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人間性
43話
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放送が終わると、私と島田と弥生は105号室から奈々川さんの元へと駆け出した。
「ひゅー。ひゅー。さっすが奈々川さん。俺が奴らを野球でぶっ飛ばしてやるよ」
島田は有頂天だ。
「晴美さん。今度こそ矢多辺を完膚なきまでにフッちゃいましょ」
弥生が涙を溜めた笑顔で奈々川さんと抱き合った。
「奈々川さん。勝ったらまた一緒に暮らそう」
私は優しく言った。
曇りの空の下、私たちのアパートの周囲には、ちょっとした人の集まりになっていた。私たちの周りに、ラーメンショップ(嵐のラーメン)の店主。遠山 紙魚助と女性バイト。コンビニのアルバイトの青年。流谷 正章。淀川 次郎。淀川の娘さん。山下 豊。山下の娘さん。青緑荘に住んでいる広瀬 義和。
全員近所の人たちが集まっていた。
みな涙を流している。
「俺たちでよかったら応援するよ。奈々川お嬢様」
みんなが口々に言う。私はその人たちの体格を観察した。
ラーメン屋の店主、遠山は背が低いが、腕を使う職を長年している。その真っ黒い髪は野球帽を被ると様になるだろう。40そこそこである。
コンビニのアルバイトの青年 流谷 正章は、毎日ジョギングをしていると言った。長身だしこれなら走り回ることに期待出来る。茶髪の髪は少し長めだ。20代だ。
淀川は実はB区の近くに店を構えているので毎日自転車を使い。遠回りで危なくない道を走る。脚がよさそうだ。少し痩せ型だが年は35くらいだろうか。
山下は頑丈そうな顎の持ち主であった。これならスイングも投げるのも出来そうだ。
こちらも30代だろう。
広瀬は私たちの青緑壮の住人で、年は20代。立派な胸筋をしていて、これならスイングが似合う。大学生である。
「みんな……。俺たちと一緒に戦ってくれ」
私はみんなに頭を深く下げた。
次の日の。ここは第三公園。
私たちと近所の人たちと基礎トレーニングをしていた。
「夜っちゃん。俺はキャッチャーをするよ」
津田沼はキャッチャーマスクを被り、隣の田場さんにボールを渡した。
「俺はバットの方がいい。このボールは誰かに渡してくれ」
田場さんも仕事を三週間も休んで参加してくれた。田場さんが言うには、ハイブラウシティ・Bが進行していて、もう肉の仕分けをする人がノウハウに変わっているということだ。津田沼も危機感を感じ、すぐに私に電話してきた。
これから毎日は基礎トレーニング。
後、三週間しかないのだ……。
毎日、早朝に三時間のジョギングを耐え抜き、バッティングセンターで最高速度の球を打ち。そのあとはうさぎ跳びで腰を鍛えた。懸垂に指立てふせ、背後からの捕球に慣れ、フットワークを身に着ける。複雑な野球のルールも覚えた。血を吐きそうな訓練だったが、一通りの野球戦法も学ぶ。
しばらくして、奈々川さんは一人づつ特技を付けた方がいいと言って、私たちに役割を与え、負担を軽減してくれた。私は目と素早い腕を使えるので、スイングと送球、捕球の訓練で肩を鍛え。島田と田場さん、広瀬はホームランなどの強打者用の訓練。遠山はその腕で投手としてスリークオーター・スローというフォームを体得。淀川と山下、流谷はひたすら走り回ることと、色々なバントの訓練。津田沼はキャッチャーと捕球の訓練。
野球場はB区の一番安いが本格的な球場を9千万円で奈々川さんが契約した。
監督兼マネージャーは奈々川さんだ。
試合当日。
「皆さん。こんにちはー。ここはB区のスーパー・ホーン野球スタジアムです。司会は私、元谷 博。と、伝説のホームラン王 永田 翔太です」
ここはスーパー・ホーン野球スタジアム。
観客席から、司会の元谷と永田は紅茶の入った紙コップの置いてある机に座っている。
元谷は30代前後の髭をきっちりと剃ったメガネ男で、永田はでっぷりと脂肪を蓄えた腹の40代そこそこである。過去の偉業は今では跡形も無い。
