降る雨は空の向こうに

主道 学

文字の大きさ
上 下
32 / 44
神々が住む都市

32話

しおりを挟む
 遥か彼方にビルディングやデパート、色とりどりの住宅街や巨大な観覧車が見えてきた。大雪原からおおよそ二週間くらいである。
 地上には下界と同じ。まったく普通の格好の人々が生活をしていた。
 隆は地上へと車を降下させ、正志もそれに続いた。
 林立するビルディングの隙間を縫って、停車させたところは100円パーキングであった。
 ここは大都市といっていいほど、繁栄していた。虹とオレンジと日差しの町より遥かに大きく。人口はおおよそ140万人といえよう。

「本当にこんなところに神様がいるのかしら?」
 100円パーキングの駐車場へと100円玉を何枚か入れながら、智子が言った。
「神様のことだから本当なんだろう……」
 隆は項垂れた。半ば一文無しだったのだ。
 智子がいて良かったと思っていると、正志も100円玉を何枚か数えている。
「ねえ、正志さん。神様なら一緒に戦ってくれるんでしょ?私たちと……」
 瑠璃はこの都市にはパチンコや競馬がないかと思案していた。正志たちが重要な話の最中にこっそり抜け出して、一攫千金をしようかと考えている。恐ろしいこの世界でも、いつもの娯楽は精神安定剤になるはずである。
「ああ……。協力してくれればいいんだけど……。瑠璃、百円玉二枚あるか?」
 四人はすぐ近くの交差点へと歩いて行った。

 天気は快晴で陽射しが心地よく。風には色々な空気が混ざり、下界の大都会と大差ない。
 当てもないのでどうしようかと隆が思っていると、そこで24時間のお姉さんからの着信があった。
「ここから、交差点を左に曲がって、交番で大日幡建設(だいにちまんけんせつ)という会社を聞いてください。そこで私は働いていますから」
 電話を受けた隆は目を丸くして、
「神様なのに働いているんですか?」
「ええ、みんなそうですよ」


 無数の普通自動車やバスが行き交い。大勢の通行人も賑やかである。この天の園には珍しいコンビニがあった。クレープを売っている店やたこ焼き屋もあり、珍しい電話ボックスもあって、一人の男がにこやかに電話をしていた。
 駅や交番もあって、普通の都市である。
「ねえ、何か食べたくなるわ。あなた。……でも、この世界のものを食べるといけないって?」
 長身の智子はもともと食欲がおおせいな体質だった。
 瑠璃も正志も今になって、この世界の食べ物を食べてはいけないということを知った。
「ほしいなら、釣り具を使えよ」
 隆は念のために釣り具を持って来ていた。

 反対側の道路の交番では、一人の白い髪の背の高い警官が背広の中肉中背の若い男性と話していた。
「ですから、大聖堂で小便をした不届き者に天罰を下したいので、藤崎落雷サービスセンターへと行きたいんです。どっちへ行けば? そして、ここからは遠いので、すぐに乗れるタクシーのある駅はどちらですか?あ、でも、アポイントメントを取ってなくて、公衆電話を探したら、そしたら、財布をどこかに落としてしまっていて……」
 若い男性は背広姿で取り留めもない言葉を羅列している。
「えーっと……まずは財布を見つけて、それから?」
「えーっと、アポイントを取るためにタクシーに乗って? 次は駅の場所はどこですか?」
 隆は交番を見ると、急いでずんずんと巨漢を進めて白髪の警官と若い男性の間に割って入った。
 若い男性は微苦笑したが、無言で隆たちを見つめた。
「大日幡建設会社の場所が知りたいんですが? 私は娘に会うためにこの都市へとはるばる来ました」
 隆は気が高ぶることを気にも留めない。そのまま声にでていた。
 智子と正志たちも切迫して、白髪の警官と若い男性の間に割って入る。
 また、若い男性は微苦笑したが、気のいい人物のようで、何も言わなかった。
「えーっと、そちらは大日幡建設会社の住所が知りたい? こちらは財布を見つけたい? ……で、いいのかな?」


 隆たちは交番で大日幡建設の住所を何とか知りえた。
 四人で交番から西へと歩いて行くと、通行人が疎らになってきた。丁度、通勤時間や登校時間が過ぎていた。
 日差しは少々酷だが、汗を余り掻かずに済み。気温は24度くらいか。さほど大きくない会社でモルタル塗りだがモダンな造りの建物が見えてきた。
 営業の人だろうか。背広姿のサラリーマンやOLが行き交うガラス製のドアの出入り口を見て、四人は首を傾げた。

 こんなところに神様がいるなんて……。
 早速、四人で入り。受付に向かうと、正面に二人の同じ顔の女性が座った受付があり、両脇にはエレベーターが取り付けられていた。中央には羽ばたく鷹の彫像の口から水が湧き出る噴水が設置されてあった。
 他には何もない。まるで巨大なエレベーターホールに受付があるような造りだった。
 受付の女性は事務的に電話応対をしていたが、隆たちに気づくと受話器片手に「何の用ですか?」という顔をした。

「あの……時の神様の24時間のお姉さんはいらっしゃいますか?」
 隆はそう言ったが頭が混乱しそうだ。
 智子たちも同じである……。
 受付にいる二人の受付嬢は双子のようだ。
「お名前を……。後、アポイントメントは取っていますか?」
 受付嬢は受話器を持ったまま返答したが、けれども、不思議なことに通話中のはずのその電話が鳴りだした。
 しばらく、その電話の主と会話をしたのち、受付嬢は二人同時にこくんと頷き、ニッコリと微笑んで隆たちに二人同時に言った。
「12階の時の管理課です」
 4人はホールのエレベーターに乗った。普通の箱には二人の背広姿がいて、仕事の会話をしていた。何でもエベレスト山に登った登山家の安否を懸念しているといった内容だった。
 食料は足りるか、寝床は寒くないかなどと話している。


 隆は12階のボタンを押すと、箱がゆっくりと上がって、二人の背広姿は5階で降りて行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

海神の唄-[R]emember me-

青葉かなん
ライト文芸
壊れてしまったのは世界か、それとも僕か。 夢か現か、世界にノイズが走り現実と記憶がブレて見えてしまう孝雄は自分の中で何かが変わってしまった事に気づいた。 仲間達の声が二重に聞こえる、愛しい人の表情が違って重なる、世界の姿がブレて見えてしまう。 まるで夢の中の出来事が、現実世界へと浸食していく感覚に囚われる。 現実と幻想の区別が付かなくなる日常、狂気が内側から浸食していくのは――きっと世界がそう語り掛けてくるから。 第二次世界恐慌、第三次世界大戦の始まりだった。

【完結】雨上がり、後悔を抱く

私雨
ライト文芸
 夏休みの最終週、海外から日本へ帰国した田仲雄己(たなか ゆうき)。彼は雨之島(あまのじま)という離島に住んでいる。  雄己を真っ先に出迎えてくれたのは彼の幼馴染、山口夏海(やまぐち なつみ)だった。彼女が確実におかしくなっていることに、誰も気づいていない。  雨之島では、とある迷信が昔から吹聴されている。それは、雨に濡れたら狂ってしまうということ。  『信じる』彼と『信じない』彼女――  果たして、誰が正しいのだろうか……?  これは、『しなかったこと』を後悔する人たちの切ない物語。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

処理中です...