22 / 44
虹と日差しとオレンジの町
22話
しおりを挟む
隆はあれから5日間。この世界で半ば不眠不休で走りっぱなしだった。さすがに、一人になると寂しかった。涙が自然と零れる時がしばしばあった。
腹が減ったら黒田から貰った釣り具で一旦停車させて、牛丼やキムチ鍋、そら豆のスパゲッティなどを釣って。トイレは地上へと車でそそくさと降りた。
寂しい気持ちと里美がこの世界にいるはずという嬉しい希望。早く会いたいと思う気持ちからくる強い焦燥感。それは、この世界の恐ろしさは微塵も感じさせないほどの心境であった。
カモメが数羽こちらに寄って来た。
隆はカモメにアイスクリームを与えているうちに、さすがに極度の眠気が襲ってきていた。前方に虹が見えてきたが、思考もまともに出来ないほどの眠気で、隆は仕方なく、車を空中で停車させて少し眠ることにした。
里見が小学校へと入ってからだ。幼稚園でも一緒だった中島 由美と中友 めぐみと仲が良くいつも一緒だった。特に中島 由美の両親とも隆と智子は仲が親密で、よく、体を休めないといけない珍しい休日の時は、学校への里見の送り迎えをしてもらった。そんな時の里見の寂しそうな顔は今では胸に大きな穴が空きそうだった。
隆と智子はそんな中、出来るだけ里見に愛情表現をしようと、仕事の合間や珍しい休日の時には無理をできるだけして必ずお弁当を作ってやる習慣を身に着け、そして、公園へと三人で出掛けた。
けれども、その時は年に数回ほどだった……。
6時間程寝ていたが、隆は起きると涙を拭いて寂しさを振り切った。
「あれか……。虹とオレンジと日差しの町……」
前方に遥か遠くへとアーチを伸ばしたオレンジ色の虹が現れ、その上にオレンジ色の町があった。
虹とオレンジと日差しの町である。
巨大なその虹は町のオレンジの自然の色と人工的な色とでコントラストのようなものをとっていた。ビルディングや町の中央に位置している塔。行き交う通行人もみなオレンジ色であった。
隆はアーチ状の虹の面に、どうにか水平にくっついているような町の外れに車を停め。外壁で囲まれた街の入口の大通りから町へと歩いて行った。
人口約3万6千人の小さい町である。
オレンジ色の服を着た中年男性がジョギングをしている。その男は車が行き交う大通りの脇をこちらに呼吸を乱しながら走って来た。年は30代後半で、服装はオレンジ色のランニングシャツと短パンだ。隆は興味本位で中央に位置している塔を尋ねた。
「あれは、日差しの塔ですよ」
その男性は出っ張った腹を気にしているようで、しきりにジョギングの最中の足踏みをして汗をかいて隆に話をしていた。
「実は両親を探しています。玉江 隆太と佐藤 江梨香です。ご存じありませんか?」
隆はジョギングの最中に悪いとは思ったが、言わずにおれなかった。
「いやー、この町は広いですからね……」
男性は足踏みを止めて禿頭をピシッと叩いた。
「そうだ。日差しの塔の町長に聞いてみては、そこで調べてもらえば解りますから。私はジョシュァといいます。この町でペットショップの支店長をしています。どうせ、この町に来たのなら最初に町長に挨拶と滞在期間を言わないといけませんから。あ、そうだ。私がご案内しますよ。未来の顧客になりそうですからね」
ジョシュァは人懐っこい顔をして、どこか寂しそうな隆の表情に目聡く気が付いたようである。どうやら日差しの塔までジョギングを止め、隆を親切に案内してくれるようだ。
隆はジョシュァと歩いて町の中央まで行くことになった。
バスや自動車は地上を走り、行き交う通行人も真面目に働いたり、生活をしているようで、おおかた背広姿や学生服が目立った。
けれども、みなオレンジ色に染まっていた。
大通りをしばらく歩き、交差点に差し掛かった。
道路標識や看板などもオレンジ色だ。ただし、信号機は別。
