降る雨は空の向こうに

主道 学

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天と地の裂け目

16話

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「わあー!!」

 智子は自分の身に起きたことを、今でもまったく信じないようにしているようだ。天の裂け目に向かった時は正気と狂気の間で緊張感がもたらされていたが、今では、きっと仕事の疲れで自宅の安いベットで、ぐっすりと眠っているんだと思い込んでいるのだろう。

「正志さん!! あの人達を見て!!」

 瑠璃は空を飛んでいる人達を無遠慮に指差しながら、智子と歓声を上げていた。
 正志はこの世界でたった一人の玉江 隆をどう探せばいいのか途方に暮れていた。緊迫した表情でカスケーダに取り付けたカーナビを点けると、なんと、天の園の地図がでてきた。
「智子さん。隆さんはどこへ向かったのか解りますか?」
 喜びの表情だが、どこか気が抜けている顔の智子は自然に首を傾げて、
「いいえ……解りません」
「ほんの些細なことでもいいんです」

「えーっと」

 智子は豪快に首を傾げると、そうだとポンと手を叩いて、
「回りの人に聞いてみてはどうですか」
「……。確かにそれが一番いいですね」
 正志は歓声を上げている瑠璃を一瞥し、車のドアを開けて一番身近なアメリカ人男性に声をかけた。何故か空に浮いているその人物は、親切に黒田 裕と一緒に西へと向かったと教えてくれた。
「ありがとう。それじゃあ、西へと行きます。きっと、ご主人のサポートを成功させましょう」
 正志は浅黒い手でハンドルを握ると、壊れた閉じた状態のルーフの開閉スイッチと計器類。そして、ガソリンメーターを見た。
「あ、ガソリンが無いや……」


 今まで歓声を上げていた瑠璃は、現実の強力な衝撃を受けそうな顔になり、真っ青になって正志に掴みかかり、
「やっぱりこの依頼は無理よ! 帰りましょう! 今ならまだ間にあるかも知れないじゃない! 私は24よ! まだ現実の世界でやりたいことがいっぱいあるのよ!」
 正志は首を絞めている瑠璃の両手を力一杯解こうとしながら、苦しげに唸っていた。
「駄目よ! うちの旦那が困るじゃない! 依頼料はすぐには出せないけれど! 頑張って!」
 智子は気の抜けた顔から一気に義憤をした。

「そ……そうだ……俺の依頼の中では……最高の依頼だ……。い……依頼料が……無料でも……やり遂げるぞ」
 瑠璃は今度は泣き出した。正志の首を絞めていた手を引き戻して、それを顔に当て。
「えーん……。私の安息の日々―……」
 遊び人の遠吠えである……。
 しばらくして、親切なアメリカ人男性は笑い転げていたが、ガソリンがなくても車輪が動かないなら平気なんじゃないですか。と教えてくれた。

 正志はそれを聞いて、
「そうだといいが……では、行きましょう。西へ!!」


 絶望の瑠璃。気の抜けた智子。使命感の正志。三人は西へと向かった。




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