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ハリー・ザ・ショー
11話
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今日も気分的に快晴。
ハリーのショーはあれから誰もクイズに挑戦しないので終わりになった。ハリーはそれでもショーが成功したと大笑いしていた。
僕は旅行のことと100万クレジットのことで、頭がいっぱいだったようで、ルージー夫人の看病をしている僕にとっての特別な女性も頭には、入っては外へ、外へ出ては入っていた。
ここはコルジンの部屋。そこで、ハリーのショーを終えた僕たちが、夕食のカレーを食べながら今後の事を話していた。
ルージー夫妻は自分たちの部屋で寝込んでいるのだろう。僕にとっての特別な金髪の少女は医者の娘だったようで、(この館で唯一の医者。その娘なのだそうだ)看病をしてくれている。
「俺の部屋より……。おチビちゃん……いいかい。ルージー夫妻のことを考えてくれないかな」
コルジンが賞金100万クレジットと書いてある。大きく片手に余るビスケットを持っている僕に打ち明ける。
「でも、僕はコルジンにお礼をしたいんだ」
コルジンは首を縦に振ってくれない。
「俺のことを考えてくれるおチビちゃんは好きだ。けれど、ルージー夫妻は仕事をしても、何十年間と……いや……今までとこれからもただ働きなんだよ。そんな人にこそお金を分けてあげるものだよ。俺は仕事が出来て給料もちゃんと貰えるんだ。部屋ならきっと金を貯めて買うことが出来るし……」
僕は……解ったよと蚊の鳴く声を発した。
雲助はグッテンの傍から解放されて、きゅうりにありつきご機嫌の様子。
このビスケット。明日には賞金100万クレジットと交換出来る。やっぱり食べてはいけないと言われている。僕は雲助にかじられでもしたらとヒヤヒヤしていた。
ルージー夫人は今はどうしているのかな。部屋で火傷の治療をしているんだろうけど。そういえば、金髪の少女は医者の娘だったけど、まだ小さいからお金を取らないのだそうだ。
僕はルージー夫人を今まで可愛そうとは……一度も思わなかった。でも、コルジンたちがルージー夫妻のために一生懸命になっている。というのは、解らないわけじゃないよ。
でも、どうしてか何の感情も出てこない。
きっと、嫌な気持ちだった時と同情心がごっちゃになって心が停止しているんだと思う。
でも、確かにハリーのショーの時は、これ以上ルージー夫人の顔が焦げることは、避けようと頑張った時もあったけど……。
「お金ってなんだ?それがあると色々と出来る魔法の丸っこいものか?俺も欲しいぞ」
雲助がきゅうりの上に乗っかり、不思議なことを言った。
「あのね。雲助。これは魔法じゃないんだ」
僕はそこまで言うと、自分でも解からなくなって、口を噤んだ。
「そうだ。おチビちゃん。100万クレジットは一まず置いて……。ハリーの部屋からの旅行はどうするんだ?俺は行った時がないが、聞くところによるとこれまた豪勢なようだぞ。それでも、館の亡霊はやっぱり怖いだろうけど……」
僕はこの館にも旅行があるのが不思議だった。でも、旅行に行けるということは、この館をもっと遠くまで探検が出来るということだ。
今まではハリーのショーのために遠くまで行けなかったけど……。
「うん。絶対行くよ。僕はこのおじいちゃんの館を隅々まで探検して、最後には住んじゃおうと思っているんだ」
コルジンは鍛え抜かれた手でスプーンを持ち、カレーを頬張り、
「おじいちゃんの館?」
僕はカレーを口に運ぶのを止め、
「そう。僕はグッテンたちが言っていた外館人なんだ。太陽のことも知っている。おじいちゃんの家からここへと来たんだ」
「なんだって。太陽に会ったのか」
コルジンは興味津津といった顔で、その精悍な顔を綻ばせた。
「俺は太陽って奴に負けないように、今まで体を鍛えていたんだ。そいつはどんくらい強い?俺はこの館からもし出られたら、そいつと勝負したいんだ」
僕はどうせこの館からコルジンが出られないと思い……。そして、僕は絶対おじいちゃんになっても出ないけど。嘘を付いた。
「すっごく強いよ。今のコルジンじゃ敵わないかも」
コルジンは大笑いして、
「そいつは凄いぞ。俺はもっと強くなる。絶対に」
ボクシングのような格闘技が、この館にあるのかと僕は一瞬考えた。
次の日。
気分的に強風。
僕は仕事を休んでルージー夫妻の部屋の前で、どぎまぎしていた。
中にはきっと、あの金髪の少女もいるかも知れないけど、しかめっ面のおじさんと顔を火傷した陰気なおばさんがいる。
正直、複雑な気分だよ……。