「あそこが、私の店です。この町にしばらく滞在しますか? 何ならペットを飼いませんか? お安くしますし、動物の神と動物の了承は得てあります。動物たちは下界ではそのまま動物だったものや、人間だったものがいまして、どちらも、ペットとして遊んでいたいと願っているのです。そんな人たちと動物を私は商売にしています。あ、注意事項が一つありまして、ご存知かも知れませんが。下界で動物だった動物はこの世界では死んでしまうのですよ。なので、どちらもたっぷりの愛情を頂けないとなりませんがね……」
道路の反対側にある。オレンジ色のペットショップからオレンジに染まった動物たちが、ジョシュァを見ると喜んで尻尾を振ったり鳴いたりしている。犬や猫などが大半でジョシュァは元は人間だった動物たちからも人気者のようだ。
隆はこの町には労働があるのが以外だと思った。天の園には労働もなく、全員が暇で、遊んだり、何か暇つぶしを探しているような風潮がある。と、黒田たちの影響で思えていたのだ。
けれども、この町には労働や学校があって、皆それぞれ生活に励んでいた。
「みんな働いていますね?」
隆は道路の行き交う人々を見やり話した。
「ええ……珍しいでしょう。確かにこの町には労働もあって借金や銀行もあるので、生活をするためにはお金が第一に必要です。何百年と働かないといけませんがね。けれども、みんな真面目な人たちなのですよ。そして、この町ですけれど、やっぱりオレンジ色が気になりますよね。町長がみんなにアンケート調査をしたのですよ。町のシンボルは何がいいかと、そうしたら、皆この天の園には人工的な色や人工物がないから町全体を何かの色にしてみては? 虹の色より立派な色にしてみては? 巨大な塔を造ってみては? という回答が多く寄せられ、町長が町のシンボルを巨大な塔とオレンジ色にしたのです。町民は町の色は黄色がいいと言ったようですが……」
「はあ……」
隆の少し気の抜けた返事に、
「あなたは何色がいいですか?」
ジョシュァはそう言うと、オレンジ色の電信柱にあるくたびれた犬の写真{このペットを探しています}を見て嘆いた。
腹が減ったら黒田から貰った釣り具で一旦停車させて、牛丼やキムチ鍋、そら豆のスパゲッティなどを釣って。トイレは地上へと車でそそくさと降りた。
寂しい気持ちと里美がこの世界にいるはずという嬉しい希望。早く会いたいと思う気持ちからくる強い焦燥感。それは、この世界の恐ろしさは微塵も感じさせないほどの心境であった。
カモメが数羽こちらに寄って来た。
隆はカモメにアイスクリームを与えているうちに、さすがに極度の眠気が襲ってきていた。前方に虹が見えてきたが、思考もまともに出来ないほどの眠気で、隆は仕方なく、車を空中で停車させて少し眠ることにした。
里見が小学校へと入ってからだ。幼稚園でも一緒だった中島 由美と中友 めぐみと仲が良くいつも一緒だった。特に中島 由美の両親とも隆と智子は仲が親密で、よく、体を休めないといけない珍しい休日の時は、学校への里見の送り迎えをしてもらった。そんな時の里見の寂しそうな顔は今では胸に大きな穴が空きそうだった。
隆と智子はそんな中、出来るだけ里見に愛情表現をしようと、仕事の合間や珍しい休日の時には無理をできるだけして必ずお弁当を作ってやる習慣を身に着け、そして、公園へと三人で出掛けた。
けれども、その時は年に数回ほどだった……。
6時間程寝ていたが、隆は起きると涙を拭いて寂しさを振り切った。
「あれか……。虹とオレンジと日差しの町……」
前方に遥か遠くへとアーチを伸ばしたオレンジ色の虹が現れ、その上にオレンジ色の町があった。
虹とオレンジと日差しの町である。
巨大なその虹は町のオレンジの自然の色と人工的な色とでコントラストのようなものをとっていた。ビルディングや町の中央に位置している塔。行き交う通行人もみなオレンジ色であった。
隆はアーチ状の虹の面に、どうにか水平にくっついているような町の外れに車を停め。外壁で囲まれた街の入口の大通りから町へと歩いて行った。
人口約3万6千人の小さい町である。
オレンジ色の服を着た中年男性がジョギングをしている。その男は車が行き交う大通りの脇をこちらに呼吸を乱しながら走って来た。年は30代後半で、服装はオレンジ色のランニングシャツと短パンだ。隆は興味本位で中央に位置している塔を尋ねた。
