巫女と勇気の八大地獄巡り

主道 学

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それは理?

2-12

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 俺はその時、ジャージ姿の眠そうな顔の音星が、一階へゆっくりと降りてくるのを見つけた。

「あ、音星。まだ寝ていても良かったんだぞ。朝食なら俺が二階へ持って行ってやるぞ。まあ、たぶん。どのみち、おじさんかおばさんが持って行けっていうんだろうけど」
「ええ。ええ。火端さんありがとうございます。谷柿さんもおはようございます」
「おはよう。巫女さん」

――――

 音星とテーブルに着くと、もう一人のお客さんの古葉さんが廊下から歩いてきた。

「おはよう。巫女さん……誰? そいつ?」
「あ、俺は火端 勇気です」
「ああ、新しいお客さんか」

 古葉さんは、いわゆる不良のような人だった。だらしのないポロシャツを着ていて、髪はぼさぼさで茶色に染めている。

 背はひょろ長いが、程よく筋肉がついたナイスガイだった。
 歳は俺より上の大学生のようだ。

 谷柿さんもやってきて、おじさんとおばさんもテーブルに着くと、平和な朝食が始まる。献立は大根の味噌汁に、ご飯。それと、海苔と漬物に、エビフライと玉子焼きだった。

 俺のご飯だけ大盛りだったのは意外だったけど……。

「火端さん。あの……午後からは、この鏡でまた八大地獄へ行きましょう」
「ああ。あ、その鏡は? やっぱり普通の鏡じゃないんだろ?」
「ええ、この鏡は、浄玻璃《じょうはり》の鏡の欠片なんです」

 音星は、古い手鏡をテーブルの上に置いた。
 すると、みんなが朝食の手を止めて、一斉に鏡を覗きだした。

「じょうはり? ふっるい鏡だなあー。かなり昔からあるんだろ? これ? しかも、よく割れないよな」
「ええ。家の箪笥に大事に仕舞ってあったんですよ」

 古葉さんが半ば呆れて言って、音星が受け答えした。

「家の箪笥にあったのか?」
「ええ。この鏡は、そう遠くはないご先祖さまの代から、いつの間にかあるんですよ」
「確か、浄玻璃の鏡って。閻魔様が死んだ人の生前の善悪を見極める際に使う鏡だったっけ?」
「ええ、そうなんです。それと、この鏡は欠片ですから、地獄と現世に共通して存在しています。なので、地獄とこの世を、行き来することのできる光触媒というものになるんですって」

 テーブルの上の手鏡をおじさんが持ち出して、おばさんと覗きながら感心している。

「へえ。この鏡で地獄へねえ……」
「そうかい。大したものだな」

 おじさんとおばさんが頷き合う。
 俺は八天街の裏道にある神社の鏡も、これと同じ浄玻璃の鏡の欠片なんじゃないだろうかと考えていた。 
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