8 / 33
不思議なドア
8話
しおりを挟む
グッテンの質問に僕は俯いた頭を振る。コルジンにお金を借りるのがとても悪い気がした。雑巾片手のコルジンが不思議がって、作業をしながらこちらに向く。
「どうしたんだい?」
僕を見つめるコルジンの顔の辺りが柔和になる。
グッテンは申し訳なさそうに頭を掻いてから、
「いや、私のせいでヨルダンが、ハリーのショーのためのお金をピンクのドアで、使ってしまったのさ。悪いがお金を貸してくれないか」
「それならいいぜ。あ、それなら俺と一緒に行こうぜ。おチビちゃん。言ってみりゃ君は俺の友達以上のちびっ子さ。大抵は金も貸してやるし、飯、寝床、風呂なんでもござれだ」
コルジンが顔をそのままにガッツポーズをした。
「ご安心下さい」
いきなり後ろの方から女性の事務的な声がした。
僕たちが振り向くと、丁度、天使の扉付近にいる。あの恐ろしく細い女がこちらに歩いて来た。
「ヨルダン様は途中までですが、お仕事をなさいました。私の上司のハリー様からそれでも、給料を全額支払ってくれとのことです」
僕はこの広い部屋と同じくらいに急に心が広くなった。もうすっきり爽快だ。明日、ハリーに会ったらお礼を言おう。それと、僕にお金を物怖じしないで貸してくれようとしたコルジンにもお礼をしなくちゃ。
「コルジン! お姉さん! 本当にありがとう! 僕こんなに嬉しい時は今までなかった!」
コルジンがよかったなと笑顔を向けて、洗剤の匂いをぷんぷんした手で僕の頭を軽く叩いた。
乾いた音が辺りに響いた。
思えば、この館に来て最初に出会ったのはコルジンだった。すぐに僕を泊めてくれて、食事も食べさせてくれた。僕がどこから来たのかも全然気にしてなくて……。グッテンも館を……僕が外館人で変わり者なのに……気にせずに案内してくれた。
初めて僕はこの館で友達を得た。
「お礼は結構です」
細い女が抑揚のない声で言った。
僕はコルジンとグッテンに出会えた喜びをそのまま顔に出していた。
ハリーも、もう友達になったのかも知れない。
「よかったなヨルダンくん。この館の人は君を受け入れてくれたようだ。勿論、私もだよ。外館人よ」
グッテンは爽やかな表情で僕の頭を、レタスを持ちながら軽く叩いた。
「ねえ、お姉さん。明日のハリーのショーは何時頃なの。僕は絶対に行かなきゃならないんだ。ハリーさんと約束したし……。コルジンと一緒に行くよ。あ、グッテンは?」
「私も行こうかな……」
グッテンは急に不穏な顔をしてそっぽを向いた。震える手で、片手サイズになったレタスを強く握り潰した。
「一緒に行こうなおチビちゃん。楽しもうぜ」
細い女がポケットから小さい紙切れを取り出すと、読み上げた。
「確認します。……明日の午後13時から20時までです」
「昼飯を食い終わってからだな。仕事は午前中だけやることになるな」
コルジンは遠い方を見る顔をした。
「図書館の案内は明日は無理だな。明後日にしようか。後、大浴場の案内もしてあげたいが……」
グッテンがやや真剣でトーンを下げた声色をしていたが、僕は胸いっぱいだったのでまったく気にしなかった。明日はハリーのショーだ。
僕は今日、寝むれないだろう。こんな素晴らしい日があるなんて!
「中の中には入っちゃなんね!」
雲助が何やら叫んだが僕の耳は機能しなかった。
「どうしたんだい?」
僕を見つめるコルジンの顔の辺りが柔和になる。
グッテンは申し訳なさそうに頭を掻いてから、
「いや、私のせいでヨルダンが、ハリーのショーのためのお金をピンクのドアで、使ってしまったのさ。悪いがお金を貸してくれないか」
「それならいいぜ。あ、それなら俺と一緒に行こうぜ。おチビちゃん。言ってみりゃ君は俺の友達以上のちびっ子さ。大抵は金も貸してやるし、飯、寝床、風呂なんでもござれだ」
コルジンが顔をそのままにガッツポーズをした。
「ご安心下さい」
いきなり後ろの方から女性の事務的な声がした。
僕たちが振り向くと、丁度、天使の扉付近にいる。あの恐ろしく細い女がこちらに歩いて来た。
「ヨルダン様は途中までですが、お仕事をなさいました。私の上司のハリー様からそれでも、給料を全額支払ってくれとのことです」
僕はこの広い部屋と同じくらいに急に心が広くなった。もうすっきり爽快だ。明日、ハリーに会ったらお礼を言おう。それと、僕にお金を物怖じしないで貸してくれようとしたコルジンにもお礼をしなくちゃ。
「コルジン! お姉さん! 本当にありがとう! 僕こんなに嬉しい時は今までなかった!」
コルジンがよかったなと笑顔を向けて、洗剤の匂いをぷんぷんした手で僕の頭を軽く叩いた。
乾いた音が辺りに響いた。
思えば、この館に来て最初に出会ったのはコルジンだった。すぐに僕を泊めてくれて、食事も食べさせてくれた。僕がどこから来たのかも全然気にしてなくて……。グッテンも館を……僕が外館人で変わり者なのに……気にせずに案内してくれた。
初めて僕はこの館で友達を得た。
「お礼は結構です」
細い女が抑揚のない声で言った。
僕はコルジンとグッテンに出会えた喜びをそのまま顔に出していた。
ハリーも、もう友達になったのかも知れない。
「よかったなヨルダンくん。この館の人は君を受け入れてくれたようだ。勿論、私もだよ。外館人よ」
グッテンは爽やかな表情で僕の頭を、レタスを持ちながら軽く叩いた。
「ねえ、お姉さん。明日のハリーのショーは何時頃なの。僕は絶対に行かなきゃならないんだ。ハリーさんと約束したし……。コルジンと一緒に行くよ。あ、グッテンは?」
「私も行こうかな……」
グッテンは急に不穏な顔をしてそっぽを向いた。震える手で、片手サイズになったレタスを強く握り潰した。
「一緒に行こうなおチビちゃん。楽しもうぜ」
細い女がポケットから小さい紙切れを取り出すと、読み上げた。
「確認します。……明日の午後13時から20時までです」
「昼飯を食い終わってからだな。仕事は午前中だけやることになるな」
コルジンは遠い方を見る顔をした。
「図書館の案内は明日は無理だな。明後日にしようか。後、大浴場の案内もしてあげたいが……」
グッテンがやや真剣でトーンを下げた声色をしていたが、僕は胸いっぱいだったのでまったく気にしなかった。明日はハリーのショーだ。
僕は今日、寝むれないだろう。こんな素晴らしい日があるなんて!
「中の中には入っちゃなんね!」
雲助が何やら叫んだが僕の耳は機能しなかった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる