1 / 11
プロローグ
0-1
しおりを挟む
2036年 4.10
茨城県つくば市 男体山 山頂
都内から早朝の電車で、急いで来たというのに空は真っ暗だった。
青色と紫色に煌めく星雲がゆっくりと流転し、闇にすっぽりと包まれた空を彩っていた。
まるで、プラネタリウムだ。
時々、幾つもの色とりどりの流れ星が落ちていった。
星降る神社。
影の世界の日本で有名すぎる神社だ。
「わざわざ、ご足労おかけして申し訳ありませんね」
「いえいえ。こちらに星宗さまがいらっしゃるとお聞きしまして」
「はあ、今は大事な祈祷中でしたが、途中でどこかへ行ってしまいました。一体、どこへ行ったのでしょうかねえ? それにしても、政府のお偉い方がこちらへ足を延ばしになさったのは、これで何度目でしょうかね? 皆、せっかく来てくださったのに、星宗さまにお会いできずに、無駄足になっておられる」
「ああ。何度もいいます。こちらに星宗さまはいらっしゃるのですね?」
「ええ。ええ……」
そういうと、梶野はどこか不思議な木の実のお香がする玄関で、靴を脱いだ。そのまま、茶色い普通の洋服を着た老婆を、無理にどけてから廊下を歩いていく。
広大な廊下は、紅空木《べにうつぎ》やサルスベリなどの紅い木が、所狭しと飾ってあった。
神明造《しんめいづくり》の庇の持たない建物だ。
そこら辺は神社と作りは変わらない。
妙なところだ。
と、梶野は思った。
ここで、密かに星宗という女が日本の国の未来を左右していた。
大っぴらには言えないが、正気の沙汰ではない。
星宗の一言が、例え、神の思し召しの神託であれ、自身からの戯言であれ、国の将来の方針が暗雲たる影の世界で決まっていた。
「星宗さまー、星宗さまー。お客様ですよー」
後ろの方からスタスタと歩きながら、老婆の呼び声が鳴り響く。
一体。星宗さまはどこにいるのだろう?
確か、星宗さまは聞くところによると、とても綺麗な妙齢の女性だということだった。
あるいは、こうも聞いている。
年端のいかない絶世の美少女だとも。
もう一つ噂がある。
絶世の美女だが、両目とも目が見えないのだそうだ。
星降る神社の最奥に差し掛かると、辺りは急に薄暗くなった。
と、その時。
ポーンっと、ボールが高く跳ねる音がした。
音の在処を探し当てようとすると……。
軽い着地音の後に、コロコロと手鞠がこちらへ転がって来た。
梶野は正直にそう思った。
丁度、廊下に垂れ下がる紅い木の傍で、佇んでいる巫女装束の女がいた。
きっと、彼女が噂の星宗だろう。
「あら? どちらさまで? ここへは神威しか入れないのですが?」
「神威?」
「ええ。そうですよ。ほら、あなたの後ろに……」
「え? ええと……ひっ!」
茨城県つくば市 男体山 山頂
都内から早朝の電車で、急いで来たというのに空は真っ暗だった。
青色と紫色に煌めく星雲がゆっくりと流転し、闇にすっぽりと包まれた空を彩っていた。
まるで、プラネタリウムだ。
時々、幾つもの色とりどりの流れ星が落ちていった。
星降る神社。
影の世界の日本で有名すぎる神社だ。
「わざわざ、ご足労おかけして申し訳ありませんね」
「いえいえ。こちらに星宗さまがいらっしゃるとお聞きしまして」
「はあ、今は大事な祈祷中でしたが、途中でどこかへ行ってしまいました。一体、どこへ行ったのでしょうかねえ? それにしても、政府のお偉い方がこちらへ足を延ばしになさったのは、これで何度目でしょうかね? 皆、せっかく来てくださったのに、星宗さまにお会いできずに、無駄足になっておられる」
「ああ。何度もいいます。こちらに星宗さまはいらっしゃるのですね?」
「ええ。ええ……」
そういうと、梶野はどこか不思議な木の実のお香がする玄関で、靴を脱いだ。そのまま、茶色い普通の洋服を着た老婆を、無理にどけてから廊下を歩いていく。
広大な廊下は、紅空木《べにうつぎ》やサルスベリなどの紅い木が、所狭しと飾ってあった。
神明造《しんめいづくり》の庇の持たない建物だ。
そこら辺は神社と作りは変わらない。
妙なところだ。
と、梶野は思った。
ここで、密かに星宗という女が日本の国の未来を左右していた。
大っぴらには言えないが、正気の沙汰ではない。
星宗の一言が、例え、神の思し召しの神託であれ、自身からの戯言であれ、国の将来の方針が暗雲たる影の世界で決まっていた。
「星宗さまー、星宗さまー。お客様ですよー」
後ろの方からスタスタと歩きながら、老婆の呼び声が鳴り響く。
一体。星宗さまはどこにいるのだろう?
確か、星宗さまは聞くところによると、とても綺麗な妙齢の女性だということだった。
あるいは、こうも聞いている。
年端のいかない絶世の美少女だとも。
もう一つ噂がある。
絶世の美女だが、両目とも目が見えないのだそうだ。
星降る神社の最奥に差し掛かると、辺りは急に薄暗くなった。
と、その時。
ポーンっと、ボールが高く跳ねる音がした。
音の在処を探し当てようとすると……。
軽い着地音の後に、コロコロと手鞠がこちらへ転がって来た。
梶野は正直にそう思った。
丁度、廊下に垂れ下がる紅い木の傍で、佇んでいる巫女装束の女がいた。
きっと、彼女が噂の星宗だろう。
「あら? どちらさまで? ここへは神威しか入れないのですが?」
「神威?」
「ええ。そうですよ。ほら、あなたの後ろに……」
「え? ええと……ひっ!」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


シーフードミックス
黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。
以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。
ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。
内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~
海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。
再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた―
これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。
史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。
不定期更新です。
SFとなっていますが、歴史物です。
小説家になろうでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる