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カレンダーに油性ペンでバツを入れた。雨はとりわけて嫌いだった。雨が降る日には必ずバツを入れている。晴れの日には特別な星のマーク。曇りの日にもやっぱりバツを入れていた。
カレンダーは3月10日から17日までバツで埋まっている。
雨漏りがする安アパートの片隅で燻っていた。コーヒーを淹れ、ヒーターを点けた。コーヒーの湯気を見つめて、あの時のことを想うと……。
いっそのことカレンダーを黒で塗りつぶしたくもなるんだ。
3月9日に出会ったんだ。
市営地下鉄から関西方面へと、仕事の都合でお得意様に会いに行った。乗客もまばらで駅弁を買って、ちょっとした旅行気分で楽しんでいると、急に眠くなった……。
…………
桃色の光で自然と目を開けた。やけに電車の照明が強いなと思ったら、光源は照明ではないみたいだ。知らない駅の満開の桜の木々が桃色の光の光源だった。
春の桜の駅。
関西方面に明るくないからか、しっかりとそう書かれた駅名を見つめ狐につままれた気分になった。勿論、全く知らない。一度も来たことがない駅だ。
車窓から、しばらく桜をぼんやり見ていると、
「お隣いいですか?」
若い声がぼくの鼓膜に優しく震えを伝えた。
座席はがらんどうとしていたのに、ぼくは快く「いいですよ」と答えていた。自然な反応だったのは、その人が美人だったからだ。
年はぼくと同じ20代前半。
長髪で長い耳に印象的なアクセサリーがついたスレンダーな人だった。
それは桜を模したアクセサリーだった。
「良く似合っていますね。そのアクセサリー」
「ええ。この季節にはいつもそう言われているんですよ」
カレンダーは3月10日から17日までバツで埋まっている。
雨漏りがする安アパートの片隅で燻っていた。コーヒーを淹れ、ヒーターを点けた。コーヒーの湯気を見つめて、あの時のことを想うと……。
いっそのことカレンダーを黒で塗りつぶしたくもなるんだ。
3月9日に出会ったんだ。
市営地下鉄から関西方面へと、仕事の都合でお得意様に会いに行った。乗客もまばらで駅弁を買って、ちょっとした旅行気分で楽しんでいると、急に眠くなった……。
…………
桃色の光で自然と目を開けた。やけに電車の照明が強いなと思ったら、光源は照明ではないみたいだ。知らない駅の満開の桜の木々が桃色の光の光源だった。
春の桜の駅。
関西方面に明るくないからか、しっかりとそう書かれた駅名を見つめ狐につままれた気分になった。勿論、全く知らない。一度も来たことがない駅だ。
車窓から、しばらく桜をぼんやり見ていると、
「お隣いいですか?」
若い声がぼくの鼓膜に優しく震えを伝えた。
座席はがらんどうとしていたのに、ぼくは快く「いいですよ」と答えていた。自然な反応だったのは、その人が美人だったからだ。
年はぼくと同じ20代前半。
長髪で長い耳に印象的なアクセサリーがついたスレンダーな人だった。
それは桜を模したアクセサリーだった。
「良く似合っていますね。そのアクセサリー」
「ええ。この季節にはいつもそう言われているんですよ」
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