虎倉街の天気予報 春のち地震で世界に均衡を

主道 学

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近所を見に行こう

春のち地震で……。

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「はあ~~」
 正直、ため息がでた。
 やってられない。
 学校行く前にかなり疲れた。
 花柄模様の壁のキッチンテーブルでフレンチトーストと、湯気と香りが立つコーヒーには手を付けずに呼吸を整えていた。けれど、大好物の厚切りのショルダーベーコンだけは既に食べている。

 目覚めが悪い。
 何故かというと、さっきまで変な夢を見ていたからだ。
 それは、幼い頃の俺がナイフを持った自分の影に襲われている夢だった。あっけなく俺の何かが殺されてしまった。俺の何かが発した悲鳴が俺の耳にいつまでも残っている。そうだ……俺の影が死んだんだ……。

 うぎっ?
 こんな変な夢を見るなんて、夢の世界で影に襲われているのは昔あったけかな……。
 風呂、トイレ、物置、キッチンetc、etc……。色々と悲鳴を上げて逃げ回ったからか、夢の中だというのに物凄く疲れた。

「あれ?」
 気づくと、左手に刃物による切り傷があった。まったく覚えはない。出血はしていないけど、かなり痛い。

「なんだってんだ今日の夢はーー!」

 もう一つのため息の原因は、外の天気だ。何故か朝の7時なのに真っ暗。これで、ため息をつかない奴はいないんじゃ? まだ夢の世界にいるのかと思うとひどく憂鬱になる。
 家の中も暗くて照明をつけていた。
 7月の半ばだというのに、かなり寒くなってきている。冬の寒さに似ているな。

「はあ~~~。やってられないなあ~学校休もうかな?」

 俺は何度目かのため息を吐いていた後、なんか明るいニュースでも……と。うん?

 部屋の片隅にポツンとある小さなテレビを点けると、丁度ニュースが流れるところだった。

 ニュースキャスターのいる下の字幕に、次はお天気コーナーと書かれている。

「ふーむ、そうですか。今後ますます不景気になるかも知れませんね……。あ、次は天気予報ですね。このところ寒い日が続きますねえ。それでは、小春さん。今日の天気はどうでしょうか?」
  ニュースキャスターの一声の後で、場面が変わった。何故か近所の比水《ひすい》公園が映っていた……。
「おはようございますー。今日は、比水公園に子供たちと来ていますよー」
 気象予報士の後ろには子供たちが元気よく笑っていた。

「それにしても、子供たちはいつも元気で良いですよねえ。私も苦労を忘れるくらいに元気にいきますよー。あ、今日はお空は低気圧に覆われていますねえ。気温は3℃で、いやはや寒いですねー。湿度は……。いやー、気候と地盤から春のち地震ですねえ。というわけで、みなさん今日は世界の均衡を忘れないように……そうですバランスの日ですねー」


 子供たちの平和な笑い声の中で、気象予報士がここの近くにある比水公園で不思議なことを言っている。
「へえ、そうですか。みなさんそれでは世界に均衡を……次は、経済です。中東の経済状況が……」
  
 こいつらなんで笑顔なんだ?!
 何故……?
 一体……?
 おかしいだろ?

 外の闇の中から……はあ?
 桜の花弁が落ちているーーー??

 俺の家の隣は比水公園だった。そこの桜の木が満開のようだ。
「うーんっ! 確かに綺麗な夜桜ッスね?」
 俺は呆れて冗談を言うしかなかった。風に乗って桜の花弁がガラス窓の外でひらひらと舞い落ちていた。
「おにいちゃーーん! 遅刻だよーーー!! なんで起こしてくれないのーー! おにいちゃんバカ!」
 その時、妹の光《ひかる》の絶叫が二階から降ってきた。
 あれ? もうこんな時間か?
 いつもの妹を起こしてやることを忘れてた。

 数分後。慌てて夜の外へと二人して駆け出していた。

「光! 朝食は優しい兄である俺のトーストだ!」
「ほりがとう! ほひいちゃん!」

 もぐもぐと俺のフレンチトーストを走りながら瞬時に食べる妹を置いて、ひとまず公園に様子を見に行くことにした。

 そこに現れたのは、気象予報士や子供たちの姿はなく。
 満開の桜に覆われたこじんまりとした比水公園だった。いつもここには老人しか訪れない。おまけに噴水が中央にあるだけの公園だ。ただ単の……鳥たちの水飲み場でもある。

「ナニコレ? 異常気象? え? なんで、今、7月よ!」
 俺に追いついた光るが目を回して言うのだが……。

「ああ、寒いのになあ。桜くん。ご苦労様です! ちょっと、お尋ねしてもよろしいでしょうか、ここでテレビ中継とかされていましたか?」
「何言ってるの? おにいちゃん! いつも通り変よ!」

 なんだか……変だ!
 今日に限って……。

 その時、ズシンという地面からの揺れと衝撃と共に俺と光の身体がグラついた。咄嗟に地震だと思ったのは、勿論今朝の天気予報のせいだ。

「光! 伏せろ!」
「え! 何! 地震?! 伏せていいの?」

 比水公園を囲むかのように建つ住宅街がグラグラと激しく踊りだした。地鳴りは耳を塞ぎたくなるほどに大きくなった。桜の木々はこの上なく右へ左へと揺れ動く。
 
 瞬間、夜空が光った。

 その光の中から、神々しい女神のようなこの世のものとは思えない美しい女性が現れた。

「影洋。さあ、今こそ試練の時です! そして、ようこそ影の世界へ!」

 神々しい女神は、そう言うと、辺りは光の輝きに包まれた。
 その光は、俺と光の影を消し去った。
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