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天使の扉
31話
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お義父さんとお義母さんが僕の手を優しく握る。そして、微笑みをたたえた表情で僕を見つめる。
「お義父さん。お義母さん。ありがとう」
「いいんだよ。リスヘル」
お父さんが微笑む。
「さあ、部屋へと戻りましょう」
お母さんが微笑む。
と、突然。悲鳴がした。それは何十人の悲鳴。
見ると、大勢の住人の中央に誰かがいた。しかし、その姿は朧げだ。
「亡霊?」
僕は黄金の至宝を持って、部屋の中央まで逃げ惑う住人を避けながら走りだした。
「許さんぞ!」
亡霊は老人だった。透明度のある姿が・・・おじいちゃん?
「ジェームズ・ハント!」
少し先にいるグッテンが叫んだ。
「え?」
僕はびっくりしてグッテンのそばへと来た。
「古文書の写真で見た時があるのは然り、図書館の壁にも肖像画があるんだ!」
「おじいちゃんが?ジェームズ・ハント……?」
優しかったおじいちゃん。僕のおじいちゃん。
「いや、違う! リスヘル。あれはジェームズ・ハントであって、リスヘルのおじいちゃんではない」
雲助が僕の肩で足を踏ん張った。
「どういうことなの?」
「俺に色々教えてくれたのが……断片的だが……リスヘルのおじいちゃんさ。生前の。おじいちゃんの名はボブ・ネルフ・ハント。ジェームズ・ハントの遠い子孫だ。ボブ・ハントはこの不思議な館を知っていた。なんとか、ジェームズ・ハントから館の住人を救うべく俺に知識を与え、誰かに伝えようとしたんだ」
そうか、おじいちゃんの姓は確かハントだった。僕が小さい頃に意地悪な両親から聞いたんだった!
「ジェームズ・ハントは本当の気違い。館の住人をここから出そうとは決してしないだろう。それにリスヘル。こんなに大勢も黄金の至宝を使って飛べない。なんとかしないといけないんだ。それには……黄金の至宝でジェームズ・ハントをどこか遠いところに飛ばすんだ。そして、この館の空間と因果律が崩壊するのをただ見ているしかない。ジェームズ・ハントは黄金の至宝と同じ力の魔法を使えるんだ。いや、それより強力な魔法の力を持っているんだ。黄金の至宝とは、もともと空間と不可逆な因果律を変えることができる……つまり、因果律ごと時空を変化させる究極の宝物なんだ。だから、どこかへと飛ばすとジェームズ・ハントの魔法との衝突でこの空間と因果律が……つまり、ここでのことや今までのことを何もなかったことにしてしまう。とにかく、この館から出ることを考えるんだ」
「雲助。いったい何を言っているの。解らないよ」
「今に解る。その時が来た」
「恐らく……館にいる私たちも私たちの先祖も。そして、亡霊や特殊な亡霊もジェームズ・ハントの研究の犠牲だったのだ。それと、どうりで一度来た場所しか黄金の至宝で移動できないわけだ」
そばにいるグッテンが苦渋の顔で呟きゆっくりと頷いた。
僕は怒り狂っているジェームズ・ハントのところへと走った。そう黄金の至宝を持って。
「お前はわしの子孫だな! この館の住人と亡霊たちはわしのものだ! この館からは一歩も出さない!」
ジェームズ・ハントは、その朧げな右手を上げる。
「魔法を使う気だ!」
雲助が叫んだ。
僕は素早くジェームズ・ハントに渾身の力で体当たりをして黄金の至宝を念じて捻じる。
けれど、黄金の至宝は眩い光を放っているだけ……。
ジェームズ・ハントから発せられる見えない衝撃で、後ろへと突き飛ばされて倒れた僕はすぐに立ち上がった。ロッテとコルジン。そして、グッテンが僕の所へと来た。
コルジンが戦いの態勢になる。
グッテンはオールバックを整える。
ロッテは僕の手を握り。
「あなたなら大丈夫」
「う……うん」
自信が無くなりだし、解らないことだらけの僕をロッテが勇気を与えてくれる。
「おのれ! 小童め! わしの大事な館の住人は誰にも渡さんぞ! 魔法で捻り潰してやる!」
僕はもう一度、体制を立て直し右手を上げて魔法を使おうとしたジェームズ・ハントに、必死に走って、体全体でぶち当たった。そして、黄金の至宝を念じて捻じった。
「お義父さん。お義母さん。ありがとう」
「いいんだよ。リスヘル」
お父さんが微笑む。
「さあ、部屋へと戻りましょう」
お母さんが微笑む。
と、突然。悲鳴がした。それは何十人の悲鳴。
見ると、大勢の住人の中央に誰かがいた。しかし、その姿は朧げだ。
「亡霊?」
僕は黄金の至宝を持って、部屋の中央まで逃げ惑う住人を避けながら走りだした。
「許さんぞ!」
亡霊は老人だった。透明度のある姿が・・・おじいちゃん?
