虎倉街の天気予報 春のち地震で世界に均衡を

主道 学

文字の大きさ
上 下
29 / 30
再び影の王国へ行こう

玉座争奪戦

しおりを挟む
 俺は目を丸くしている杉崎のおじさんとおばさんにも礼を言って、傘がいっぱい脇に差してある玄関で妹と外へと出ようとした。我が妹は杉崎からパンを一枚貰ったが……。

「あれ? 影洋くん!」
 杉崎は俺たちを呼び止めて、何かに気がついてラジオをいじる。
 更にボリュームが上がったラジオからは……。

「影虎よ……ようこそ影の世界へ……」



 影虎《かげとら》……俺の父さんの名前だ……。
 生きていた!
 でも、何故?
 おばあちゃんの言ったことが間違いなのか?

 いや、そんなはずはない。
 俺の父さんと母さんは確かに……影に殺されたはずだ。
 
 確か……?

「ほひいちゃん! さあ、教会行こう! 影の世界に行こう!」
「う、うん。今、考え中……。だったが、うっがーーー! 忘れてしまったーー! じゃ、行くか!」

 俺たちはホームセンターの脇を横切り教会へと向かう。雨は止んでいて陽の光が眩しいぜ。道路の至るところに日差しを反射する水たまりができていた。
 
「おにいちゃん。綺麗だね」
 パンを食べ終わった我が妹が言った。
「ああ……絶対に影の世界もこの世界も支配しちゃる。玉座はなんだかよくわからんが、俺が座ってやる!」
「おにいちゃん……おにいちゃんが玉座に座ったら影の世界の王様になれるんだよね。そしたら、私は何になるの?」
「うーん。多分、あれだ……。妹のままだ」
「ぶー」

「さあ、これから玉座争奪戦だ!!」
「おにいちゃん?」

 俺たちは教会へと突っ走った。
 教会までどうしてか刺客は誰もいなかった。
 俺と妹は、無事に教会の床の階段に辿り着いた。

 ドアを開けて静かな住宅街に出ると、辺りは前と変わらず深い夜の闇が支配していた。
 
「おにいちゃん。もう、夜だね……。時差があるんだ……」
「うん……そう……か??」

 危うくボケの一歩手前で俺は立ち止まった。
 
「あ、いや。我が妹よ。そこから違う。影の世界だから朝と夜が……うぎっ!!」

 そういや、時差でも真逆でもなんで夜なんだ??
 普通。表の世界が昼ならこちらは夜で、表の世界が夜なら……??

「うーん」
「おにいちゃん? わかった。ここはずっと夜なの。……きっと何かの大きな影の背中のところだから」
「うーん……うぎっ?」

 我が妹よ。お前は賢いぞ!!
 おにいちゃん鼻が高いぞ!

 そうだ!
 ここは太陽の背中で作られた影の世界だ!!

 つまりは、太陽の背中の方にある世界なんだ。
 だから、陽が昇らない。
 ずっと、闇の中なんだ。

 なんかわかってきた感じ。
 影の世界って。
 
 道路を彩る桜の花弁が舞っている。
 俺たちは家に向かって急いだ。
 途中で誰も刺客がいないので俺も妹も拍子抜けした顔になってきた。

 水たまりに浮かぶ桜の花弁が月の光で妖しく光っていた。
 難なく家の前に到着すると、一人の鉄製の棒を持った男の影がいた。 

「やったー! 刺客だ!!」
「おにいちゃーん。良かったねー!」
「うりゃ!」

 俺は男の影を正面から羽交い締めした。
 心影流の奥義の一つだ。

 超高速で接近して、相手の両手、両足、両肩、首、口、鼻、それら全てを真っ正面から封じる。

 しばらくすると、男の影が窒息して倒れた。
  
「おにいちゃん! さっすが!」

 家のドアを開けると、玄関にも男の影が二人いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

熾ーおこりー

ようさん
ホラー
【第8回ホラー・ミステリー小説大賞参加予定作品(リライト)】  幕末一の剣客集団、新撰組。  疾風怒濤の時代、徳川幕府への忠誠を頑なに貫き時に鉄の掟の下同志の粛清も辞さない戦闘派治安組織として、倒幕派から庶民にまで恐れられた。  組織の転機となった初代局長・芹澤鴨暗殺事件を、原田左之助の視点で描く。  志と名誉のためなら死をも厭わず、やがて新政府軍との絶望的な戦争に飲み込まれていった彼らを蝕む闇とはーー ※史実をヒントにしたフィクション(心理ホラー)です 【登場人物】(ネタバレを含みます) 原田左之助(二三歳) 伊代松山藩出身で槍の名手。新撰組隊士(試衛館派) 芹澤鴨(三七歳) 新撰組筆頭局長。文武両道の北辰一刀流師範。刀を抜くまでもない戦闘の際には鉄製の軍扇を武器とする。水戸派のリーダー。 沖田総司(二一歳) 江戸出身。新撰組隊士の中では最年少だが剣の腕前は五本の指に入る(試衛館派) 山南敬助(二七歳) 仙台藩出身。土方と共に新撰組副長を務める。温厚な調整役(試衛館派) 土方歳三(二八歳)武州出身。新撰組副長。冷静沈着で自分にも他人にも厳しい。試衛館の弟子筆頭で一本気な男だが、策士の一面も(試衛館派) 近藤勇(二九歳) 新撰組局長。土方とは同郷。江戸に上り天然理心流の名門道場・試衛館を継ぐ。 井上源三郎(三四歳) 新撰組では一番年長の隊士。近藤とは先代の兄弟弟子にあたり、唯一の相談役でもある。 新見錦 芹沢の腹心。頭脳派で水戸派のブレインでもある 平山五郎 芹澤の腹心。直情的な男(水戸派) 平間(水戸派) 野口(水戸派) (画像・速水御舟「炎舞」部分)

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける

気ままに
ホラー
 家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!  しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!  もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!  てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。  ネタバレ注意!↓↓  黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。  そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。  そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……  "P-tB"  人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……  何故ゾンビが生まれたか……  何故知性あるゾンビが居るのか……  そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……

処理中です...