スクリーン上の本棚から君へ

主道 学

文字の大きさ
上 下
2 / 5
本も時代と共に

しおりを挟む
「あのー? 失礼ですが、石井 智子というこの本の作者さんと同じ名前なんですね。奇遇ですね。ぼくはファンになろうかと思うんです。石井 智子さんの。ぼく。このPRがとても気に入っちゃって……あ、すいません」

 彼女はやっぱりこの本の作者だったようで、恥ずかしかったのだろうなあ。次の言葉でぼくはそれが確信へと至った。 

「ふうー、いいんですもう……実は……その本は私が4年前に書いた本なんです。もう、全然売れなかったんです。それで、今は紙の本がなくなったでしょ。それですぐに絶版になっているんですけど、ここの本屋さんの店長がどうしてもというから……本棚に並べているんです。私、それが恥ずかしくて恥ずかしくて。ここ辞めようとも思った時もあるんですよ」
「どうして?」
「6年前のひどい大失恋を書いたんです」

 彼女はそういうと、はずかしそうな怒っているような顔で、プイッと背を向けた。

 本のタイトルは「春風と共に桜はすぐに散る」だった。
 4年前は紙の本はたくさんあったんだ。

 けれど……今はないんだね。

 受付には彼女はいない。

 そもそも、レジなんてないんだ。
  
 ぼくはスマホをズボンのポケットから取り出して、端末で会計を済ませた。
 お給料を前月に貰ったけれど、その時のお金が11万ポイントだから、無駄遣いしない限りは、今月は大丈夫だろう。

 結局、この本屋で買った本は、なんと20冊。
 占めて2万ポイントだ。
 爆買いしたんだ。

 機械は嫌いだけれど、こればっかりはしょうがないじゃん。
 ぼくは本が好きだ。
 それが、現実だし。

 お給料はポイントで全て統一されて、正社員は20万ポイント。公務員は18万ポイント。バイトは11万ポイントとなっている。全て平等に配られるんだ。
 
 お給料は上がることもなく、下がることもない。

 ポイントの配分日もみんな一緒だった。

 今や、スマホがないと、財布がないのと同じだった。保険証、免許証、身分証明書、クレジットカード、銀行、現金、年金。後、お得なポイントキャンペーンに自宅でも観れるニュースにテレビetc.etc.おおよそ必要なものは全部付いているんだね。

 なんでもかんでも一つになったんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛
 私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。  私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。  だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。  今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。  彼は心は自由でいたい言っていた。  その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。  友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。  だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

処理中です...