金髪の少女と出会うのは正直とても嬉しい。だけど、何となく心が金縛りになって、にっちもさっちもいかない。でもせっかくお見舞いと、100万クレジットの使い道をコルジンと考えたんだ。
ノックをする。
「おお。リスヘル入れ」
中からしかめっ面じゃないおじさんの元気な返答がした。
「お邪魔します」
僕は顔の表情に極力、意識を向けて部屋へと入ると、そこにはキッチンと小さいテーブルの部屋に黒のガウンを着た。ルージー夫妻の夫の方がちょこんと座っている。
せせこましいが、奥の幾つもあるベットには、きっとルージー夫人が寝込んでいるのだろう。
しかめっ面だったおじさんは何やら、機嫌が良いみたいだ。そして、僕のことをリスヘルと呼んだ。
「リスヘル。昨日はありがとな」
小さいテーブルに座っているおじさんが、お礼をしてきた。
「いえ……。それと、僕は……ヨルダン」
「言わなくていい。いや、言わないでくれ。今、お茶を入れるよ」
上機嫌でしかめっ面ではないおじさんはテーブルから立つと、キッチンに向かう。
奥から顔をだした金髪の少女は濡れたタオルを片手に、キッチンに歩いてきた。
少女と目が合う。
僕は心臓の音が気になるけど……。元気に少女に話しかけた。僕は物怖じなんてしない。
「なんて名前なの君は。良かったら教えて」
黄色のワンピースの少女は微笑んで、
「私はロッテ。この館の唯一の医者の娘。あなたは誰? リスヘル? それともヨルダン?」
少女は小首を傾げる。
僕は紛らわしいなと思ったが。
「僕はヨルダン。ルージー夫人の顔は大丈夫?」
「ええ。火傷は酷いけど。父からよく効く薬と鎮痛剤を貰っているから。今はぐっすりよ」
この館にも薬があるようで、僕はホッとした。風邪をひいたら大変。治らないで館の探険が一生出来なくなる。
「おお。ロッテもここに座りなさい。後、リスヘルも」
ルージーおじさんはにこにこして、僕たちを小さいテーブルに落ち着かせた。淹れたてのハーブティーだ。
それと、雲助のことも覚えてくれていて、きゅうりの入ったカップを差し出した。
「た、食べにくい……」
雲助はカップの中で四苦八苦する。
僕はコルジンとの話を頭の中で反芻する。しょうがない。……お金を分けてあげよう。僕はルージーおじさんにお金の話をすることにした。不思議と今のおじさんからは嫌な気分がしなかったのも事実だ。
まるで、嫌な気分だったのが数日前なのに、元気がでてくるし、遠い昔のように感じられた。
ハリーのショーはあれから誰もクイズに挑戦しないので終わりになった。ハリーはそれでもショーが成功したと大笑いしていた。
僕は旅行のことと100万クレジットのことで、頭がいっぱいだったようで、ルージー夫人の看病をしている僕にとっての特別な女性も頭には、入っては外へ、外へ出ては入っていた。
ここはコルジンの部屋。そこで、ハリーのショーを終えた僕たちが、夕食のカレーを食べながら今後の事を話していた。
ルージー夫妻は自分たちの部屋で寝込んでいるのだろう。僕にとっての特別な金髪の少女は医者の娘だったようで、(この館で唯一の医者。その娘なのだそうだ)看病をしてくれている。
「俺の部屋より……。おチビちゃん……いいかい。ルージー夫妻のことを考えてくれないかな」
コルジンが賞金100万クレジットと書いてある。大きく片手に余るビスケットを持っている僕に打ち明ける。
「でも、僕はコルジンにお礼をしたいんだ」
コルジンは首を縦に振ってくれない。
「俺のことを考えてくれるおチビちゃんは好きだ。けれど、ルージー夫妻は仕事をしても、何十年間と……いや……今までとこれからもただ働きなんだよ。そんな人にこそお金を分けてあげるものだよ。俺は仕事が出来て給料もちゃんと貰えるんだ。部屋ならきっと金を貯めて買うことが出来るし……」
僕は……解ったよと蚊の鳴く声を発した。
雲助はグッテンの傍から解放されて、きゅうりにありつきご機嫌の様子。
このビスケット。明日には賞金100万クレジットと交換出来る。やっぱり食べてはいけないと言われている。僕は雲助にかじられでもしたらとヒヤヒヤしていた。
ルージー夫人は今はどうしているのかな。部屋で火傷の治療をしているんだろうけど。そういえば、金髪の少女は医者の娘だったけど、まだ小さいからお金を取らないのだそうだ。
僕はルージー夫人を今まで可愛そうとは……一度も思わなかった。でも、コルジンたちがルージー夫妻のために一生懸命になっている。というのは、解らないわけじゃないよ。
でも、どうしてか何の感情も出てこない。
きっと、嫌な気持ちだった時と同情心がごっちゃになって心が停止しているんだと思う。