「凄い観客数ですねー永田さん。それにテレビ局も……。あ、云話事町TVの美人のアナウンサーだ。私、フャンなんですよ」
「ええ……。これはプロ顔負けになりますよ」
観客席にはB区とA区の人々で盛大に賑わっている。
「なんたって、奈々川首相のお嬢様の人気が凄い! このスタジアムは奈々川 晴美さんの応援に駆け付けた人たちでごった返していますね!」
元谷は面前のマイクを気にせずに話す。
「ええ。そうです。何せハイブラウシティ・Bが今現在進行中ですから、私たちの生活はどうなるのでしょうか?」
「永田さん。あなた野球もノウハウがやるんじゃないかって思ってます?」
「……」
「皆さん。頑張ってください。今は目の前の試合だけに集中して下さい。お願いします」
野球場の狭いベンチで奈々川さんが、私たちAチームに深々と頭を下げた。
私たちはブルーのラインのあるユニフォームを着ている。
「俺、頑張るから」
私は軽く野球ボールを投げる格好をした。
「夜鶴―! 俺一人で何とかしてしてやるぜ!」
島田が吠えた。
「そうだ! 俺も一人で何とかしてやる!」
田場さんだ。
「奈々川さん。俺も微力ながら頑張るよ、必死に」
津田沼は奈々川さんに向かってキャッチャーマスクを被った。
「奈々川さん……」
コンビニの店員だった流谷が頬を赤らめポツリと言った。
「さあ、対するわ。Bチームですね。矢多部 雷蔵さんはきっと、プロの選手を雇っているのでしょうかね?」
観客席の賑わいを気にせず元谷が首を向ける。しかし、Bチーム側のベンチには誰もいなかった。
「さあ、どうでしょうか。対抗するAチームは悪く言うと草野球チームですから、それがプロ野球選手にどうやって戦うかですね」
永田はベンチに誰も座っていないのを不思議がってはいるが、勝負が楽しくなるのではと少しだけ期待をしていた。
「あ!?」
元谷がテーブルに設置してあるマイクに向かって叫んだ。
なんと、Bチームのベンチの奥から9個のピラミッド型の黒い箱が現れ、その箱からそれぞれノウハウが9体歩いてきた。
「なんと、Bチームはノウハウ軍団かー!?」
「ひゅー。ひゅー。さっすが奈々川さん。俺が奴らを野球でぶっ飛ばしてやるよ」
島田は有頂天だ。
「晴美さん。今度こそ矢多辺を完膚なきまでにフッちゃいましょ」
弥生が涙を溜めた笑顔で奈々川さんと抱き合った。
「奈々川さん。勝ったらまた一緒に暮らそう」
私は優しく言った。
曇りの空の下、私たちのアパートの周囲には、ちょっとした人の集まりになっていた。私たちの周りに、ラーメンショップ(嵐のラーメン)の店主。遠山 紙魚助と女性バイト。コンビニのアルバイトの青年。流谷 正章。淀川 次郎。淀川の娘さん。山下 豊。山下の娘さん。青緑荘に住んでいる広瀬 義和。
全員近所の人たちが集まっていた。
みな涙を流している。
「俺たちでよかったら応援するよ。奈々川お嬢様」
みんなが口々に言う。私はその人たちの体格を観察した。
ラーメン屋の店主、遠山は背が低いが、腕を使う職を長年している。その真っ黒い髪は野球帽を被ると様になるだろう。40そこそこである。
コンビニのアルバイトの青年 流谷 正章は、毎日ジョギングをしていると言った。長身だしこれなら走り回ることに期待出来る。茶髪の髪は少し長めだ。20代だ。
淀川は実はB区の近くに店を構えているので毎日自転車を使い。遠回りで危なくない道を走る。脚がよさそうだ。少し痩せ型だが年は35くらいだろうか。
山下は頑丈そうな顎の持ち主であった。これならスイングも投げるのも出来そうだ。
こちらも30代だろう。
広瀬は私たちの青緑壮の住人で、年は20代。立派な胸筋をしていて、これならスイングが似合う。大学生である。
「みんな……。俺たちと一緒に戦ってくれ」
私はみんなに頭を深く下げた。
次の日の。ここは第三公園。
私たちと近所の人たちと基礎トレーニングをしていた。
「夜っちゃん。俺はキャッチャーをするよ」
