41 / 44
知恵比べ
41話
しおりを挟む
倒れた隆は顔を上げる。目の前には2メートルの巨大な体躯の雨の大将軍が、肩肘をついて透き通る氷でできた玉座に座っていた。
鎧武者が着ている黒い鎧ではなく。潔癖な白い鎧を着込んでいた。白い兜からは目に見えない威光が迸っている。聡明そうな目は憂いに変わり、白髪の頭は何千年も悩み事を抱えていた。
まるで、銀世界から現れた王者のようだ。
奥行きのある壁の至る所に澄んだ水が滝のように流れた巨大な謁見の間だった。その中央の玉座の後ろにはこれまで見たことのない清流が流れ、両脇の水路へと流れている。玉座の周りには江戸時代から出てきたような服装の人々が雨の大将軍に向かって、巨大な扇子で扇いでいた。まるで、一定の冷気を送らなければならないのだろうかと考えさせる。
雨の大将軍は面倒臭そうに隆を見つめた。
「どうだね。私は強そうに見えるかね?」
「ええ。間違いありません」
隆は起き上がり、すぐさま平伏した。そして、そう返答をして震え上がった。
隆の傍には青白い顔の侍が鞘に手をかけていた。他の侍は皆平伏していた。
「では、言ってみよ。お前は何故、私に会いに来た?」
「娘のためです」
雨の大将軍は首を振り、
「もう一度聞く。お前は何故、私に会いに来た?」
刀の鞘に手をかけた侍が刀を少しずつ抜いている音が隆の耳に入った。
隆は死に物狂いで頭を回転させる。自分は何故ここへ来たのだろう?その時、不幸が原因だったとこの時初めて思った。
「不幸を何とかするためです」
「では、どうやってなんとかする?」
隆は真っ青になって頭を捻る。ちょうどその時、黒田 裕のことが頭をよぎった。
「いずれにしろ。不幸でも幸運でも。ここ天の園。つまり、神々のところへと帰るのですから、私はどちらでもいいと思います。ですが、やはり私は人間ですから不幸は幸運の兆しだといいと思います」
雨の大将軍は難しい顔になった。
「…………。では、不幸な時には命を絶つのは、どう思うかね?」
「…………。それも、神々の元へと戻るのですから……」
隆はまた真っ青になって、頭を捻る。24時間のお姉さんと脇村三兄弟のことが、頭を過った。
「でも、自殺はよくはありません。何故なら人は神を信じなければいけないからです。神を信じることは、この神々の世界があるということを信じることになります。でも、人は自殺によって、人生を完成してしまうこともあります。私の友人は、神風特攻隊は家族や母国ための潔い戦死だと思っているのです。ですから、人によっては神の元へと行くことの違いがあると思います」
「ふむ……」
雨の大将軍は考えた。
「賢きものよ。お前は人間の世界では人間は何をしたらいいと思う?」
隆はまた真っ青になって、頭を捻った。その時、智子と里見が頭を過った。
「何かを産みだせばいいと思います」
雨の大将軍は突然、からからと笑った。
そこで、隆は寂しそうな顔の里見が頭を過った。
「あ、ですが。育てることや工夫することも重要だと思います」
雨の大将軍は頷いた。
「お前の望みを一度だけ聞こう」
「娘に会わせてください」
「解った」
雨の大将軍は満足して隆を牢に戻させた。
牢に帰る道中。
俺は元の世界へ戻れなくなったなと、隆は思った。
何も感慨が浮かばない。
智子は無事に元の世界へと帰っていってほしいと強く思った。
けれど、やっと娘に会える。
何やら宮殿内部が騒がしくなった。雨の宮殿の人々が走り回り、複数の水柱から降りて来た陣羽織の大勢の侍たちが、鉄砲やら大きい弓矢を持ち出している。長距離を狙える弓だ。
侍が幾本もの水路のような道を、慌てふためいて戦の準備をしている頃。とうとう、正面の隆が破壊した扉から、水流の牢へと向かう正志のカスケーダが、猛スピードで飛び込んできた。
侍たちが幾つもの大きな弓矢を構え始めた。
隆は血の気が引いた顔で叫んだ。
隆の目の前まで来たカスケーダは、正志が決死の形相で隆の周りにいる侍たちを蹴散らし、隆を逃がそうとする。
助手席の智子がドアを開け放ち、何とかボロボロの隆を車に引き入れようとした。
だが、一本の矢がカスケーダのフロントガラスを貫通した……。
鎧武者が着ている黒い鎧ではなく。潔癖な白い鎧を着込んでいた。白い兜からは目に見えない威光が迸っている。聡明そうな目は憂いに変わり、白髪の頭は何千年も悩み事を抱えていた。