でも、確かにハリーのショーの時は、これ以上ルージー夫人の顔が焦げることは、避けようと頑張った時もあったけど……。
「お金ってなんだ?それがあると色々と出来る魔法の丸っこいものか?俺も欲しいぞ」
雲助がきゅうりの上に乗っかり、不思議なことを言った。
「あのね。雲助。これは魔法じゃないんだ」
僕はそこまで言うと、自分でも解からなくなって、口を噤んだ。
「そうだ。おチビちゃん。100万クレジットは一まず置いて……。ハリーの部屋からの旅行はどうするんだ?俺は行った時がないが、聞くところによるとこれまた豪勢なようだぞ。それでも、館の亡霊はやっぱり怖いだろうけど……」
僕はこの館にも旅行があるのが不思議だった。でも、旅行に行けるということは、この館をもっと遠くまで探検が出来るということだ。
今まではハリーのショーのために遠くまで行けなかったけど……。
「うん。絶対行くよ。僕はこのおじいちゃんの館を隅々まで探検して、最後には住んじゃおうと思っているんだ」
コルジンは鍛え抜かれた手でスプーンを持ち、カレーを頬張り、
「おじいちゃんの館?」
僕はカレーを口に運ぶのを止め、
「そう。僕はグッテンたちが言っていた外館人なんだ。太陽のことも知っている。おじいちゃんの家からここへと来たんだ」
「なんだって。太陽に会ったのか」
コルジンは興味津津といった顔で、その精悍な顔を綻ばせた。
「俺は太陽って奴に負けないように、今まで体を鍛えていたんだ。そいつはどんくらい強い?俺はこの館からもし出られたら、そいつと勝負したいんだ」
僕はどうせこの館からコルジンが出られないと思い……。そして、僕は絶対おじいちゃんになっても出ないけど。嘘を付いた。
「すっごく強いよ。今のコルジンじゃ敵わないかも」
コルジンは大笑いして、
「そいつは凄いぞ。俺はもっと強くなる。絶対に」
ボクシングのような格闘技が、この館にあるのかと僕は一瞬考えた。
次の日。
気分的に強風。
僕は仕事を休んでルージー夫妻の部屋の前で、どぎまぎしていた。
中にはきっと、あの金髪の少女もいるかも知れないけど、しかめっ面のおじさんと顔を火傷した陰気なおばさんがいる。
正直、複雑な気分だよ……。
金髪の少女と出会うのは正直とても嬉しい。だけど、何となく心が金縛りになって、にっちもさっちもいかない。でもせっかくお見舞いと、100万クレジットの使い道をコルジンと考えたんだ。
ノックをする。
「おお。リスヘル入れ」
中からしかめっ面じゃないおじさんの元気な返答がした。
「お邪魔します」
僕は顔の表情に極力、意識を向けて部屋へと入ると、そこにはキッチンと小さいテーブルの部屋に黒のガウンを着た。ルージー夫妻の夫の方がちょこんと座っている。
せせこましいが、奥の幾つもあるベットには、きっとルージー夫人が寝込んでいるのだろう。
しかめっ面だったおじさんは何やら、機嫌が良いみたいだ。そして、僕のことをリスヘルと呼んだ。
「リスヘル。昨日はありがとな」
小さいテーブルに座っているおじさんが、お礼をしてきた。
「いえ……。それと、僕は……ヨルダン」
「言わなくていい。いや、言わないでくれ。今、お茶を入れるよ」
上機嫌でしかめっ面ではないおじさんはテーブルから立つと、キッチンに向かう。
奥から顔をだした金髪の少女は濡れたタオルを片手に、キッチンに歩いてきた。
少女と目が合う。
僕は心臓の音が気になるけど……。元気に少女に話しかけた。僕は物怖じなんてしない。
「なんて名前なの君は。良かったら教えて」
黄色のワンピースの少女は微笑んで、
「私はロッテ。この館の唯一の医者の娘。あなたは誰? リスヘル? それともヨルダン?」
少女は小首を傾げる。
僕は紛らわしいなと思ったが。
「僕はヨルダン。ルージー夫人の顔は大丈夫?」
「ええ。火傷は酷いけど。父からよく効く薬と鎮痛剤を貰っているから。今はぐっすりよ」
この館にも薬があるようで、僕はホッとした。風邪をひいたら大変。治らないで館の探険が一生出来なくなる。
「おお。ロッテもここに座りなさい。後、リスヘルも」
ルージーおじさんはにこにこして、僕たちを小さいテーブルに落ち着かせた。淹れたてのハーブティーだ。
それと、雲助のことも覚えてくれていて、きゅうりの入ったカップを差し出した。
「た、食べにくい……」
雲助はカップの中で四苦八苦する。
僕はコルジンとの話を頭の中で反芻する。しょうがない。……お金を分けてあげよう。僕はルージーおじさんにお金の話をすることにした。不思議と今のおじさんからは嫌な気分がしなかったのも事実だ。
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