夜を狩るもの 終末のディストピア seven grimoires 

主道 学

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Pride(傲慢)

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Pride 9

 ヘレンはオーゼムの後ろ姿を追いながら頼りない蝋燭の灯りで、仄暗い廊下を進んでいた。
「オーゼムさん。かなり進んだようですが。目的地はまだなのでしょうか?」
「ええ……。」
「今、ジョンの屋敷のどこらへんかしら?」
「もうすぐ食堂です」
 靴底が地面に凍結するほどの凍てついた夜を、ヘレンはオーゼムと夜間バスに乗って、再びジョンの屋敷へと遥々来たのだ。
 ここホワイト・シティでは珍しく雪が降らない夜だった。
 ヘレンは不思議と無人と化したジョンの屋敷を不気味とはちっとも思わなかった。例えジョンがいても無人の屋敷と大差ないからだ。
 廊下の窓の外には、真っ白な月が浮かんでいた。
 ヘレンは白い月が浮かんでいることで、心強く思っていると、ドンッとオーゼムの背中に派手に顔をぶつけてしまった。オーゼムが立ち止まったからだ。
「もし、モート君を連れて来たなら……良かったんだ……予想以上に……ここは危ない……」
 オーゼムの背中の体温が急激に冷たくなるのをヘレンは体感した。
「ど、どうしたのです?! オーゼムさん?!」
「もう手遅れかも知れませんので、ヘレンさん! 逃げて下さい!!」
 オーゼムが急にヘレンの方へ向くと、ドンっと両手でヘレンを後方へと突き飛ばした。突如、前方。オーゼムの後ろからガシャンと何かが割れる音がした。

 ヘレンはその音にも恐怖したが、すぐに払拭してオーゼムを置いておくわけにはいかないと思い。オーゼムの右手を前のめりに素早く掴んだ。
「さあ! こっちへ! オーゼムさん!」
 ヘレンは立ち上がりながら、オーゼムの右手を握り、食堂と思わしき場所の中へと走った。
 
 ノシノシと重い足音が追ってくる。

 ヘレンとオーゼムは食堂のテーブルや椅子に当たり、ひっくり返しながら奥の方へ走った。人間とは思えない叫び声が後ろから上がる。
 オーゼムがヘレンの前を走った。
「もうすぐ、庭に続く窓です! 行き止まりです!」
「なんとか逃げないと! ああ、モート……」
 重い足音が近づいてくる。
 その姿は……ヤギの顔の人間だった。
 突然、窓ガラスから漆黒の影が食堂へと飛び込んできた。
 ヤギの顔の人間の首が一瞬で飛ぶ。
 ヘレンは驚いて、真っ黒い影を見つめた。
 暗闇から月明かりで見えるその影は、モートだった。

「モート君! 君は……本当にありがとう……」
 オーゼムは胸の前で十字をきると、揚々しい態度だったがモートにお辞儀をした。
「モート? 助けてくれたのは嬉しいけど、アリスさんは無事?」
 ヘレンは未だ震えは治まっていないが、アリスのことも心配だった。だが、内心はモートに感謝の気持ちでいっぱいだった。
「ああ……アリスの屋敷内の蝙蝠男は全て狩ったんだ。もうアリスたちは安全だ……」
 少し照れたモートが銀の大鎌を食堂の水場で洗いに行った。
 ヘレンはオーゼムがしかめっ面をしているので、オーゼムに問い掛けると、
「しまった……賭けを忘れていましたね……ヘレンさんと賭けていれば良かったのです……」

 オーゼムはがっかりとしていた。
 ヘレンはこんな時にも金銭欲のあるオーゼムに微笑んだ。 
「どうやら、この不可解な人間はジョンの屋敷の番犬や警備員のようなものですね」
 オーゼムがヤギの顔の人間を光の奥へと仕舞うと、モートに言った。
「まだ他にもいるのかい?」
 モートは銀の大鎌を握り直し抑揚のない声を発した。
 ヘレンはぶるっと震え、嵌め込み窓の外を眺めた。

 野薔薇が至る所に散らばるかのような庭だ。
 それが、凍てついた風を受けて揺れていた。
 
「いや、魂は……」
「今のところ見えないな。ヘレン。念のために僕の傍にいてくれ」
 オーゼムとモートは見える魂がないかと周辺を見回していた。
「オーゼムさん。ジョンの最大の秘密とは。一体なんなのですか?」
「それは……この屋敷のどこかにある地下にあると思いうのです……。多分ですが。きっと、そのあるものでジョンの全てがわかりますよ」
 オーゼムはここ食堂から外の廊下へと歩きだした。

「ジョンの全て……」
 ヘレンはやっと、自分の今まで追ってきた最大の謎が、この時解き明かされようとしていることに戦慄を覚えた。

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