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原型館 その一
15話
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ロッテの疑問に僕は自信のある声を発した。きっと、ロッテの探している薬草は食用栽培園のように、床を加工しているところにあるのだと思う。僕は住人がいないこの辺りで、薬草が取れるのかと心配した。でも、グッテンがこの原型館には見たこともない食物や動物がいると言っていた。
「グッテン。この館には見たこともない。動物や植物があるって昨日言ったよね」
グッテンは顔を輝かせて何か考え事をしているふうだったけど。
「確かに古文書にはそう書いてあったんだ。この原型館には700年前から、不思議な動植物が根付いているとのことだ」
僕はそれを聞いて雲助の言ったことを忘れてしまいそうになる。
本当にここから魔法が掛っていて出られないのかな?
もし出られなかったらどうしよう?住んじゃおうか?
僕が珍しく考え事をしていると、グッテンが右の淡いピンクのドアを開け放った。中から肉の焼ける匂いがしてきたからだ。
「どうやら。この原型館にも住人がいるな」
グッテンは奥にある部屋を見つめて言った。
「こんにちは」
ロッテが部屋へと入るとそこには誰もいなかった。ただ肉の焼ける匂いがするだけ。
そして、僕だけ……なのかな……は早くも食料が手に入ったと勘違いした。
「うまそうだな。……何の肉だ」
コルジンが肉の匂いを真剣に嗅ぐ。
その部屋はコルジンの部屋のように狭かった。手前の部屋には大きい流し台があって、キッチンになっている。その奥はベットが一つポツンとある。キッチンには冷蔵庫があった。でも、かなり小型だ。
ロッテは早速、肉の入った鍋の所に行って匂いを嗅いでいる。グッテンはその部屋の住人を探すために四方のドアを開けたり閉めたり。どうやら、住人は遠くへと出掛けているのだろう。
僕はここにいる住人から黄金の至宝の在り処を聞きたかった。
「住人はいないみたいね。この鍋のお肉を少し分けてもらいたいのに」
ロッテは残念がって、鍋の中にキッチンから持ってきた大き目スプーンを入れる。
「勝手に食べるわけにはいかないし、困ったわ」
「それじゃあ。住人を探そうよ。きっと、余り遠くに行っていないはずだし」
僕は鍋の中の肉がつい最近、火がよく通っただろうと思った。つまり、ちょっとの間に誰かが調理をしたのだ。
「こんな旨そうな肉を逃す手はないな。きっと、少しなら分けてもらえるはずさ」
コルジンが豪快に笑った。
四方にあるドアからグッテンが強張った顔を出し、
「みんな来てくれ」
みんなでグッテンの方へと行くと、ドドメ色のドアに男の死体があった。それは下半身を何かの強力な力で引き千切ったような。けれど、あまり出血をしていない死体だった。
上半身はホクロだらけの顔に、茶色いロングヘアーの男性だ。下半身は遥か遠くに吹っ飛んでいた。
「こりゃひどい……。館の亡霊にしては強い力だ」
コルジンが青冷めた顔をした。
このドドメ色のドアの向こうには廊下だけだ。遥か遠くまで伸びていて、壁にはたくさんの顔だけの肖像画がある。
「何にやられたのか解らない死体。一体……?」
グッテンが震える手で男の死体の下半身をボールペンで突っつく。
「それにその化け物は近くにいるようだ」
すぐに体勢を整えたグッテンが、オールバックの髪型を手櫛で整える。
「あのキッチンにあるお肉を、みんなで急いで食べるのは駄目かしら?」
ロッテはコルジンの後ろに隠れる。
僕はドドメ色のドアをゆっくり閉めて、遥か遠くまで続く廊下を歩きだす。何だか解らないけど先を急ぐしかないかな。
「ヨルダン危ないぞ!」
雲助が叫んだ。
壁にある肖像画の人々が僕を一斉に見た。
「僕はヨルダン。この人を殺したのは誰?」
僕は肖像画に向かってきつく尋ねる。
肖像画は何も言わずに僕を見ていた。
背筋に嫌な汗がつたう。
一番端っこ。ドドメ色のドアのところにある肖像画が、僕を充血した目で見ている。その顔はひどく年寄りだが精悍な顔で、男の顔だった。肖像画と目が合う。
「ヨルダン!」
コルジンが僕を抱き抱えて、廊下を走りだした。ロッテたちも続く。
4人が急いで通り過ぎると、僕たちがいた空間に巨大な顔が大口を開けて、噛み付いた。その顔はひどく年寄りだ。
あのホクロだらけの男はこの大口に噛まれ、大量の出血は大口に啜られたようだ。
「驚いたな。この館にも特殊な亡霊がいるのだ!」
走りながらグッテンが叫んだ。
「特殊な亡霊?!」
「そう。目に見えないもの以外の亡霊さ! 外館人の君には解らないものだろうけど!」
学者のグッテンが全速力で走りながら叫びながら講義をしようとしたが、僕はおじいちゃんの館の最初に、絵の具の亡霊に襲われたことを思い出した。
走りながらの会話は息が苦しくなる。
「ああ、僕は知っている! この館へ来たときに最初に見た奴だ!」
グッテンは荒い呼吸で目を丸くして、
「君はなんという幸運の持ち主だ。館の亡霊より特殊な亡霊のほうが凶暴で危険だ。そんな化け物に出会っても、生きているなんて!」
走る。
走る。
走る。
「グッテン。この館には見たこともない。動物や植物があるって昨日言ったよね」
グッテンは顔を輝かせて何か考え事をしているふうだったけど。
「確かに古文書にはそう書いてあったんだ。この原型館には700年前から、不思議な動植物が根付いているとのことだ」
僕はそれを聞いて雲助の言ったことを忘れてしまいそうになる。
本当にここから魔法が掛っていて出られないのかな?
