虎倉街の天気予報 春のち地震で世界に均衡を

主道 学

文字の大きさ
上 下
6 / 30
近所を見に行こう

影の踊り

しおりを挟む
 微睡みから目が覚める。
 妹の光がパンを頬張りながら、俺を起こしていた。昨日の夕食は豪勢だったな。フォアグラなんて初めて見たし、食べたっけ。

「おっはよー……うん?」

 そういえば、昨日は光が別々の部屋は嫌だといい。結局、同室で寝ることになった。天蓋付きのベッドがおあつらえ向きに二つあったので、そこで爆睡したんだった。

 正直、疲れていた。
 まだ、現実感がまったくない。
 辺りを見回しても……。

 至る所に置かれた高級そうな壺に、黄色い花が活けてある。大きい部屋の片隅に大型テレビがある。どこかしら清涼感溢れる花の香りがするんだ。

 そのテレビには、また天気予報が流れていた。

「今日は世界各地で……の祭りが……ありますね。いやはや、ここは影の世界ですからね。仕方がないんですよねえ。では、皆さん避難訓練は忘れずに。降水確率です……。気温は……。それでは今日の天気です。今日は時々、傘が降るでしょう」
 
 小春という気象予報士はやはり平然としていた。

「うぎっ! 傘ーーー!! 雨の間違いだろう!!」
「おにいちゃーーん! それより遅刻だよーーー!」
 部屋の中央の柱時計を見ると、午前9時!!
「恵さんはどうしたーー!!」
「ほえ、だって今日は日曜だから学校は休みだって……」
「……」
 
 妹よ。それなら起こすな!!

 内心叫んだが、そういえば、今日は町内会があるんだった。これも我が妹のお蔭だ! 早く支度して行かないと!

「光。支度を急ぐぞ!」
「ほい! 早く支度しないと! 学校の先生に怒られるからね! おにいちゃん! なんか天気予報では今日は傘が降るって言っていたみたい。影の世界では日常なのかな?」
「いや、そこから違う! 今日は学校休みで傘なんて降らない! 町内会があるんだ! 妹よ! ヘルメットを恵さんから借りよう!」
「ほえ?」

 天蓋付のベットからさっそく降りだして、少し支度にバタバタすると一階へ向かった。昨日は二階ではなくて、一階で夕食を取ったんだ。俺の隣のおじさんなんて(恵の父親)、クリュグという高そうな酒をグイグイ飲むし。昨日の夕食は、楽しかったな。 

 そして、今は朝食の時間は過ぎてしまったから、縦長のテーブルにはなにものっていない。メイド姿の人からパンとヘルメット? を渡された。さあ、恵さんにお礼を言って急いで町内会へ行かないと。

 恵さんは、「うん。じゃあ、いってらっしゃい」と言っただけだった。どうやら、うん。影の世界ではこれが普通の日常生活なのだろう。

 俺たちは急いで、実家があった場所を目指した。恵さんの屋敷から走って30分。完全に遅刻だった。

「ほひいちゃん! あれ!」
 パンを走りながら頬張っていた妹が指差す方を見ると、会館では何かが大勢踊っていた。 


「あ! あれは!!」
 俺の中で昨日の夢の記憶がまざまざと蘇った。
 夢の中では俺だけに危害を加えていたけど、ほんとは違うんだ……。俺の父さんと母さんを殺したのは……俺の影だった。今までそのことはどうしても思い出したくはなかった。

「くそっ!」
 左手の傷を摩った。
 俺の影だけは形でわかるが、会館の中央で踊っているおどろおどろしい他の影たちはわからない。真っ暗な広場で影たちは踊っているだけだったが、何かの儀式のようにも思えた。周囲の町民は、ヘルメットをかぶってそれを見守っているがみんな怯えたような顔だった。
 
 影たちの踊りが止んだ。
 それぞれ四方へと影たちが霧散するように帰っていく。
 俺は俺の影のシルエットを追った。

 そういえば、今日の天気予報で世界各地で祭りが起きると気象予報士が言っていたようだけど、ひょっとしたら、これなんじゃ……。

 全国的な影の踊り。いや……。
 恐らく、この踊りは町民や俺や妹の影による何かの儀式なんだ。

「待て――!! 俺の影ーーーー!」
  
 自分で言っているのもなんだが……変か?
 確かに変だろうけど、命が関わっているんだ。俺は自分の影を一直線に追いかける。
 
 影は会館の広場から、そのまま比水公園を通り過ぎ。近くの住宅街に暗闇に紛れるよう姿を消した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゾンビだらけの世界で俺はゾンビのふりをし続ける

気ままに
ホラー
 家で寝て起きたらまさかの世界がゾンビパンデミックとなってしまっていた!  しかもセーラー服の可愛い女子高生のゾンビに噛まれてしまう!  もう終わりかと思ったら俺はゾンビになる事はなかった。しかもゾンビに狙われない体質へとなってしまう……これは映画で見た展開と同じじゃないか!  てことで俺は人間に利用されるのは御免被るのでゾンビのフリをして人間の安息の地が完成するまでのんびりと生活させて頂きます。  ネタバレ注意!↓↓  黒藤冬夜は自分を噛んだ知性ある女子高生のゾンビ、特殊体を探すためまず総合病院に向かう。  そこでゾンビとは思えない程の、異常なまでの力を持つ別の特殊体に出会う。  そこの総合病院の地下ではある研究が行われていた……  "P-tB"  人を救う研究のはずがそれは大きな厄災をもたらす事になる……  何故ゾンビが生まれたか……  何故知性あるゾンビが居るのか……  そして何故自分はゾンビにならず、ゾンビに狙われない孤独な存在となってしまったのか……

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

ずっと一緒だよ

藤原 柚月
ホラー
心春(こはる)は友達が出来ずぼっちなまま学生時代を過ごすものだと思っていた。 だが、ある事がきっかけで友達が出来ることになる。それはとても些細なことだったけど、友達が出来たことに嬉しく思っていた。 気が付かなかったのだ。その友達が異常なまでの執着を見せてるのにーー……。 「心春ちゃんの友達は僕だけで良いでしょ?」 その言葉が意味するのは、歪んだ愛情だった。 それを私は友情だと信じて、疑わずに……当たり前になっていた

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

無能な陰陽師

もちっぱち
ホラー
警視庁の詛呪対策本部に所属する無能な陰陽師と呼ばれる土御門迅はある仕事を任せられていた。 スマホ名前登録『鬼』の上司とともに 次々と起こる事件を解決していく物語 ※とてもグロテスク表現入れております お食事中や苦手な方はご遠慮ください こちらの作品は、 実在する名前と人物とは 一切関係ありません すべてフィクションとなっております。 ※R指定※ 表紙イラスト:名無死 様

処理中です...