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転生したら……海の中

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 轟々と音のする水の流れの中に俺は居た。息継ぎもできずにもがくだけだった。水の流れは激しく。目を開けた俺は元居たところから、数メートルは流されていることがわかった。

 その時、背中に鈍い音と共に痛みが走った。
 何か固いものに背中があたったようだ。俺は必死にその固いものを両手で掴んだ。どうやら、触ってみて見た感じは、それがボートのようだということだった。

 必死にボートのようなものにしがみつく。
 ボートはゆっくりとだが前進していた。

 肩にオールがぶち当たりそうだった。
 息が苦しかった。必死にボートから身体を少し離して、上へと泳いだ。

 どうしても息継ぎがしたかった。
 いや、生きたかった。
   
「ぷはっ!!」

 俺はどうやら、海面に顔を出せたようだ。辺りは海に囲まれ、遥か上空には一本の橋が掛けられていた。

 かなり長い橋だった。

 その橋の向こうに綺麗なお城があった。
 俺にはドイツのノイシュバンシュタイン城を思い起こさせた。

 あれ?
 そういや、俺はいじめのリーダーに向かって、確かなんか叫んだんだよな??
   
 ???

 なんで、こんな海の中に?? 
 独りだけで??
 
 さ、寒いし!
 心細いし!

 一体! 俺が何したっていうんだよーーー!!

 しばらくボートにしがみついていると、前方に海中に沈む石の城壁が見えてきた。そこまで泳いで、息継ぎのため城壁を伝って海面まで泳いだ。

「ぷはっ!」

 ようやく水の中から顔を出すと、目の前の城壁に上の橋へと繋がる大きな梯子が付いていた。 

 うわーー!
 長いなあ……。

 よし!
 俺は学校では陸上競技会にでたほどの実力者だ。
 体力には自信がある!

 城壁の背に伸びた梯子を登り切ると、そこは青い色の鎧と普通の鎧を着た大人たちが戦っていた。でも、少し違った。その中には白い鎧の少女が戦っている。

「あ、危ない!!」

 俺は咄嗟に少女を脇にどけた。
 途端に一本の矢が飛んできて、少女のいたところの地面に突き刺さった。石造りの橋の地面にヒビが入ったが、少女は俺の顔を見てプッと笑って「そんくらい鎧で弾けるわよ」と言った。

 よ、鎧?!
 ここは、どこなんだ?!
 何故だ!
 
 な、なんで?
 言葉が通じるんだ?
 見たところ外国人のようだけど……。
 
 でも、女の子が無事で良かった。

 俺はホッとすると同時に尻込みした。
 少女が気合いと共に長剣を振り回して、大勢の戦いの間へと突っ込んでいったからだ。
 
 ここはどこだ! 
 お、俺に……どうしよっていうんだ!
 なんだか。こ、ここ、怖いぞ!

 まるで、戦争の最中みたいだぞ!

 徐々にだが、土煙を上げて戦っている連中がこちらに近づいてきた。よく見ると、橋の向こう側の人たちは青い鎧で、こちらの城側の人たちは普通の鎧だった。どう見ても、多勢に無勢だった。城側が圧倒的に不利だ。そして、あの少女だけ白い鎧かと思ったが……。

 突然、一人の青い鎧の男が俺に斬りかかってきた。咄嗟に足に力を入れて後ろへ逃げる。

「ひえっ!」

 それを見て、大女が大剣を構えこちらに駆けて来きた。

「加勢に来てやったよ!」

 助かった!

