上 下
3 / 5
何もかも新しくなっていく

しおりを挟む
 何もかも進んでいってしまって、ぼくは置いてけぼりの気分だよ。

 時代という名の怪物の手綱を握っている人たちは、それでいいんだろうけれども。置いていかれてしまったものは、その怪物の手綱すら握れずに、いつも後ろを追いかけるように、俯いて歩かないといけないんだ。

 そんなある日。

 ぼくの持っているポイントが消えた。

 無駄遣い?
 本をたくさん買いすぎたから?
 バイト先での人々と交流して疲れたから? 振り回されたから?

 いや、どれも違うんだ。

 ぼくがスマホをどこかで無くしたんだ……。

…………

 市の管理システムに、ぼくはすぐに紛失届けをだしたけど、きっと、もう遅いんだ。スマホの紛失はこの時代では致命的だった。ポイントが消滅したも同じだ。ポイントがないと生きていけない。そして、ぼくの市民としての存在価値の消滅も意味しているんだ。

 確かにスマホは、もう一人のぼく自身だ。
 ぼくの持ち物で、ぼくだけしか持ってはいけない。

「スマホ……すぐに見つかればいいんだけどな……」

 せっかく爆買いした電子書籍ももう読めない。
 気に入った「春風と共に桜はすぐに散る」はまだ読んでいないけど、もう読めないのだ。
 
 ぼくはそう思い。沈んだ気持ちで何気なく。あの本屋の前へと来てしまっていた。今じゃ店の壁は全て透明なパネル式なんだ。ぼくは自然とパネル越しから彼女を探していた。
 本屋の中央に彼女はいた。どうやら、石井さんはスクリーン上をタッチしたりして、本棚のメンテナンスをしているようだ。
 そしたら、ぼくに気がついてくれた石井さんが、店内からこちらに向かって、パネル越しに手を振ってくれた。

 広い店内へ入ると、彼女はぼくの話を聞いて。

「スマホを失くしたの? 大変よねえ、それは……。あ、でも。市の位置検索システムが作動するから」
「位置検索システム? それでも、見つからなかったら?」
「プッ! クスクス……。大袈裟ねえ」
「そうかな?」
「そうよ。すぐに見つかると思うわ」
「そ! それは良かった!」
「それまでここで働かないかしら? 店員さんが私だけなのはいいんだけど、本棚のメンテナンスとかもやらないといけないの」
「って、この本屋の全部の本棚を?」
「そうよ……」
「あれ? あそこの本棚だけ何も映ってないや」
「ああ、故障しているの。でも、時々、人の声が聞こえるんですって……」
「へえ、幽霊でもいるのかな? それともグレムリン?」

 そして、ぼくと彼女の本屋でのとても奇妙な……そして、大変だけどバイト生活が始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

処理中です...