いい子で優しい聖女さま。
どうしてあなたは、もっと早く名乗らなかったの。
それが優しさだと思ったの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる