虎倉街の天気予報 春のち地震で世界に均衡を

主道 学

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近所を調べてみよう

影の世界

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 異様な雰囲気が包み込んでいて、本当にここは虎倉街なのかと俺は思った。
 周囲の生活の音が木霊して、自動車も影が運転している。
 自動車のクラクション、チャイムの音、「行ってきまーす」とかの日常会話。

 音だけはそれぞれのいつもの喧騒が聞こえてくる。
 だけど、全て影たちによるものだった。
 ここでは影たちが生活をしているんだ。 

「な……なんだってんだ! ここも影の世界なのか?!」
 
 俺は暴走する不安を、一旦立ち止まらせた。
 ここは表の世界のはずだ。
 そう、俺たちの世界だ。
 だけど、辺りは影たちが生活をしていて、普通の人が一人もいない。

「と、とりあえずはだなあー。近所を調べてみようか……」
 
 
 幾度も通行人の影を過り。
 しばらく歩くと、俺の家があった。
 郵便箱にはまた何かが飛び出しているが……。
 普通に建っている。 
 うん。俺の家だ。

 中へ入ってみよう。
 
「うぎっ?!」

 …………
 
「なんか言った? ほにいちゃん?」
「うん? いや……」

 中には俺と妹がいた。
 普通に生活をしているようで、大好物のショルダーベーコンをもう一人の俺が食べている。妹の光はパンを頬張り。これから学校のようだ。

(??? う、なんだってんだーーー!! ここはーーーー!!)

 俺は訳が分からず。
 半狂乱になっていた。

 そうだ!
 こんな時こそ女神様だ!!

 俺は家の外へ全速力で走って行った。
 近くの比水公園でストップすると、女神様を呼んだ。

 途端に、神々しい光と共に女神様が俺の前に現れた。

「影洋……。どうしてここへ来てしまったのですか? まだ、ここはあなたが来るには……早過ぎるのです……。……ここはあなたのいた元の世界です。そう、ここではあなたが影であなたの影があなたなのです。今では元の世界。いえ、表の世界はあなたの影が王国を築き上げ。あなたの姿を横取りした世界になりました」

「うぎっ! どういう意味ッスか? 女神様ーー?!」
 俺は混乱は治まったが、今度は冷や汗がでた。

「迂闊でした。あなたが影の世界にいる間に、あなたの影はこの表の世界で王国を作っていたのです。そうです! ここはあなたの影の王国です! ですが、まだ大丈夫です! さあ、影洋。今度は影の世界へと戻り。仲間と共にあなたの影を打ち倒すのです!」

 …………

 俺の中にまた新たな目的ができた。
 そのお陰で有り難いことに、ひどい混乱がふっ飛んだぜー!

「よっしゃーーーーー! ……あざます!! 女神様! お陰様で混乱した頭が少しスッキリしましたよ!!  俺の影めー! こうなりゃ、こっちから影の王国ごと滅ぼしちゃうからな!!」

 俺は駆け足で教会へと戻っていった。
 そこで、重大なことに気が付いた。
 
 あ!! やべぇ!!
 
 女神様におじいちゃんとおばあちゃんのことと、影斬りの刃のことを聞くのを完全に忘れていたーー!!
 
 だけど、もう教会は目と鼻の先だ。
 真っ白く大きな教会は、厳かに佇み。こちらを建物自体が見下ろしているかのようだった。
 
 よし! 戻ったら心影山に行く準備をするぞーーー!! 
 
 俺は教会の右の部屋へと急いで向かった。
 だが……。

 うぎっ?!

 俺は立ち止まった。
 部屋の中には大きな影が三つあったからだ。
 影たちはこちらに即座に反応して構えた。
 どうやら、型からするとボクシングのようだ。

「ひょっとして、俺の影からの刺客か?! あいつ俺の家で俺に気付いていたんだ!!」

 俺も心影流の型を構えた。
 
「お前たち。そいついには迂闊に近づかない方がいい」

 部屋のドア付近の窓から俺の影の声がした。
 俺は内心冷や汗を掻いた。

「そうだな……全員で一度に体当たりをするんだ!!」
「うぎっ?!」

 俺の影の言葉に。
 俺は心影流の構えを解いた。
 咄嗟に逃げの態勢を作る。

 心影流には少しだけ弱点があった。
 大男の体当たり。
 それも大勢に囲まれたりした時の体当たりは避けるしかない。

 俺の姿をした影が素早く窓から右の部屋のドアに立った。

 退路が絶たれた!
 
 こうなりゃイチかバチかカウンターを一度にしなければ……。

 大きな踏み込みの音が部屋中に響き渡った!
 三つの大きな影が俺に向かって、一斉に体当たりをしてきた!
 
 俺は再び心影流の構えをし、目を閉じて呼吸を止めた。
 
「そこだーーーーー!!」

 すぐに俺には三つの大きな影の全ての隙が見えた。
 渾身の力で右上段回し蹴り。右膝蹴り。腰を降ろしてのアッパーカットを放った。
 ゴキッと音が三つ鳴った。
 俺の攻撃の全ては瞬間的に全員の影の首を打っていた。

「やった!! どうだ! 見たか! 心影流は最強の守りの技だーーー!!」

………

「ふん! 後ろががら空きだ!」
「がっ!!」

 俺の影が俺を羽交い締めにした。

「なんの! ウラー!」

 俺は背面目掛けて強烈な肘打ちを打った。 

 ゴンッと派手な音がした。

 俺の影が大きくよろけ右頬を抑えて呻いた。
 羽交い締めが解けると、今度は膝蹴りで俺の影の腹部を思い切り打った。

「ぶっ飛べーーーー!!」
 
 鈍い音が辺りに響き、俺の影が吹っ飛ぶと同時に、地下への階段へと一目散に走った。

 地下への階段を降りると、影の世界の右の部屋へと上った。
 そのまま黒い家から出る。

「危なかった……多勢に無勢か……囲まれたらどうしようかと思ったぜ!」

 完璧に大勢に囲まれると、いくら心影流でも不利だった。
 俺は冷や汗とも疲労の汗ともとれる汗を流して、恵さんの家へと向かった。

 真っ暗な道路を桜の花弁が舞っている。
 花弁が地面に敷き詰められているのか、踏んだ感触が心地よかった。

 荒い呼吸も整ってきたら、あることに気が付いた。

「そういえば、山に登るんだよな……」

 俺の家の近辺に登山用の道具を売っている店は一軒だけある。
 俺は進路をホームセンターへと変えた。
 
 この世界では両親には子供はいない。
 俺と光はいないことになっている。
 てかっ、存在していないんだ。
 早く俺の影をなんとかしないといけない気がする。

 あいつめえ、少し俺より強くなっていやがった。
 なんでか、羽交い締めされた時にそう感じた。
 腕の力が半端なかったからだ。
 俺の影も俺の存在を無くそうとしているんだな。

 上を見上げれば、星々が輝く夜の大空が広がる。
 道路の所々から桜の木々が顔を出し、花弁を地へと舞い落としていた。

 黒い家から東へ走ると、家屋の間に挟まっているような場所にあるホームセンターにたどり着いた。
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