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首都東京へ
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しおりを挟む早く……。
早く……。
私のところへ……。
一方。
ここは鳳翼学園。
武たちだけを少々見過ぎていたようだ。
「あの巫女の言った通りだな」
今は私の記憶を少々たどっているのだが、武たちが旅立つ日の深夜の2時である。
研究施設と変わりなくなった2年D組にいる宮本博士は日本酒の入ったコップ酒片手にディスプレイの前で一人ごちていた。
人々が寝静まり、雨の降らなくなった鳳翼学園は海に囲まれていた。
窓からは潮の匂いが立ちこめ。空には満月が何やら憂いの顔をしていた。割れた窓ガラスからは蒸し暑い風が吹き漏れている。
「宮本博士。これから我々はどうなるのでしょう?」
小太りの研究員が宮本博士の傍らにいた。
皆、日本酒の入ったコップ酒を飲んでいた。
「さあな。ともかく自衛隊だけが頼りだ。竜宮城は何故かここ土浦を拠点にしたいのだろうな。だから、雨が降らなくなった。そして、人払いをしたのだ。いいかい? 地球は今のところまだ七対三で海の方が非常に大きい。だが、竜宮城は陸を完全に水没させて地球外生命体の龍が住める星にしようとしていたのだ。けれども、竜宮城自体は陸も少しは必要のようだ。なので、ここ土浦が選ばれたのだろう。あるいは世界には幾つか選ばれた陸があるのだろうな」
小太りの研究員が、同じディスプレイを覗いていた。
そこには、水没した沖縄の様子が見える。
「ひどいですね。陸を無くして人払い。そして、自分たちが住めるようにする」
「彼らも必死なのさ」
「あ、でも。何かの優しさみたいなものもありますね」
別のかなり細いといえる研究員も同じディスプレイを覗いていた。
ディスプレイには、高層ビルや山などは無傷で、人々がそれぞれ避難できる。恐らく全ての国も同じなのだろうが、ライフラインは皆無であろう。
「このぶんだと、エベレスト山には避難民がかなり集まっていますね」
小太りの研究員がジョークのつもりか、はたまた本気か、どちらとも捉えられることをいった。
「だが、ここではそうはいかないだろうな。鳳翼学園という学校では人払いが激しくなるだろうな。なんせ、龍がしつこいくらいに襲ってくるのだから。あの嬢ちゃんみたいのが、何人もいれば何とかなるのだろうが」
宮本博士はそう呟き。月夜に酒を傾けた。
廊下では麻生が静かに聞き耳を立てていた。恐らくは、麻生は武が心配で、こうやって何度も宮本博士たちから正確な情報を得ていたのだろう。
そうであった。龍と雨の関係も知ったのも、この時であった。
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