降る雨は空の向こうに

主道 学

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おわりに

44話

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美しい草原。小鳥や小動物などの鳴き声。川の健やかな流れの音。ゴミ一つも小石もない道。タンポポや満開な桜が所々顔を出していた。木々は眩しい陽光によって、葉には生命の色合いが息づいている。
ここは、何もかもが美しい。
智子は自転車で天の園を一周するため、草原にできた丘を走っていた。
時折、自転車の籠にあるウーロン茶の入ったペットボトルを一飲みし、智子は元気よくペダルを漕いだ。


 隆は二階建ての新築から大型トラックに乗って、仕事へと出勤する時間だ。今日も家具の配送だ。下界に戻ると隆は里見のためと別の職を見つけた。
 何でも日給制の仕事なのだそうだ。
 天の園から下界へと戻ると、僅か一週間しか経っていなかった。
 里見は竹原という人の家で蘇った。不思議なことだが、雨の大将軍の許可を取り、肉体はどうするかと隆が思っていると、正志が前から考えていた冷凍保存した里見の肉体に魂が戻ったようだ。
 里見が中島 由美と中友 めぐみと、一緒に学校へと行く時間だった。隆は強い眼差しでキッチンで朝食の自分の分の片づけをしている。

 外は快晴で、テーブルの茶碗や箸や皿には、太陽からの暖かい生命の色が映えていた。
 あれから、新聞にはここ取手市では雨の日に不幸が起きることは載らなくなった。
 玄関のチャイムが鳴った。
 隆は朝食の目玉焼きのご飯を頬張る里見の頭を軽く撫でて玄関へと向かう。ドアを開けると、一人の西洋人の郵便配達員がにっこりと手紙を差し出した。
 隆がその手紙を受け取ると、郵便配達員は赤い大きな箱が取り付けられた小型のバイクへと戻って行った。
 隆は手紙を開けると、天の園の智子からの手紙だった。
「拝啓。玉江 隆さん。私の唯一の夫へ。
 今は天の園を自転車で一周しようと頑張っています。ここには楽しさや美しさ。それに、幸せがあります。時々、あれから復興した虹とオレンジと日差しの町で買った携帯電話で、24時間のお姉さんと電話をしたり、お義父さんとお義母さんに電話をしたり、旅先では、24時間のお姉さんとモルモルさんは雨の大将軍を、今でも根気よく説得をしている。と、時々遊びにくる黒田という人に聞いたり……。その友人の宮寺という人から、シンシアとシンシアのお父さんとお母さんに店で働かないかと言伝をされたり……。
 人々とのお話はとても面白くて、ここで4年の歳月が通り過ぎましたので、ついつい日常のことなどを話過ぎて、時を失います。天の園の出来事は無限にあるのです……。

 隆さんは、きっとこれからも小さな不幸や大きな不幸を体験するでしょう。けれど、それに比べて、幸運はきっと掛け替えなく素晴らしいものでしょう。例えほんの小さな幸運でも……。何故なら、不幸の次にはいつかは必ず幸運がやってくるものではないでしょうか。幸運も不幸も生きていくことには、掛け替えのない大事な起伏です。そう、私がこれから走る道なき道のように……。ですから、隆さんは不幸でも幸運でも精一杯生きていてほしい……と、私は願います。必ず。ここで隆さんと里見ちゃんを見守りますから……。
 追伸……家のローンはまだありますね……。でも、きっと、あなたなら大丈夫です。後、私の最愛の娘……里見ちゃんを立派に育ててくださいね……」
 隆は手紙を暖かい目をして読んでいた。
 時折、涙で手紙が濡れることがあるが、隆は精悍な顔で涙を拭いた。

 それは、これからの不幸に対する。精一杯の兵士の顔であった。
「里見ちゃん!! 行くよー!!」
 中島 由美と中友 めぐみが玄関を開けた。
「待ってー!!」
 里見は大き目の目玉焼きを無理に頬張り、テーブルの椅子に立て掛けていたランドセルをかっさらうと、玄関へと転がり込む。
 隆は中友 めぐみの小さな顔をキッチンから覗く。高校生になったら車には重々気を付けてということを言ってあげるつもりだった。
 あれから、天の園への生き方の上下巻がなくなり、何故か天の園へは行けなくなった。脇村三兄弟は三人とも無事だったからだろう。と、正志がそう言っていた。正志の話では、酸性雨が降ったのは、雨の大将軍の心の中の葛藤を表す自然現象だったようだ。その酸性雨は今はもう降らなくなった……。


 隆は前に正志と瑠璃に、大金を支払うべく依頼料は幾らか聞きに行ったが。けれども、瑠璃がかなりの額を神々の住む都市で儲けたので、そして、正志と瑠璃が前よりも遊ばなくなったので必要ないと言ってきた。
 稲垣 裕美は今でもフレッスで働いている。


 手紙を大事に茶箪笥に挿し込むと、隆は智子のいない家から仕事へと出かけた……。
 
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