「あれは、日差しの塔ですよ」
その男性は出っ張った腹を気にしているようで、しきりにジョギングの最中の足踏みをして汗をかいて隆に話をしていた。
「実は両親を探しています。玉江 隆太と佐藤 江梨香です。ご存じありませんか?」
隆はジョギングの最中に悪いとは思ったが、言わずにおれなかった。
「いやー、この町は広いですからね……」
男性は足踏みを止めて禿頭をピシッと叩いた。
「そうだ。日差しの塔の町長に聞いてみては、そこで調べてもらえば解りますから。私はジョシュァといいます。この町でペットショップの支店長をしています。どうせ、この町に来たのなら最初に町長に挨拶と滞在期間を言わないといけませんから。あ、そうだ。私がご案内しますよ。未来の顧客になりそうですからね」
ジョシュァは人懐っこい顔をして、どこか寂しそうな隆の表情に目聡く気が付いたようである。どうやら日差しの塔までジョギングを止め、隆を親切に案内してくれるようだ。
隆はジョシュァと歩いて町の中央まで行くことになった。
バスや自動車は地上を走り、行き交う通行人も真面目に働いたり、生活をしているようで、おおかた背広姿や学生服が目立った。
けれども、みなオレンジ色に染まっていた。
大通りをしばらく歩き、交差点に差し掛かった。
道路標識や看板などもオレンジ色だ。ただし、信号機は別。
「あそこが、私の店です。この町にしばらく滞在しますか? 何ならペットを飼いませんか? お安くしますし、動物の神と動物の了承は得てあります。動物たちは下界ではそのまま動物だったものや、人間だったものがいまして、どちらも、ペットとして遊んでいたいと願っているのです。そんな人たちと動物を私は商売にしています。あ、注意事項が一つありまして、ご存知かも知れませんが。下界で動物だった動物はこの世界では死んでしまうのですよ。なので、どちらもたっぷりの愛情を頂けないとなりませんがね……」
道路の反対側にある。オレンジ色のペットショップからオレンジに染まった動物たちが、ジョシュァを見ると喜んで尻尾を振ったり鳴いたりしている。犬や猫などが大半でジョシュァは元は人間だった動物たちからも人気者のようだ。
隆はこの町には労働があるのが以外だと思った。天の園には労働もなく、全員が暇で、遊んだり、何か暇つぶしを探しているような風潮がある。と、黒田たちの影響で思えていたのだ。
けれども、この町には労働や学校があって、皆それぞれ生活に励んでいた。
「みんな働いていますね?」
隆は道路の行き交う人々を見やり話した。
「ええ……珍しいでしょう。確かにこの町には労働もあって借金や銀行もあるので、生活をするためにはお金が第一に必要です。何百年と働かないといけませんがね。けれども、みんな真面目な人たちなのですよ。そして、この町ですけれど、やっぱりオレンジ色が気になりますよね。町長がみんなにアンケート調査をしたのですよ。町のシンボルは何がいいかと、そうしたら、皆この天の園には人工的な色や人工物がないから町全体を何かの色にしてみては? 虹の色より立派な色にしてみては? 巨大な塔を造ってみては? という回答が多く寄せられ、町長が町のシンボルを巨大な塔とオレンジ色にしたのです。町民は町の色は黄色がいいと言ったようですが……」
「はあ……」
隆の少し気の抜けた返事に、
「あなたは何色がいいですか?」
ジョシュァはそう言うと、オレンジ色の電信柱にあるくたびれた犬の写真{このペットを探しています}を見て嘆いた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
サンタの教えてくれたこと
いっき
ライト文芸
サンタは……今の僕を、見てくれているだろうか?
僕達がサンタに与えた苦痛を……その上の死を、許してくれているだろうか?
僕には分からない。だけれども、僕が獣医として働く限り……生きている限り。決して、一時もサンタのことを忘れることはないだろう。
私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる