水の失われた神々

主道 学

文字の大きさ
上 下
77 / 134
遥かなる海

77

しおりを挟む
 雨風によって濡れた大揺れの操舵室前の甲板の端に、一人のずぶ濡れの男が現れた。
 東龍である。
 人間の姿の美しい東龍は、薄暗い船内に入っていった。

 なにやら人の気配を探っているようだ。
 ここから見ているうちに、はて? 武の船室へと来てしまった。
 
 どうやら寝込みを襲おうとしているらしい。
 ここからではどうしようもないが……。

 武の船室へと入ると、かなり大きなベッドで寝ている武に向かって、東龍は腰に携えた刀を音もなく抜いた。
 けれども、その瞬間に東龍の首筋に抜きがけの一撃が向かった。
   武の危機に刀を抜いたのは隣に寝ていた鬼姫である。
 東龍はすぐさま後方へ飛び逃げようとした。だが、東龍の動きが止まった。同じく武のベッドで寝ていた。蓮姫と湯築が瞬間的に扉越しまで跳躍し、槍を構えていたのだ。
「失敗か……」
 東龍は半ば呆れて刀を床に投げ捨てた。

 ここはモテ男の武の勝利であろう。

 武のベッドには、光姫も高取も寝ている。
 いや、皆武の狭い船室のベッドで寝ていたのだ。

「本当。武の船室で良かったわね」
「ええ、巨大な龍の気で東龍の気配がわかりずらかったのですが、助かりましたね」
  蓮姫の言葉に光姫が相槌をうちながら、起き出して周囲を睨んでいる高取に微笑んだ。
「みんなと寝るなんて……」
  高取にとっては、女全員が憎たらしいのであろうが、湯築も蓮姫も光姫までもまったく気にしていないようだ。

  そんな皆に、東龍は好戦的に微笑んでいた。
「フフッ。やっとお目覚めかい。モテ男さん」
 東龍の好戦的な笑みは今では、ベッドで目覚めた武に向けている。
「卑怯だぞ。寝ている時を狙うなんて、てっ、なんでみんな俺の船室にいるんだ?!」
 武は顔を真っ赤にしながら、目をこすり枕元の神鉄の刀を取りベッドから降りた。
 鬼姫はとうに狭い船室の中央で、抜いた刀を構え呼吸を整えながら、東龍に向かって恐ろしいまでの殺気を向けている。
  だが、東龍は至って平然として微笑みを崩さない。
「なあ、なら今度は俺と正々堂々と戦わないか? モテ男さん?」
「?」
 武は首を傾げるが、神鉄の刀を抜き臨戦態勢である。
「武、その東龍って人! 人間の姿だと弱いわ! 倒すなら今よ!」
高取が周囲を睨むのを止め言い放った。
「そうね。隙だらけだし、やっかいだから、今のうちに殺そう」
 蓮姫も同意し、すぐさま東龍に槍の穂先を向け振りかぶった。
 だが、鬼姫が東龍の胸に向かって、目にも止まらぬ速さで一閃をしていた。が、東龍の体には傷一つつかなかったようだ。
 武の船室には、かなり大きなベッド。木製の机。小さ目な本棚がある。おおよそ八畳間くらいであろう。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

新説 水の失われた神々

主道 学
SF
これは今の日本よりもちょっと先のお話。 世界中で雨が降り続けるとある日のこと……。 日本全土が沈没してきた頃に、占い師顔負けの的中率の高取 里奈は山門 武に不吉な運命を言い渡した。 存在しないはずの神社の巫女の社までいかなければ、世界は滅びる。 幼馴染の麻生を残しての未知なる旅が始まった。 これは竜宮城伝説のもう一つの悲恋の物語。 内容はほとんど同じです。超不定期更新になる場合があります 汗) お暇つぶし程度にお読みくださいませ。

望月何某の憂鬱(完結)

有住葉月
キャラ文芸
今連載中の夢は職業婦人のスピンオフです。望月が執筆と戦う姿を描く、大正ロマンのお話です。少し、個性派の小説家を遊ばせてみます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

化想操術師の日常

茶野森かのこ
キャラ文芸
たった一つの線で、世界が変わる。 化想操術師という仕事がある。 一般的には知られていないが、化想は誰にでも起きる可能性のある現象で、悲しみや苦しみが心に抱えきれなくなった時、人は無意識の内に化想と呼ばれるものを体の外に生み出してしまう。それは、空間や物や生き物と、その人の心を占めるものである為、様々だ。 化想操術師とは、頭の中に思い描いたものを、その指先を通して、現実に生み出す事が出来る力を持つ人達の事。本来なら無意識でしか出せない化想を、意識的に操る事が出来た。 クズミ化想社は、そんな化想に苦しむ人々に寄り添い、救う仕事をしている。 社長である九頭見志乃歩は、自身も化想を扱いながら、化想患者限定でカウンセラーをしている。 社員は自身を含めて四名。 九頭見野雪という少年は、化想を生み出す能力に長けていた。志乃歩の養子に入っている。 常に無表情であるが、それは感情を失わせるような過去があったからだ。それでも、志乃歩との出会いによって、その心はいつも誰かに寄り添おうとしている、優しい少年だ。 他に、志乃歩の秘書でもある黒兎、口は悪いが料理の腕前はピカイチの姫子、野雪が生み出した巨大な犬の化想のシロ。彼らは、山の中にある洋館で、賑やかに共同生活を送っていた。 その洋館に、新たな住人が加わった。 記憶を失った少女、たま子。化想が扱える彼女は、記憶が戻るまでの間、野雪達と共に過ごす事となった。 だが、記憶を失くしたたま子には、ある目的があった。 たま子はクズミ化想社の一人として、志乃歩や野雪と共に、化想を出してしまった人々の様々な思いに触れていく。 壊れた友情で海に閉じこもる少年、自分への後悔に復讐に走る女性、絵を描く度に化想を出してしまう少年。 化想操術の古い歴史を持つ、阿木之亥という家の人々、重ねた野雪の過去、初めて出来た好きなもの、焦がれた自由、犠牲にしても守らなきゃいけないもの。 野雪とたま子、化想を取り巻く彼らのお話です。

押しが強いよ先輩女神

神野オキナ
キャラ文芸
チビデブの「僕」は妙に押しの強い先輩に気に入られている。何もかも完璧な彼女に引け目を感じつつ、好きな映画や漫画の話が出来る日々を気に入っていたが、唐突に彼女が「君が好きだ」と告白してきた。「なんで僕なんかと?」と引いてしまう「僕」だが、先輩はグイグイと押してくる。オマケに自分が「女神」だと言い出した。

呂色高校対ゾン部!

益巣ハリ
キャラ文芸
この物語の主人公、風綿絹人は平凡な高校生。だが彼の片思いの相手、梔倉天は何もかも異次元なチート美少女だ。ある日2人は高校で、顔を失くした化け物たちに襲われる。逃げる2人の前に国語教師が現れ、告げる。「あいつらは、ゾンビだ」 その日から絹人の日常は一変する。実は中二病すぎる梔倉、多重人格メルヘン少女、ストーカー美少女に謎のおっさんまで、ありとあらゆる奇人変人が絹人の常識をぶち壊していく。 常識外れ、なんでもありの異能力バトル、ここに開幕!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...