イニシエ 図書館のspellbook

主道 学

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力の書

氷の剣

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 突然、靖が見えない車に激突したかのように階下へと吹っ飛んだ。
 弥生が悲鳴を上げた。
 周囲に突如、炎が舞う。
 ぼくは相殺するためと後、もう一押しするため。
 全力で前方に空気の破裂系の魔術を放った。

 バシンッ!! という音と共に。
 炎は向きを変え、男たちに向かった。
 瞬間、炎が今度は瞬く間に凍った。

 古代図書館全体が凄まじい冷気で包まれる。
 魔術師たちの魔力は底知れない!

「逃げるぞ!!」
「逃げましょう!!」

 ぼくと白花は事態の重さを嫌というほど知った。
 決して、本物の魔術師には顔がバレてはいけないと……。
 これから追ってくるだろう。
 そう、どこまでも……。
 弥生を急かして、ぼくは靖の姿を追うため白花と階下へと全力疾走した。

「白花! 靖の怪我は治せるんだろ!!」
「ええ! 早く行って手当てを!」
「そういえば! どうやって治しているんだ!」
「どんな魔術も生体電流が基本なの! 私はホメオスタシスや血液の循環! 体内化学物質! 傷の場合は皮膚事態。それらの強制移動が生体電流でできるわ!」

 炎と冷気の渦巻くマレフィキウム古代図書館で、白花は階上の魔術師たちを見つめる。
 ぼくは何をしているのか? と、思案したがハタと気が付いた。
 こちらも相手の顔を覚えた方がいい!

 この炎と冷気も発生源は生体電流だ。
 灼熱の炎は多分、メタンじゃない。冷気もわからない。何故なのか考えている時間もない。恐らく驚異的な高度な魔術なのだろう。
 ぼくは踊り場で倒れていた靖を抱えたまま魔術師の顔を覚えた。

 魔術師は四人。
 顔の模様はいずれも違う。背が一番高い男。一番低い男。猫背の男。太った男。ぼくはそれぞれの模様を全て覚えた。

 白花も覚えたようで、こちらに向かって頷くと走りだす。
 ぼくは、靖の体重は重いので、空気を生体電流で操り少し宙を歩くようにして走った。
 なんとか古代図書館の出入り口にたどり着いた。
 けれども……。

「あ、開かない?!」

 弥生がドアの取手を力いっぱい開けようとしたが、ビクともしないようだった。ぼくは男だからと靖を地面に降ろして、二人をどかしてから、取っ手を強引にこじ開けようとした。だが、どうしても開かない!

「どうしたの? 閉じ込められたの?!」

 あの落ち着いた白花の顔がサッと青ざめた。

 古ぼけた階段から四人がゆっくりと歩いてくる。
 その中で、一人は頭上に片手を挙げていた。

「あ! あいつか!」
 ぼくは片手を挙げている男から、常時生体電流が膨大に放出しているのを察知した。
「弥生。ちょっとごめん……」
「?」
 ぼくは弥生の持っていた学生鞄から500ミリリットルのペットボトルを取り出した。弥生はいつも烏龍茶を飲んでいるのをぼくは知っている。そして、ぼくは烏龍茶をペットボトルから地面にこぼして、生体電流で周囲の冷気を掻き集め。烏龍茶をマイナス5℃にした。
 それから汗を少し混ぜれば、氷の剣のできあがりだ。 

「それ、俺にやらせろ!」
 ぼくが抱えている靖が、いつの間にか気絶から意識を取り戻していた。

 靖は地に足を着け。氷の剣を握ると、魔術師たちの方へ向く。

「靖! 片手を挙げている奴を狙ってくれ!」
「おうよ!」 

 靖の目の前に突然、本が光の中から出現した。

「うん? なんだ?!」

 靖はその本に気を取られ、氷の剣を投げるのが少しだけ遅れた。

 もう一人の魔術師がすぐに口を大きく開けた。

 途端に、膨大な量の生体電流がマレフィキウム古代図書館全体を揺り動かす! 

「ち、力の書よ!」

 白花が叫ぶが……。

 靖が氷の剣を投げる方が早かった。
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