 大女の大剣が青い鎧の胴をなんなく斬り裂いた。青い鎧の人が倒れた。

「ヒッ! し、死んでる!」

 初めて死んだ人を見て、逃げ出したくなった。

 当然だが俺は逃げの態勢から、怖くて足が震えていた。正門まで後ずさりしていると、数本の矢が前方から飛んできた。矢は俺の脇を通り過ぎ、地面に次々と突き刺さっていく。

 なんとかなったが、もう後がなかった。

 う……。

 いつの間にか、戦いの間が城の正門まで近づいてきてしまっていた。白い鎧の少女が同じ白い鎧の男と戦っている。

「王族の名にかけて! 負けられない!!」 
「なんの!! 王女よ!! その命貰ったぞーー!! ぐわっ!!」

 白い鎧の少女の首元に白い鎧の男の一閃が繰りだされた。
 だが、近くにいた俺は、なんとなくほっとけなかった。とっさにずっしりとした白い鎧の男の身体に体当たりをしていた。

 あれ?? 体が自然と動いたんだ。

 白い鎧の華奢な少女は態勢を整えて俺の脇まで来ると。

「助かったよ! 君! 君は、なんて名前? どこから来たの?」

 白い鎧の大男の方が脇腹を抑えながら剣を構え直すと、俺を睨んだ。

 俺はさすがに震えだしてしまった。
 もう、体が動かないと思った。

 誰だ??
  
 こいつ??

 俺はさすがに震えだした。
 もう、ほんとに怖く手足が動かないんだ。

「……お、鬼窪……功一……」
「……変わった名前ねえ。鬼窪?! え? !確か聞いたことあるわ!! その名前!! あ、私はソーニャよ」
「へ??」

 俺たちの話を聞いていたのか、白い鎧の男は急に真っ青な顔になった。

「ま、まさか! その名前!! お前! 黒の骸盗賊団の頭領の息子か!!」
「はあっ??」
「そういえば数年前に行方不明になったと聞いたぞ! よりにもよってラピス城にいたのか?! 成敗して名を上げてやるぞー!」
「わっ!! ひっ!!」

 な、何! なんだ?!
 俺の名前に何が?!

 白い鎧の男が俺に突進してきた。
 俺は恐怖した。
 
「我が名はライラック! 最強と謡われる誇り高き四大千騎士の一人だ!!」
「ひええええーーーーーー!! ちがーーーーう!!」

 俺はその場で蹲ろうとしたら、急に金縛りから解き放たれる。
 そして、必死に逃げ回だした!
 でも、恐怖と混乱でさすがに足に力が入らない!

 なんでこうなるんだーーー!!
 て、いうか! ここどこーーーー!!

「どこから来て、どこへ行くのかもわからないオニクボの息子よ! ここに王女の名の元に命じます! この国のためにこの橋を守りなさい!」
 
 ソーニャはライラックから命懸けで逃げ回る俺に急に大声を発した。

 一瞬、辺りの喧騒が聞こえなかった。
 無数に飛んでくる大砲の弾や矢も音を失った。

 俺はハアー……っと、ため息をついた。

 それでも、何故か大きな声で「わかった!!」と答えてしまったていた。きっと、なんとなくほっとけなかったんだと思う。普通の鎧の人たちの奮闘ぶりを見ていると、全滅寸前なのに必死だったからか……。こんな俺でもまだ意地があったからか……。

「ぬおおおおお!! 取ったぞーーーー!!」

 ライラックの剣戟が激しくなり、剣そのものが太陽光に反射して、きらりと輝きだした。
俺はライラックの剣から必死に逃げながら やっとのことで逃げ回っていたのに……でも、もう無理だろう……。俺は橋の手摺に近づいて観念した。

 短い人生だったな……。
 ここで俺は死ぬんだな……?
 
 そう……わかってしまったんだ……。


「オニクボ!! 危ない!!」

 ソーニャが急いで割って入ったが、ライラックの大振りの袈裟斬りの長剣を弾く前に、辺りに激しい火花が飛び散った。今度は、大女の大剣がライラックの剣を弾いていた。三人の激突に、だが、剣もない俺は何もかもすでに手放していた。

 お手上げ状態だよ。

「おのれーーー!! 邪魔するなあーーー!!」

 ソーニャと大女を掻き分けて、ライラックの剣が再び振り下ろされる。ソーニャと大女が加勢してくれている。そうこうしているうちに、俺は石造りの橋の手摺りから、呆気なくそのまま落下してしまっていた。

 目を閉じると、しばらくしてザブンっと音と共に耳に水が入りだした。
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