もし出られなかったらどうしよう?住んじゃおうか?
僕が珍しく考え事をしていると、グッテンが右の淡いピンクのドアを開け放った。中から肉の焼ける匂いがしてきたからだ。
「どうやら。この原型館にも住人がいるな」
グッテンは奥にある部屋を見つめて言った。
「こんにちは」
ロッテが部屋へと入るとそこには誰もいなかった。ただ肉の焼ける匂いがするだけ。
そして、僕だけ……なのかな……は早くも食料が手に入ったと勘違いした。
「うまそうだな。……何の肉だ」
コルジンが肉の匂いを真剣に嗅ぐ。
その部屋はコルジンの部屋のように狭かった。手前の部屋には大きい流し台があって、キッチンになっている。その奥はベットが一つポツンとある。キッチンには冷蔵庫があった。でも、かなり小型だ。
ロッテは早速、肉の入った鍋の所に行って匂いを嗅いでいる。グッテンはその部屋の住人を探すために四方のドアを開けたり閉めたり。どうやら、住人は遠くへと出掛けているのだろう。
僕はここにいる住人から黄金の至宝の在り処を聞きたかった。
「住人はいないみたいね。この鍋のお肉を少し分けてもらいたいのに」
ロッテは残念がって、鍋の中にキッチンから持ってきた大き目スプーンを入れる。
「勝手に食べるわけにはいかないし、困ったわ」
「それじゃあ。住人を探そうよ。きっと、余り遠くに行っていないはずだし」
僕は鍋の中の肉がつい最近、火がよく通っただろうと思った。つまり、ちょっとの間に誰かが調理をしたのだ。
「こんな旨そうな肉を逃す手はないな。きっと、少しなら分けてもらえるはずさ」
コルジンが豪快に笑った。
四方にあるドアからグッテンが強張った顔を出し、
「みんな来てくれ」
みんなでグッテンの方へと行くと、ドドメ色のドアに男の死体があった。それは下半身を何かの強力な力で引き千切ったような。けれど、あまり出血をしていない死体だった。
上半身はホクロだらけの顔に、茶色いロングヘアーの男性だ。下半身は遥か遠くに吹っ飛んでいた。
「こりゃひどい……。館の亡霊にしては強い力だ」
コルジンが青冷めた顔をした。
このドドメ色のドアの向こうには廊下だけだ。遥か遠くまで伸びていて、壁にはたくさんの顔だけの肖像画がある。
「何にやられたのか解らない死体。一体……?」
グッテンが震える手で男の死体の下半身をボールペンで突っつく。
「それにその化け物は近くにいるようだ」
すぐに体勢を整えたグッテンが、オールバックの髪型を手櫛で整える。
「あのキッチンにあるお肉を、みんなで急いで食べるのは駄目かしら?」
ロッテはコルジンの後ろに隠れる。
僕はドドメ色のドアをゆっくり閉めて、遥か遠くまで続く廊下を歩きだす。何だか解らないけど先を急ぐしかないかな。
「ヨルダン危ないぞ!」
雲助が叫んだ。
壁にある肖像画の人々が僕を一斉に見た。
「僕はヨルダン。この人を殺したのは誰?」
僕は肖像画に向かってきつく尋ねる。
肖像画は何も言わずに僕を見ていた。
背筋に嫌な汗がつたう。
一番端っこ。ドドメ色のドアのところにある肖像画が、僕を充血した目で見ている。その顔はひどく年寄りだが精悍な顔で、男の顔だった。肖像画と目が合う。
「ヨルダン!」
コルジンが僕を抱き抱えて、廊下を走りだした。ロッテたちも続く。
4人が急いで通り過ぎると、僕たちがいた空間に巨大な顔が大口を開けて、噛み付いた。その顔はひどく年寄りだ。
あのホクロだらけの男はこの大口に噛まれ、大量の出血は大口に啜られたようだ。
「驚いたな。この館にも特殊な亡霊がいるのだ!」
走りながらグッテンが叫んだ。
「特殊な亡霊?!」
「そう。目に見えないもの以外の亡霊さ! 外館人の君には解らないものだろうけど!」
学者のグッテンが全速力で走りながら叫びながら講義をしようとしたが、僕はおじいちゃんの館の最初に、絵の具の亡霊に襲われたことを思い出した。
走りながらの会話は息が苦しくなる。
「ああ、僕は知っている! この館へ来たときに最初に見た奴だ!」
グッテンは荒い呼吸で目を丸くして、
「君はなんという幸運の持ち主だ。館の亡霊より特殊な亡霊のほうが凶暴で危険だ。そんな化け物に出会っても、生きているなんて!」
走る。
走る。
走る。
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