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Lust (色欲) 

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 それから夜明けの午前6時。
 雪の降り積もる街道には、これから出勤の人々の雑踏が何故か危うげだった。
 
 白い息を吐きながらモートはオーゼムと街中で新聞を買い二人で読んでいた。辺りは新聞売りの子供たちが大声を張り上げている。

「大量殺人だよー! ウエストタウンで大量殺人だよー!」
   
 サン新聞より抜粋。
 昨日、起きた「パラバラム・クラブ」での凄惨なドラック殺人事件は、高濃度の麻薬による大勢の大量殺人と警察が断定。ドラックの種類は未だ解明されてはいないが、新種のドラックが海外から流入したと推測されると発表。警察は目下、逃走中の犯人を全力で捜索……。
 
 モートは結局、女性を狩ることがなかったので犯人も逃してしまい。
 オーゼムはかなり残念な顔を終始している。
 それでも、モートが抑揚のない声で詳細を聞いた。

「色欲のグリモワールですね。蠍の毒ですよ。それとかなりの毒性が強いドラックですね。ドラックの方は我々には効果がありませんが、蠍の毒は注意が必要だったのです。犯人は長期的に蠍の毒を体内に取り込んでいたのでしょう。無事解決してとてもよかったですが、犯人には逃げられ、賭けはアリスさんの勝ちでした……」

 そこで、オーゼムは更に残念そうに言った。
「アリスさんは、ノブレス・オブリージュ美術館で私と賭けをしていました。この事件で、モート君が女性を狩るか狩らないかと。この事件は前もって女性が関わっていますので……。色欲ですからね……モート君が女性も狩ると私は踏んでいました。自信は少しありましたよ。なので、賭けたのですが……いやはや、お金持ちとの賭けでしたので、大金を賭けてしまい……ハァー……」
 シンシンと降る雪の中。
 オーゼムの溜息は寒さの中に溶け込んでいった。
 新聞売りの子供たちの声はこの上なく元気だった。
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