16 / 44
天と地の裂け目
16話
しおりを挟む
「わあー!!」
智子は自分の身に起きたことを、今でもまったく信じないようにしているようだ。天の裂け目に向かった時は正気と狂気の間で緊張感がもたらされていたが、今では、きっと仕事の疲れで自宅の安いベットで、ぐっすりと眠っているんだと思い込んでいるのだろう。
「正志さん!! あの人達を見て!!」
瑠璃は空を飛んでいる人達を無遠慮に指差しながら、智子と歓声を上げていた。
正志はこの世界でたった一人の玉江 隆をどう探せばいいのか途方に暮れていた。緊迫した表情でカスケーダに取り付けたカーナビを点けると、なんと、天の園の地図がでてきた。
「智子さん。隆さんはどこへ向かったのか解りますか?」
喜びの表情だが、どこか気が抜けている顔の智子は自然に首を傾げて、
「いいえ……解りません」
「ほんの些細なことでもいいんです」
「えーっと」
智子は豪快に首を傾げると、そうだとポンと手を叩いて、
「回りの人に聞いてみてはどうですか」
「……。確かにそれが一番いいですね」
正志は歓声を上げている瑠璃を一瞥し、車のドアを開けて一番身近なアメリカ人男性に声をかけた。何故か空に浮いているその人物は、親切に黒田 裕と一緒に西へと向かったと教えてくれた。
「ありがとう。それじゃあ、西へと行きます。きっと、ご主人のサポートを成功させましょう」
正志は浅黒い手でハンドルを握ると、壊れた閉じた状態のルーフの開閉スイッチと計器類。そして、ガソリンメーターを見た。
「あ、ガソリンが無いや……」
今まで歓声を上げていた瑠璃は、現実の強力な衝撃を受けそうな顔になり、真っ青になって正志に掴みかかり、
「やっぱりこの依頼は無理よ! 帰りましょう! 今ならまだ間にあるかも知れないじゃない! 私は24よ! まだ現実の世界でやりたいことがいっぱいあるのよ!」
正志は首を絞めている瑠璃の両手を力一杯解こうとしながら、苦しげに唸っていた。
「駄目よ! うちの旦那が困るじゃない! 依頼料はすぐには出せないけれど! 頑張って!」
智子は気の抜けた顔から一気に義憤をした。
「そ……そうだ……俺の依頼の中では……最高の依頼だ……。い……依頼料が……無料でも……やり遂げるぞ」
瑠璃は今度は泣き出した。正志の首を絞めていた手を引き戻して、それを顔に当て。
「えーん……。私の安息の日々―……」
遊び人の遠吠えである……。
しばらくして、親切なアメリカ人男性は笑い転げていたが、ガソリンがなくても車輪が動かないなら平気なんじゃないですか。と教えてくれた。
正志はそれを聞いて、
「そうだといいが……では、行きましょう。西へ!!」
絶望の瑠璃。気の抜けた智子。使命感の正志。三人は西へと向かった。
智子は自分の身に起きたことを、今でもまったく信じないようにしているようだ。天の裂け目に向かった時は正気と狂気の間で緊張感がもたらされていたが、今では、きっと仕事の疲れで自宅の安いベットで、ぐっすりと眠っているんだと思い込んでいるのだろう。
「正志さん!! あの人達を見て!!」
瑠璃は空を飛んでいる人達を無遠慮に指差しながら、智子と歓声を上げていた。
正志はこの世界でたった一人の玉江 隆をどう探せばいいのか途方に暮れていた。緊迫した表情でカスケーダに取り付けたカーナビを点けると、なんと、天の園の地図がでてきた。
「智子さん。隆さんはどこへ向かったのか解りますか?」
喜びの表情だが、どこか気が抜けている顔の智子は自然に首を傾げて、
「いいえ……解りません」
「ほんの些細なことでもいいんです」
「えーっと」
智子は豪快に首を傾げると、そうだとポンと手を叩いて、
「回りの人に聞いてみてはどうですか」
「……。確かにそれが一番いいですね」
正志は歓声を上げている瑠璃を一瞥し、車のドアを開けて一番身近なアメリカ人男性に声をかけた。何故か空に浮いているその人物は、親切に黒田 裕と一緒に西へと向かったと教えてくれた。
「ありがとう。それじゃあ、西へと行きます。きっと、ご主人のサポートを成功させましょう」
正志は浅黒い手でハンドルを握ると、壊れた閉じた状態のルーフの開閉スイッチと計器類。そして、ガソリンメーターを見た。
「あ、ガソリンが無いや……」
今まで歓声を上げていた瑠璃は、現実の強力な衝撃を受けそうな顔になり、真っ青になって正志に掴みかかり、
「やっぱりこの依頼は無理よ! 帰りましょう! 今ならまだ間にあるかも知れないじゃない! 私は24よ! まだ現実の世界でやりたいことがいっぱいあるのよ!」
正志は首を絞めている瑠璃の両手を力一杯解こうとしながら、苦しげに唸っていた。
「駄目よ! うちの旦那が困るじゃない! 依頼料はすぐには出せないけれど! 頑張って!」
智子は気の抜けた顔から一気に義憤をした。
「そ……そうだ……俺の依頼の中では……最高の依頼だ……。い……依頼料が……無料でも……やり遂げるぞ」
瑠璃は今度は泣き出した。正志の首を絞めていた手を引き戻して、それを顔に当て。
「えーん……。私の安息の日々―……」
遊び人の遠吠えである……。
しばらくして、親切なアメリカ人男性は笑い転げていたが、ガソリンがなくても車輪が動かないなら平気なんじゃないですか。と教えてくれた。
正志はそれを聞いて、
「そうだといいが……では、行きましょう。西へ!!」
絶望の瑠璃。気の抜けた智子。使命感の正志。三人は西へと向かった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完結】会いたいあなたはどこにもいない
野村にれ
恋愛
私の家族は反乱で殺され、私も処刑された。
そして私は家族の罪を暴いた貴族の娘として再び生まれた。
これは足りない罪を償えという意味なのか。
私の会いたいあなたはもうどこにもいないのに。
それでも償いのために生きている。
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる