11 / 44
変人
11話
しおりを挟む
病院のリハビリテーションセンターのベンチで休んでいる隆の元へと花田が歩いてきた。
「もうあれから1年ですか……」
花田はあの日からあまり変わっていない。今でも仕事をしながら、暇と遊びをしているようだ。隆の隣へと座り、缶コーヒーを一本渡した。
「何とか娘に会えればなあ……」
隆は包帯を巻いた自分の両足を見つめて涙を流した。
花田はその気の毒な隆を見つめて不憫に思い。
「あの本は本物ですから……。きっと、娘さんに会えますよ。私は……出来ればあなたと……変わってあげたい……」
花田は最後の言葉を強く言った。
2週間のリハビリを終えて、困り顔の智子の迎えが来ると、隆はまた泣いた。
「ねえ、あなた。私はいっぱい泣いたけど、それでいいのよ……。もう諦めましょうよ。里美ちゃんは戻ってこないんだから……。私たちがどんなに頑張っても……。二人で新しい人生を生きていかなければ、心の傷は治らないと思うわ。里美ちゃんは少しの間だけど、私たちに和らぎを与えてくれて、そして、天国へと出発して……きっと、それでお別れなのよ。決して悪いことではなくて、生命なら当然のことでもあるはずよ……。お願い。また、前を向いて働いて頂戴……」
運転席の智子は前方を見つめながら走行中に久しく言い出した
。
この1年間の隆に初めて自分の意見を語りだした時だった。
「でも、俺にはできないんだ。そんな生き方。あの日以来……。里美が帰って来るようにしか……思えないんだよ。俺は俺の生き方を見つけてみても……やっぱり、今の通りにやるしかないんだ」
隆は面目ないと智子に頭を下げた。
智子は少しだけ頷いて、
「はあ……。じゃあ、仕事をしながらでは、……どうかしら……。きっと、考え方が変わるんじゃないかしら。人はみんな生活があって、人として生きていくことが出来るんじゃないかしら。それも、前向きに……」
隆は泣いた……。自分が一体今まで何をしていたのかは……正直解らない。けれど、しなくては前に進めないとも思っていた。今までのことは、無意味で非現実的で、報われないことだったのだろうか……。
いや、違う。
花田は応援してくれている。こんな俺でも……。
「解った。後、もう一つ……最後の方法を試したら……。俺は諦める……」
隆は何度目かの涙を流した。
それは、下巻の最後のページにある文字ばけしている文章で書かれた方法だった。
著者の三番目の弟が書いたとあり、一番眉唾な方法であった……。何せ水が関係していないのだ。半年前に文字ばけだったので読むのに苦労して、何とか解読できた文章でもあった。
隆は胡散臭くてまだ試していない方法でもあった。
15夜の満月の曇り空の下で、複数の少年がかごめかごめを歌いだし、一台の乗り物を手を繋いで囲んで回る。その少年たちの円の中で、乗り物に乗っている。と、書かれてある。
「乗り物は何でもいいんだな……。多分……」
「もうあれから1年ですか……」
花田はあの日からあまり変わっていない。今でも仕事をしながら、暇と遊びをしているようだ。隆の隣へと座り、缶コーヒーを一本渡した。
「何とか娘に会えればなあ……」
隆は包帯を巻いた自分の両足を見つめて涙を流した。
花田はその気の毒な隆を見つめて不憫に思い。
「あの本は本物ですから……。きっと、娘さんに会えますよ。私は……出来ればあなたと……変わってあげたい……」
花田は最後の言葉を強く言った。
2週間のリハビリを終えて、困り顔の智子の迎えが来ると、隆はまた泣いた。
「ねえ、あなた。私はいっぱい泣いたけど、それでいいのよ……。もう諦めましょうよ。里美ちゃんは戻ってこないんだから……。私たちがどんなに頑張っても……。二人で新しい人生を生きていかなければ、心の傷は治らないと思うわ。里美ちゃんは少しの間だけど、私たちに和らぎを与えてくれて、そして、天国へと出発して……きっと、それでお別れなのよ。決して悪いことではなくて、生命なら当然のことでもあるはずよ……。お願い。また、前を向いて働いて頂戴……」
運転席の智子は前方を見つめながら走行中に久しく言い出した
。
この1年間の隆に初めて自分の意見を語りだした時だった。
「でも、俺にはできないんだ。そんな生き方。あの日以来……。里美が帰って来るようにしか……思えないんだよ。俺は俺の生き方を見つけてみても……やっぱり、今の通りにやるしかないんだ」
隆は面目ないと智子に頭を下げた。
智子は少しだけ頷いて、
「はあ……。じゃあ、仕事をしながらでは、……どうかしら……。きっと、考え方が変わるんじゃないかしら。人はみんな生活があって、人として生きていくことが出来るんじゃないかしら。それも、前向きに……」
隆は泣いた……。自分が一体今まで何をしていたのかは……正直解らない。けれど、しなくては前に進めないとも思っていた。今までのことは、無意味で非現実的で、報われないことだったのだろうか……。
いや、違う。
花田は応援してくれている。こんな俺でも……。
「解った。後、もう一つ……最後の方法を試したら……。俺は諦める……」
隆は何度目かの涙を流した。
それは、下巻の最後のページにある文字ばけしている文章で書かれた方法だった。
著者の三番目の弟が書いたとあり、一番眉唾な方法であった……。何せ水が関係していないのだ。半年前に文字ばけだったので読むのに苦労して、何とか解読できた文章でもあった。
隆は胡散臭くてまだ試していない方法でもあった。
15夜の満月の曇り空の下で、複数の少年がかごめかごめを歌いだし、一台の乗り物を手を繋いで囲んで回る。その少年たちの円の中で、乗り物に乗っている。と、書かれてある。
「乗り物は何でもいいんだな……。多分……」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
海神の唄-[R]emember me-
青葉かなん
ライト文芸
壊れてしまったのは世界か、それとも僕か。
夢か現か、世界にノイズが走り現実と記憶がブレて見えてしまう孝雄は自分の中で何かが変わってしまった事に気づいた。
仲間達の声が二重に聞こえる、愛しい人の表情が違って重なる、世界の姿がブレて見えてしまう。
まるで夢の中の出来事が、現実世界へと浸食していく感覚に囚われる。
現実と幻想の区別が付かなくなる日常、狂気が内側から浸食していくのは――きっと世界がそう語り掛けてくるから。
第二次世界恐慌、第三次世界大戦の始まりだった。
【完結】雨上がり、後悔を抱く
私雨
ライト文芸
夏休みの最終週、海外から日本へ帰国した田仲雄己(たなか ゆうき)。彼は雨之島(あまのじま)という離島に住んでいる。
雄己を真っ先に出迎えてくれたのは彼の幼馴染、山口夏海(やまぐち なつみ)だった。彼女が確実におかしくなっていることに、誰も気づいていない。
雨之島では、とある迷信が昔から吹聴されている。それは、雨に濡れたら狂ってしまうということ。
『信じる』彼と『信じない』彼女――
果たして、誰が正しいのだろうか……?
これは、『しなかったこと』を後悔する人たちの切ない物語。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
【完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる