白と黒の館へ

主道 学

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原型館 その二

20話

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 目の前には、あのホクロの男性の部屋が現れる。肉の香ばしい匂いはより一層、僕たちの空腹を揺さぶり、みんなが一目散に皿を取って鍋に大きめのスプーンを突っ込む。でも、グッテンだけは上を見つめている。
 窮屈なテーブルに座ると、みんながお肉に齧りついた。
 数分で食べ終わる。
 あれ、グッテンは食べてないぞ。
「黄金の至宝……これほどの物とは……」
 グッテンは驚嘆して、僕の持っている黄金の至宝を見つめている。その顔は晴れ晴れとして、僕を暖かい気持ちにさせるものだった。

「グッテンも使ってみたら、気持ちがスッキリするよ。それに今度は食用栽培園へ行こう。グッテンも食べてないんでしょ」
「ああ。でも、今はお腹が空いていない。食欲なんてどこかに吹っ飛んだよ。本当に私が使っても良いのかい? それはヨルダンが見つけた宝物だよ。それに私は何だか緊張してきた。」
「まだ。これからも旅は続くんだよ。食べようよ。ついでに、リグおじさんから野菜を貰おう」
 僕は緊張し過ぎのグッテンに黄金の至宝を渡した。
「何だかドキドキするな。こんなに緊張したのは生まれて初めてだ」
 グッテンが黄金の至宝を念じて捻じる。
 

「うわーっ! って、あれ? リスヘルじゃないか!」
 目の前にリグおじさんがいた。
 リグおじさんはスコップを持って、土を掘っていたようで。今は驚いて立ち上がってスコップを盾のようにして顔を覆っていた。
「リグおじさん。こんにちわ! 僕、野菜がほしいよ」
「こんにちは!」
 と、ロッテ。
「素晴らしい!」
 グッテン。
「これは気持ちいいな。おチビちゃん」
 コルジン。
 みんなとくっついてリグおじさんの目の前に現れた僕たち。広大な食用栽培園はいつもと変わらずにあった。
「リスヘル。どうやったんだ」
 驚愕な表情で僕を見つめるリグおじさんは目を丸くしたままだ。そんなおじさんに僕はニッコリしていた。

「簡単さ。これが黄金の至宝なのさ。これできっとキャサリンおばさんの火傷を治してあげる事が出来るはずさ。薬草は自力で取りに行かないといけないけど、もう館の亡霊に出会っても大丈夫になったんだ」
 黄金の至宝を両手で持って放心状態のグッテンを指差した。おじさんはホッとして、スコップを地面に置いた。
「そうか。有難うリスヘル。館の亡霊の危険を顧みずに妻のために旅行へ行ってくれて」
「おじさん。野菜!」
「おお。好きなだけ持って行ってくれ。あ、リスヘルには丁度食べ頃の新鮮な野菜をやろう」
 僕の布袋に幾つもの野菜が入る。
「空腹だ。空腹だ」
 放心状態から解放されたグッテンが大喜びでレタスが植えてある所へと走って行った。黄金の至宝は僕に素早く手渡された。よっぽど(当たり前か)お腹が空いていたんだね。
 コルジンとロッテは旅行のために布袋に好きなだけ野菜を詰める。

「おチビちゃん。この後、食用動物園にも行こう。俺の貯金を少し削るしかないけど。食用動物園に行く前に俺の部屋へと行こうや」
 お肉大好きなコルジンはやはり肉を欲しがったみたい。コルジンは野菜でいっぱいの布袋をもって僕の傍に歩いてきた。僕は頷くとたくさんのレタスだけを布袋へと入れたグッテンを大声で呼んだ。ロッテも布袋いっぱいに野菜を詰め込んでいたが走って来てくれた。
「それじゃあ行くね」
 僕は黄金の至宝を念じて捻じった。
「リスヘル……。有難う……」
 別れ際のリグおじさんの声はか細く、少し悲しかった。

 
 今度はコルジンの部屋。コルジンはみんなの分の布袋の野菜をキッチンで軽く調理した。次に、せせこましい1Kの奥の方に向かい。小さいベットの下から何千クレジットか持ってきてくれた。
「みんな悪いな。でも、これで肉を買えるぜ、みんなの分も俺に任せな」
 コルジンは久しぶりに料理が出来てご満悦の様子。

 僕もコルジンの料理は嬉しい限りだ。
 そして次に食用動物園に念じて捻じる。
 受付の台には管理人のマルコイとポルサがいた。
「ど……どうやって来たんだ。いきなりだもんな……」
 マルコイは鬚をぽりぽりしながら驚く。その目はまん丸く。ライオンのような頭が何か間抜けみたいだ。
「うわー!」
 ポルサはトゲトゲの頭を振り乱し、地面に蹲った。
「すまないマルコイ。ポルサ」
 グッテンは微笑みの表情だがどこか気分は高揚している感じだ。
「こんにちわ」
 ロッテはさっそく豚一切れを、コルジンの賃してくれたお金で買おうと、巨大な冷蔵庫の前に軽やかに歩きだす。 
「さあ、おチビちゃん」
 コルジンが僕に何十クレジットか渡してくれるが、僕は黄金の至宝で興奮していて、肉は後回しだ。
「マルコイさんにポルサさん。これが伝説の黄金の至宝なんです。それの魔法でこの部屋まで一っ飛び」
 僕は意気揚揚として、マルコイとポルサに説明をした。

「黄金の至宝か。こんなに凄いなんて。あー!俺もクイズに挑戦して、旅行に行ってればなあ」
 マルコイはロッテの指差していく豚肉一切れの何枚かを、一度に調理してくれながら残念がる。
「あ、俺からのプレゼントだ。コルジンは、いつも肉を買ってくれているいわば常連だからな」
 そういうと、ポルサは牛肉一切れをコルジンに差し出した。
「ありがとうポルサ。調子の方はどうだい。この食用動物園の仕事がきついとかなんとか」
「いや、そうでもなくなった。確かにマルコイとだけだと……きついのはあるが。動物の方も暴れずに言うことを聞いてくれているし」
「そうか。なあおチビちゃん。ここの鶏は何故か数が減っていて、なかなかの高価な代物だ。だから、原型館で鶏を見つけたら、捕まえてこようぜ」
「うん。いいけど。原型館に鶏なんているのかな?」
「恐らくはいない」
 グッテンがこの部屋の獣臭さに顔をしかめながら言った。

「でも、昔から部屋などが変化していない原型館の魔法によって、700年前のジェームズ・ハントが連れてきた鶏が安全でよい環境で、700年も繁殖を繰り返していれば……いるのかも知れない」
「それならいいな。うん。捕まえに行こう」
 僕は賢いグッテンの言葉に大喜び。
 きっと、鶏どころかライオンもいるはずさ。
「ひとまずこれでよしだ。後はどうする。ヨルダン?」


 グッテンが静かに言った。
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