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汚れた空
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粉雪が舞う交差点。雑多な靴音を風の音が包み込む。
今日はホワイトクリスマスだ。いい加減にして欲しいほどの大雪の降る汚れた空を見上げていた。
今日で一週間だった。
汚れた空から灰のような粉雪が大量に大都会を舞っていた。
まるで、神様からの東京への贈り物のようだ。ただし、おれに言わせればゴミの贈り物だ。
きっと、神様が少しは部屋を掃除しろよ。と、天から降らせたのだろう。
お節介な神様だな。
おれには信仰心というものはないかも知れない。だけど、神様の力が偉大なのをひしひしと感じている身だった。
病気になったり、事故に遭ったりしていても、おれはぴんぴんしているんだ。
どれも、医者などの人の力では起こり得なさそうだ。
これも、神様の力だ。
こんな時、歴史は生き物で意志があると思うんだ。それぞれ昔から生きていた歴史という生き物は、歴史の重要なことが起きそうな時には、決まって大きな欠伸をして、絶妙なタイミングで丸く平べったくするために起き上がる。さもありなんだ。
バベルの塔。
ノアの箱舟。
恐らくはアルマゲドンも。
他にも色々あると思うけれど、おれにはそれらが神の意志から産まれた歴史という生き物だった。
日の下に同じものはない。
全ては繰り返される。
かの有名なシャーロック・ホームズはそういったが、おれもそう思う。
いつも、同じく丸く平べったく。
皆、全体的には平等なのだろう。
「久須母(くすも)君?」
交差点を右に曲がって商店街の入り口付近につくと、アーチの傍に木乃森(きのもり)がいた。
今日はデートだった。
「ああ、おはよう……かな?」
「こんにちはね。御寝坊さん」
ショーウインドーに立ち並ぶ年を考えての(大人向けの)クマのぬいぐるみや、お揃いの腕時計、夜のケーキなどをできるだけ物見して、気ままに「赤い鼻商店街」を歩く。
それが今日の日課だった。
いつもは少し違うデートコースだけど、今日はクリスマス。それもホワイトクリスマスだから。
冬の東京。
ホットコーヒー片手に煌びやかにライトアップされた商店街を木乃森と手を繋いで歩いた。通り過ぎていく通行人もどこかクリスマスを祝っていて、楽しさが顔にひょっこりとでていた。
落葉樹が歩道の脇に均等に生えてあり、おれは所々に木の葉を蹴っては、半ば足を滑らせていた。
「なあ、こんなに転びそうになっても、滑ることもないし頭を打つこともないんだ。おれって変だよね」
「そう? なんだか……サンタさんに守られてるんじゃない?」
木乃森と付き合いだしたのもクリスマスだった。雪の夜。冷え込んだ公園で一時間も告白というよりは、ただ話し込んで、ようやく寒いから付き合うわと言ってくれたのを今でも覚えている。
帰りには、すぐそこにあるお店の場違いなほどに、大きなトナカイが口元にぶら下げているケーキだ。
「このケーキね」
「いいね。店員さんを探そう」
店員はすぐには見つけられなかった。
ショーウインドーに腕組をして寄り掛かっていたサンタの恰好をしたおじさんだったからだ。
こちらを吟味しているかのような鋭い目のおじさんだ。
けれど、すぐに微笑んでから、おじさんはメリークリスマスとだけ言った。
レジを済ますと、おじさんはニッコリ微笑んだ。
おれと木乃森はケーキとクマのぬいぐるみを持って、お揃いの腕時計を身につけた。来年も必ずクリスマスを祝おうとおれは言った。
クリスマスまでの月日が不思議と気の遠くならないことを言い合いながら帰路についた。
ケーキは木乃森の家族と食べる予定だ。
木乃森の強い勧めだった。
簡素な住宅街に灰色の粉雪が舞い込み、寒さを感じさせる強い北風が吹いてきた。空は未だに汚れている。
木乃森の家は三階建てだった。
家族が出迎え。
テレビの音量のほどよいリビングルームに通された。
ケーキは買ってきたかと父親がしつこく言っているが、母親もさっそくコーヒー豆をコーヒーミルで挽く作業に入った。おれはこの分じゃ、この家族にすぐに慣れそうだなと思った。
木乃森の両親と出会ったのはこれで二回目。
木乃森に告白した日の雪の夜に、寒かっただろうと家でお茶と最中(もなか)をご馳走してもらった。
「はい。これで揃ったわ」
母親が額の汗を拭って、コーヒーミルで丁寧に挽いたコーヒーを人数分配った。
父親はケーキを四人分にカットした。
ところがケーキの中には数百万円の札束が入っていた。
おれと木乃森は驚いて、口を開けたままだ。
木乃森の父親と母親は大笑いして、
「このお金は二人の結婚資金ね。これで、ちゃんと学校を卒業しないといけないわね」と自慢げに喜んでいた。
「その前に、おれの家族も呼んできていいですか。一緒にクリスマスを祝わなきゃ」
神様はやっぱり偉大なのかも知れない。