津田沼はキャッチャーマスクを被り、隣の田場さんにボールを渡した。
「俺はバットの方がいい。このボールは誰かに渡してくれ」
田場さんも仕事を三週間も休んで参加してくれた。田場さんが言うには、ハイブラウシティ・Bが進行していて、もう肉の仕分けをする人がノウハウに変わっているということだ。津田沼も危機感を感じ、すぐに私に電話してきた。
これから毎日は基礎トレーニング。
後、三週間しかないのだ……。
毎日、早朝に三時間のジョギングを耐え抜き、バッティングセンターで最高速度の球を打ち。そのあとはうさぎ跳びで腰を鍛えた。懸垂に指立てふせ、背後からの捕球に慣れ、フットワークを身に着ける。複雑な野球のルールも覚えた。血を吐きそうな訓練だったが、一通りの野球戦法も学ぶ。
しばらくして、奈々川さんは一人づつ特技を付けた方がいいと言って、私たちに役割を与え、負担を軽減してくれた。私は目と素早い腕を使えるので、スイングと送球、捕球の訓練で肩を鍛え。島田と田場さん、広瀬はホームランなどの強打者用の訓練。遠山はその腕で投手としてスリークオーター・スローというフォームを体得。淀川と山下、流谷はひたすら走り回ることと、色々なバントの訓練。津田沼はキャッチャーと捕球の訓練。
野球場はB区の一番安いが本格的な球場を9千万円で奈々川さんが契約した。
監督兼マネージャーは奈々川さんだ。
試合当日。
「皆さん。こんにちはー。ここはB区のスーパー・ホーン野球スタジアムです。司会は私、元谷 博。と、伝説のホームラン王 永田 翔太です」
ここはスーパー・ホーン野球スタジアム。
観客席から、司会の元谷と永田は紅茶の入った紙コップの置いてある机に座っている。
元谷は30代前後の髭をきっちりと剃ったメガネ男で、永田はでっぷりと脂肪を蓄えた腹の40代そこそこである。過去の偉業は今では跡形も無い。
「凄い観客数ですねー永田さん。それにテレビ局も……。あ、云話事町TVの美人のアナウンサーだ。私、フャンなんですよ」
「ええ……。これはプロ顔負けになりますよ」
観客席にはB区とA区の人々で盛大に賑わっている。
「なんたって、奈々川首相のお嬢様の人気が凄い! このスタジアムは奈々川 晴美さんの応援に駆け付けた人たちでごった返していますね!」
元谷は面前のマイクを気にせずに話す。
「ええ。そうです。何せハイブラウシティ・Bが今現在進行中ですから、私たちの生活はどうなるのでしょうか?」
「永田さん。あなた野球もノウハウがやるんじゃないかって思ってます?」
「……」
「皆さん。頑張ってください。今は目の前の試合だけに集中して下さい。お願いします」
野球場の狭いベンチで奈々川さんが、私たちAチームに深々と頭を下げた。
私たちはブルーのラインのあるユニフォームを着ている。
「俺、頑張るから」
私は軽く野球ボールを投げる格好をした。
「夜鶴―! 俺一人で何とかしてしてやるぜ!」
島田が吠えた。
「そうだ! 俺も一人で何とかしてやる!」
田場さんだ。
「奈々川さん。俺も微力ながら頑張るよ、必死に」
津田沼は奈々川さんに向かってキャッチャーマスクを被った。
「奈々川さん……」
コンビニの店員だった流谷が頬を赤らめポツリと言った。
「さあ、対するわ。Bチームですね。矢多部 雷蔵さんはきっと、プロの選手を雇っているのでしょうかね?」
観客席の賑わいを気にせず元谷が首を向ける。しかし、Bチーム側のベンチには誰もいなかった。
「さあ、どうでしょうか。対抗するAチームは悪く言うと草野球チームですから、それがプロ野球選手にどうやって戦うかですね」
永田はベンチに誰も座っていないのを不思議がってはいるが、勝負が楽しくなるのではと少しだけ期待をしていた。
「あ!?」
元谷がテーブルに設置してあるマイクに向かって叫んだ。
なんと、Bチームのベンチの奥から9個のピラミッド型の黒い箱が現れ、その箱からそれぞれノウハウが9体歩いてきた。
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