イニシエ 図書館のspellbook

主道 学

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勇気の書

消えた魔術書

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 燭台の仄かな明かりで照らされた十冊の本は、何故かそれぞれ宙に浮いていた。

 古い本棚から空中に浮いた煤ぼけた本は、黴臭いマレフィキウム(ラテン語で悪行)古代図書館の片隅にあって、ぼくはそれらの本が本物の魔術書なのを親から聞いて知っている。

 勇気の書。知恵の書。力の書。王者の書。悪魔の書。奴隷の書。後の本は字が読めない。タイトルが何なのかもわからない。それぞれの本は非常に強力な魔術が封印されていると言われているんだ。

 中でも本の中には禁断の魔術書が混じっている。
 それは、あまりにも危険で、それを開いた者は世界と共に破滅するだろうと言われていた。

 しばらくすると、全ての本はまばゆい光の中へと消えていった。ただ一冊だけの本がぼくの下に落ちていた。

 それは勇気の書だった。

 化学でお馴染のメタン。古の魔女が森に住むのはそこに沼があるからだ。その沼からメタンがあって、メタンによって、火の魔術を扱うんだ。

 この勇気の書は、そんな初歩的な魔術が書かれていた。魔法、魔術は科学で全て説明できるんだ。

 古の魔女は、人体にある生体電流によって、収束されたメタンに発火して、コントロールをした。いわゆる魔術を行使していたんだ。サイコキネシスなどの超能力者も、この生体電流からきていた。

 ぼくは天才科学者の息子で、古代の魔女の血を受け継ぐ母を持つ。
 そのためか産まれた時から生体電流は常人の数十倍もあり、科学にはかなり詳しいんだ。父と母の血がそのまま流れたかのようだった。
 
 時計を見ると、午後の7時だった。事態の重さを知ったぼくは、マレフィキウム古代図書館から早々に家に帰った。

 もう母が夕食を作って、父が大学から帰って来る頃だ。

 マレフィキウム古代図書館の近くにある商店街の片隅にモダンな建物がある。そこがぼくの家だ。ドアを開けると、母が出迎えた。

「零君。お帰りなさい」
「ああ、無事に帰ってこれたんだな」
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