汚れた空からの粉雪は、おれの散らかった部屋を掃除しろよ。という意味もあるかも知れないが、少し先の未来を幸せを祝福してくれてもいたのだろう。
今日はホワイトクリスマスだ。いい加減にして欲しいほどの大雪の降る汚れた空を見上げていた。
今日で一週間だった。
汚れた空から灰のような粉雪が大量に大都会を舞っていた。
まるで、神様からの東京への贈り物のようだ。ただし、おれに言わせればゴミの贈り物だ。
きっと、神様が少しは部屋を掃除しろよ。と、天から降らせたのだろう。
お節介な神様だな。
おれには信仰心というものはないかも知れない。だけど、神様の力が偉大なのをひしひしと感じている身だった。
病気になったり、事故に遭ったりしていても、おれはぴんぴんしているんだ。
どれも、医者などの人の力では起こり得なさそうだ。
これも、神様の力だ。
こんな時、歴史は生き物で意志があると思うんだ。それぞれ昔から生きていた歴史という生き物は、歴史の重要なことが起きそうな時には、決まって大きな欠伸をして、絶妙なタイミングで丸く平べったくするために起き上がる。さもありなんだ。
バベルの塔。
ノアの箱舟。
恐らくはアルマゲドンも。
他にも色々あると思うけれど、おれにはそれらが神の意志から産まれた歴史という生き物だった。
日の下に同じものはない。
全ては繰り返される。
かの有名なシャーロック・ホームズはそういったが、おれもそう思う。
いつも、同じく丸く平べったく。
皆、全体的には平等なのだろう。
「久須母(くすも)君?」
交差点を右に曲がって商店街の入り口付近につくと、アーチの傍に木乃森(きのもり)がいた。
今日はデートだった。
「ああ、おはよう……かな?」
「こんにちはね。御寝坊さん」
ショーウインドーに立ち並ぶ年を考えての(大人向けの)クマのぬいぐるみや、お揃いの腕時計、夜のケーキなどをできるだけ物見して、気ままに「赤い鼻商店街」を歩く。
それが今日の日課だった。
いつもは少し違うデートコースだけど、今日はクリスマス。それもホワイトクリスマスだから。
冬の東京。
ホットコーヒー片手に煌びやかにライトアップされた商店街を木乃森と手を繋いで歩いた。通り過ぎていく通行人もどこかクリスマスを祝っていて、楽しさが顔にひょっこりとでていた。
落葉樹が歩道の脇に均等に生えてあり、おれは所々に木の葉を蹴っては、半ば足を滑らせていた。
「なあ、こんなに転びそうになっても、滑ることもないし頭を打つこともないんだ。おれって変だよね」
「そう? なんだか……サンタさんに守られてるんじゃない?」
木乃森と付き合いだしたのもクリスマスだった。雪の夜。冷え込んだ公園で一時間も告白というよりは、ただ話し込んで、ようやく寒いから付き合うわと言ってくれたのを今でも覚えている。
帰りには、すぐそこにあるお店の場違いなほどに、大きなトナカイが口元にぶら下げているケーキだ。
「このケーキね」
「いいね。店員さんを探そう」
店員はすぐには見つけられなかった。
ショーウインドーに腕組をして寄り掛かっていたサンタの恰好をしたおじさんだったからだ。
こちらを吟味しているかのような鋭い目のおじさんだ。
けれど、すぐに微笑んでから、おじさんはメリークリスマスとだけ言った。
レジを済ますと、おじさんはニッコリ微笑んだ。
おれと木乃森はケーキとクマのぬいぐるみを持って、お揃いの腕時計を身につけた。来年も必ずクリスマスを祝おうとおれは言った。
クリスマスまでの月日が不思議と気の遠くならないことを言い合いながら帰路についた。
ケーキは木乃森の家族と食べる予定だ。
木乃森の強い勧めだった。
簡素な住宅街に灰色の粉雪が舞い込み、寒さを感じさせる強い北風が吹いてきた。空は未だに汚れている。
木乃森の家は三階建てだった。
家族が出迎え。
テレビの音量のほどよいリビングルームに通された。
ケーキは買ってきたかと父親がしつこく言っているが、母親もさっそくコーヒー豆をコーヒーミルで挽く作業に入った。おれはこの分じゃ、この家族にすぐに慣れそうだなと思った。
木乃森の両親と出会ったのはこれで二回目。
木乃森に告白した日の雪の夜に、寒かっただろうと家でお茶と最中(もなか)をご馳走してもらった。
「はい。これで揃ったわ」
母親が額の汗を拭って、コーヒーミルで丁寧に挽いたコーヒーを人数分配った。
父親はケーキを四人分にカットした。
ところがケーキの中には数百万円の札束が入っていた。
おれと木乃森は驚いて、口を開けたままだ。
木乃森の父親と母親は大笑いして、
「このお金は二人の結婚資金ね。これで、ちゃんと学校を卒業しないといけないわね」と自慢げに喜んでいた。
「その前に、おれの家族も呼んできていいですか。一緒にクリスマスを祝わなきゃ」
神様はやっぱり偉大なのかも知れない。
汚れた空からの粉雪は、おれの散らかった部屋を掃除しろよ。という意味もあるかも知れないが、少し先の未来を幸せを祝福してくれてもいたのだろう。
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