巫女と勇気の八大地獄巡り

主道 学

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地獄に仏?

4-21

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 その本は……俺が妹の誕生日に買ってやった本だった……。
 
「な……なんでこんなところに妹に買った本が……あるんだよ?」
「どうしたんですか? 火端さん?」
「え? いや……妹の誕生日に買ってやった本が、ここ衆合地獄にあるんだ」

 けれどもどうやって、本を取ろう?
 両手は塞がっているし。

 重要な疑問はそこではないけれども……。

「それなら……」

 音星が俺が目元に当てていた手を、そっとどかしてから地面にある本を取ってくれた。

 ニャー

「あ! 目?!」
「はい?」

 こちらに顔を向けた音星は、目を閉じていた。
 俺は音星が目を閉じていたことにホッとして、本を取ってくれたことにお礼を言った。シロが本に興味を持ったようだ。音星は目を瞑ったまま周囲の音や悲鳴に気を取られている。

 近くのゴ―、スー、ゴ―、スー、石臼で擦る音と共に、シャー、とシロが鋭く鳴いた。見ると、音星の方へ人型の魂となった罪人が、押し潰されながら、あっちの方を指差していた。

 そこには、また古井戸があった。

 広大な大地にポツンとある古井戸には、傍に……この妹に買った本のだろうか?

 竹の模様が付いた栞が一枚落ちていた。 


「栞? 多分、これは妹のだろう。でも、罪人はその栞を指差したのか、それとも、古井戸を指差したのか……? どっちだ?」
「え? 妹さんのものですか?」
「多分な……」
「私、栞という依代から少しだけ持ち主がわかる気がします」
「おお!」
「では……」

 俺は栞を拾うと、音星に手渡した。音星は途端にキュッと目を固く瞑ると、フゥと息を吐き。栞に向けて微笑んだ。

「そうですね。妹さんって、弥生さんというんでしたよね。後ろ髪だけ茶髪の。前髪は黒いですが、ちょっとツッパリのような性格で……」
「ああ……あ!」

 音星は何故か知らないはずの妹の特徴を話していた。
 そうだ。妹はバイクを乗り回すのが好きだった不良だ。それもスクーターじゃない普通の二輪バイクだ。

「もう少し、ここを探した方がいいかな? まあ、一応なんだけどな?」
「いえいえ、きっと妹さんはここにはいませんよ」
「うーん……そうだな。シロはどう思う?」
「……火端さん?」

 シロは俺の腕の中で、毛繕いをしている。
 それにしても、確かに妹がここへ落ちるはずはないしな。もっと、下へ落ちてしまったんだろう。衆合地獄は探すには探したしな。
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