降る雨は空の向こうに

主道 学

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大雪原

31話

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「確かに……。取り敢えずは西へ行って、神々に会ってみましょう。里見ちゃんが蘇る方法があるかも知れません」
 正志も瑠璃とカスケーダへと向かう。
 隆は遥か南へと向かう巨大な象の群れを幾許か眺めていた。


 正志は車を運転しながら。隆が持っている天の裂け目への行き方の下巻のことを考えていた。この世界に最初に来た脇村三兄弟の二番目の弟は、この世界から戻って来ていない。それは、何故だろうか?
 正志は運転しながら黙考していたが、天の裂け目への行き方の下巻を隆から借りなければどうしようもないと判断したようだ。一旦、地上へと降りよう。大雪原から5日経ち、月の見える雲の上の家なども寝静まっていた。今では地上には夜の草原が広がっていた。
「隆さん。一旦地上へ降りて下さい」
 正志は携帯で話した。
 電話越しから隆の怪訝な言葉が返ってきたが、お願いしますと念を押した。
 前方の軽トラックが地上へと降りて行くと、正志も降下していった。

「正志さん。どうしたの? トイレに行くの?」
 瑠璃は釣り具で下界から釣ったオレンジジュース片手に首を傾げる。正志は二番目の脇村兄弟のことを話して、血の気が引いた瑠璃の顔と共に、草原へと降りた。
「隆さん。天の裂け目への行き方の下巻を読ませてください……」
 正志は軽トラックから降りて、こちらにくたびれた歩き方で歩いてきた隆にさっぱりとした言葉を使った。正志にとっては隆はもっとも重要な依頼人であり、どんな時でも信じられる人物だった。
 隆はこの世界に来てから、あまり休むということをしていなかった。それは正志も同じなのだろう。智子は片手に下界から釣った缶コーヒーを持っていた。
 隆は座りすぎで萎れたジーパンで、引き返して軽トラックから本を取り出すと正志に渡した。
 それと同時に正志の携帯が鳴った。

 正志が怪訝な顔をして電話にでると、相手は勿論24時間のお姉さん……時の神である。
「正志さん。脇村三兄弟の二番目の弟だけではなく。三兄弟自体、この世界にまだ来ていないんです。実は雨の宮殿に隆さんたちと行くときに死んでしまうのです。だから、今は心配しなくてもいいんですよ」
「え!?」
「そういえば、あなたにはこの世界には不思議な時の流れがあることは言いませんでしたね。この世界には不思議な時が流れているんです。下界では西暦2015年でも、この世界では何百年という誤差があるのですよ」
 正志はより一層思考をくるくると回して応対している。
「それでは、あなたは何もかも知っているのでしょうか?」
「ええ。でも、違います。私が管理している時というものは、現在であって未来ではないのです。つまり、幾らでも未来を変えることが出来ますよ」
 24時間のお姉さんは少し悲しく言った。

「えーっと、現在とは? 未来のことを言っているようにしか……思えないんですけど?」
 正志は現在……つまり、時の神が今知っていることが現在なのを知らなかった。
「ええ。未来のことは私も知っていますが。それは現時点では変更可能ですから、つまり、管理しているのは私の頭にある知識なのです」
 正志は頭を捻って理解をした。
「えっーと、それではあなたは未来のことを知っているだけで、それが現在のことで、未来のことはこれからも変化するからと言いたいんですね」
「そうです。知識なのですよ。私の管理している時とは。だから、知ってしまうと未来を変えられるんです」
 正志は納得をして大きく頷いた。
「なるほど……」
 24時間のお姉さんは電話越しで微笑んだようだ。
「あなたはきっと、隆さんと智子さんの命を助けるでしょう。頑張ってください。でも、未来は知ってしまうと変化をしますから、気を付けて」
「解りました」
 電話を切ると、くたびれた隆の顔に明るく手を振って、本を返した。


「なんでもないですよ。さあ、早く西へ行きましょう」
 隆たちは再び西へと向かった。
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