「ジェームズ・ハント!」
少し先にいるグッテンが叫んだ。
「え?」
僕はびっくりしてグッテンのそばへと来た。
「古文書の写真で見た時があるのは然り、図書館の壁にも肖像画があるんだ!」
「おじいちゃんが?ジェームズ・ハント……?」
優しかったおじいちゃん。僕のおじいちゃん。
「いや、違う! リスヘル。あれはジェームズ・ハントであって、リスヘルのおじいちゃんではない」
雲助が僕の肩で足を踏ん張った。
「どういうことなの?」
「俺に色々教えてくれたのが……断片的だが……リスヘルのおじいちゃんさ。生前の。おじいちゃんの名はボブ・ネルフ・ハント。ジェームズ・ハントの遠い子孫だ。ボブ・ハントはこの不思議な館を知っていた。なんとか、ジェームズ・ハントから館の住人を救うべく俺に知識を与え、誰かに伝えようとしたんだ」
そうか、おじいちゃんの姓は確かハントだった。僕が小さい頃に意地悪な両親から聞いたんだった!
「ジェームズ・ハントは本当の気違い。館の住人をここから出そうとは決してしないだろう。それにリスヘル。こんなに大勢も黄金の至宝を使って飛べない。なんとかしないといけないんだ。それには……黄金の至宝でジェームズ・ハントをどこか遠いところに飛ばすんだ。そして、この館の空間と因果律が崩壊するのをただ見ているしかない。ジェームズ・ハントは黄金の至宝と同じ力の魔法を使えるんだ。いや、それより強力な魔法の力を持っているんだ。黄金の至宝とは、もともと空間と不可逆な因果律を変えることができる……つまり、因果律ごと時空を変化させる究極の宝物なんだ。だから、どこかへと飛ばすとジェームズ・ハントの魔法との衝突でこの空間と因果律が……つまり、ここでのことや今までのことを何もなかったことにしてしまう。とにかく、この館から出ることを考えるんだ」
「雲助。いったい何を言っているの。解らないよ」
「今に解る。その時が来た」
「恐らく……館にいる私たちも私たちの先祖も。そして、亡霊や特殊な亡霊もジェームズ・ハントの研究の犠牲だったのだ。それと、どうりで一度来た場所しか黄金の至宝で移動できないわけだ」
そばにいるグッテンが苦渋の顔で呟きゆっくりと頷いた。
僕は怒り狂っているジェームズ・ハントのところへと走った。そう黄金の至宝を持って。
「お前はわしの子孫だな! この館の住人と亡霊たちはわしのものだ! この館からは一歩も出さない!」
ジェームズ・ハントは、その朧げな右手を上げる。
「魔法を使う気だ!」
雲助が叫んだ。
僕は素早くジェームズ・ハントに渾身の力で体当たりをして黄金の至宝を念じて捻じる。
けれど、黄金の至宝は眩い光を放っているだけ……。
ジェームズ・ハントから発せられる見えない衝撃で、後ろへと突き飛ばされて倒れた僕はすぐに立ち上がった。ロッテとコルジン。そして、グッテンが僕の所へと来た。
コルジンが戦いの態勢になる。
グッテンはオールバックを整える。
ロッテは僕の手を握り。
「あなたなら大丈夫」
「う……うん」
自信が無くなりだし、解らないことだらけの僕をロッテが勇気を与えてくれる。
「おのれ! 小童め! わしの大事な館の住人は誰にも渡さんぞ! 魔法で捻り潰してやる!」
僕はもう一度、体制を立て直し右手を上げて魔法を使おうとしたジェームズ・ハントに、必死に走って、体全体でぶち当たった。そして、黄金の至宝を念じて捻じった。
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