まるで、銀世界から現れた王者のようだ。
奥行きのある壁の至る所に澄んだ水が滝のように流れた巨大な謁見の間だった。その中央の玉座の後ろにはこれまで見たことのない清流が流れ、両脇の水路へと流れている。玉座の周りには江戸時代から出てきたような服装の人々が雨の大将軍に向かって、巨大な扇子で扇いでいた。まるで、一定の冷気を送らなければならないのだろうかと考えさせる。
雨の大将軍は面倒臭そうに隆を見つめた。
「どうだね。私は強そうに見えるかね?」
「ええ。間違いありません」
隆は起き上がり、すぐさま平伏した。そして、そう返答をして震え上がった。
隆の傍には青白い顔の侍が鞘に手をかけていた。他の侍は皆平伏していた。
「では、言ってみよ。お前は何故、私に会いに来た?」
「娘のためです」
雨の大将軍は首を振り、
「もう一度聞く。お前は何故、私に会いに来た?」
刀の鞘に手をかけた侍が刀を少しずつ抜いている音が隆の耳に入った。
隆は死に物狂いで頭を回転させる。自分は何故ここへ来たのだろう?その時、不幸が原因だったとこの時初めて思った。
「不幸を何とかするためです」
「では、どうやってなんとかする?」
隆は真っ青になって頭を捻る。ちょうどその時、黒田 裕のことが頭をよぎった。
「いずれにしろ。不幸でも幸運でも。ここ天の園。つまり、神々のところへと帰るのですから、私はどちらでもいいと思います。ですが、やはり私は人間ですから不幸は幸運の兆しだといいと思います」
雨の大将軍は難しい顔になった。
「…………。では、不幸な時には命を絶つのは、どう思うかね?」
「…………。それも、神々の元へと戻るのですから……」
隆はまた真っ青になって、頭を捻る。24時間のお姉さんと脇村三兄弟のことが、頭を過った。
「でも、自殺はよくはありません。何故なら人は神を信じなければいけないからです。神を信じることは、この神々の世界があるということを信じることになります。でも、人は自殺によって、人生を完成してしまうこともあります。私の友人は、神風特攻隊は家族や母国ための潔い戦死だと思っているのです。ですから、人によっては神の元へと行くことの違いがあると思います」
「ふむ……」
雨の大将軍は考えた。
「賢きものよ。お前は人間の世界では人間は何をしたらいいと思う?」
隆はまた真っ青になって、頭を捻った。その時、智子と里見が頭を過った。
「何かを産みだせばいいと思います」
雨の大将軍は突然、からからと笑った。
そこで、隆は寂しそうな顔の里見が頭を過った。
「あ、ですが。育てることや工夫することも重要だと思います」
雨の大将軍は頷いた。
「お前の望みを一度だけ聞こう」
「娘に会わせてください」
「解った」
雨の大将軍は満足して隆を牢に戻させた。
牢に帰る道中。
俺は元の世界へ戻れなくなったなと、隆は思った。
何も感慨が浮かばない。
智子は無事に元の世界へと帰っていってほしいと強く思った。
けれど、やっと娘に会える。
何やら宮殿内部が騒がしくなった。雨の宮殿の人々が走り回り、複数の水柱から降りて来た陣羽織の大勢の侍たちが、鉄砲やら大きい弓矢を持ち出している。長距離を狙える弓だ。
侍が幾本もの水路のような道を、慌てふためいて戦の準備をしている頃。とうとう、正面の隆が破壊した扉から、水流の牢へと向かう正志のカスケーダが、猛スピードで飛び込んできた。
侍たちが幾つもの大きな弓矢を構え始めた。
隆は血の気が引いた顔で叫んだ。
隆の目の前まで来たカスケーダは、正志が決死の形相で隆の周りにいる侍たちを蹴散らし、隆を逃がそうとする。
助手席の智子がドアを開け放ち、何とかボロボロの隆を車に引き入れようとした。
だが、一本の矢がカスケーダのフロントガラスを貫通した……。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完結】会いたいあなたはどこにもいない
野村にれ
恋愛
私の家族は反乱で殺され、私も処刑された。
そして私は家族の罪を暴いた貴族の娘として再び生まれた。
これは足りない罪を償えという意味なのか。
私の会いたいあなたはもうどこにもいないのに。
それでも償いのために生きている。
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる