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Lust (色欲)
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Lust 2
ヘレンは昨日の謎の病の苦しみからすっかり復帰していた。今になって思い返せば朧気に覚えているのはモートの顔だけだった。
モートのお蔭で、あの壮絶な苦しみがほんの数分だけの苦しみだったようにも思えてきた。呼吸ができず体中が悲鳴を上げるかのような激痛は、本当に苦しいことだったのだが、今では酷い悪夢を一瞬垣間見ただけだったかのように感じた。
元気も取り戻し、また気を取り直してジョン・ムーアの秘密を探ることにした。あの男には必ず何かがあるのだ。
ふと、あのモートが産まれた絵画と同じ絵がノブレス・オブリージュ美術館にあるのではという考えが浮かんだ。
それは、広い美術館のことだ。数十枚もあるかも知れない。
ただの勘だが、何かがあるはず。
それだけたくさんあればモートの秘密に繋がっていき、やがてジョン・ムーアの何らかの真相が浮かび上がるのでは?
そこまで考えて、今日の朝早くにヘレンはモートに絵探しを頼んだのだ。
「ひとまずはジョン・ムーアにまた会わないと……モートとオーゼムさんも一緒に来てくれるのよね」
ヘレンは遅めの昼食を頼みにベルを鳴らそうとしたが……。
モートからの電話で昼食を早めに食べることになった。
厚底のブーツで、グランド・クレセント・ホテルの玄関へと急いで向かうと、丁度道路の反対側の路面バスからオーゼムが降りるころだった。
これから、オーゼムとノブレス・オブリージュ美術館に一緒に行くのだ。
ヘレンはオーゼムに笑顔で挨拶をしたが、オーゼムは難しい顔を終始していた。
灰色の空からは粉雪が舞っている。
オーゼムの顔色と同じく気温は下がり気味だった。
外套の雪を払いながら、オーゼムは玄関の回転扉の前でヘレンにこう言った。
「一つも黒い魂が見当たらないのです……けれども、ウエストタウンの一角で灰色の魂が物凄い勢いで集っています。これは一体何でしょう? 凄く嫌な胸騒ぎがします」
ヘレンは何を言っているのかは理解できるが、それが何を意味しているのかは皆目見当が付かなかった。
「さあ、行きましょう。モート君が待っている。そして……今にも大勢の命が危険に晒されているかも知れません……」
ヘレンは突然に考え込みだしたオーゼムとノブレス・オブリージュ美術館へと向かった。停留所でバスを待っている間も、それからオーゼムは一言も話さなかった。
時間通りに到着したノブレス・オブリージュ美術館行きの16時12分の路面バスの中で、オーゼムは考え込んでいたが、ハッとして突然に大声を発した。
「そうだ! ダンスホールだ! ここホワイト・シティに唯一あるんだ! ウエストタウン! そこに灰色の魂が集まっているんだ!」
オーゼムは驚いているヘレンを放っておいて、運転手にすぐに停まるように叫んだ。驚いた運転手は急ブレーキをした。
大きな様々な悲鳴と共に路面バスが急停車した。
オーゼムはバスから飛び降りると、真っ先に近くの店に入った。
ヘレンはしばらくして冷静さを取り戻すと、オーゼムは電話を借りに行ったのだと考えた。
Lust 3
「え! なんだって! ウエストタウンのダンスホールにすぐ行ってくれだって?!」
オーゼムからの切羽詰った電話を切ると、モートはノブレス・オブリージュ美術館の絵探しを中断して、アリスとシンクレアにここに好きなだけいてくれと言い残し、ウエストタウン行きのバスを探しに大急ぎで館内を出た。
ウエストタウン行きの路面バスはすぐにつかまった。
嬉しいことにダンスホールまで2ブロックのところに、バスの停留所がある。薄暗くなった空には美しい白い月が浮かび上がっていた。
モートは交差する車や歩行者を通り抜けながら、道路と建物を真っ直ぐに突き進んでいく。かれこれ奇跡的にエンストを起こさなかったバスから降りてから30分が過ぎていた。
モートの目にも見えて来た。
ヘレンは昨日の謎の病の苦しみからすっかり復帰していた。今になって思い返せば朧気に覚えているのはモートの顔だけだった。
モートのお蔭で、あの壮絶な苦しみがほんの数分だけの苦しみだったようにも思えてきた。呼吸ができず体中が悲鳴を上げるかのような激痛は、本当に苦しいことだったのだが、今では酷い悪夢を一瞬垣間見ただけだったかのように感じた。
元気も取り戻し、また気を取り直してジョン・ムーアの秘密を探ることにした。あの男には必ず何かがあるのだ。
ふと、あのモートが産まれた絵画と同じ絵がノブレス・オブリージュ美術館にあるのではという考えが浮かんだ。
それは、広い美術館のことだ。数十枚もあるかも知れない。
ただの勘だが、何かがあるはず。
それだけたくさんあればモートの秘密に繋がっていき、やがてジョン・ムーアの何らかの真相が浮かび上がるのでは?
そこまで考えて、今日の朝早くにヘレンはモートに絵探しを頼んだのだ。
「ひとまずはジョン・ムーアにまた会わないと……モートとオーゼムさんも一緒に来てくれるのよね」
ヘレンは遅めの昼食を頼みにベルを鳴らそうとしたが……。
モートからの電話で昼食を早めに食べることになった。
厚底のブーツで、グランド・クレセント・ホテルの玄関へと急いで向かうと、丁度道路の反対側の路面バスからオーゼムが降りるころだった。
これから、オーゼムとノブレス・オブリージュ美術館に一緒に行くのだ。
ヘレンはオーゼムに笑顔で挨拶をしたが、オーゼムは難しい顔を終始していた。
灰色の空からは粉雪が舞っている。
オーゼムの顔色と同じく気温は下がり気味だった。
外套の雪を払いながら、オーゼムは玄関の回転扉の前でヘレンにこう言った。
「一つも黒い魂が見当たらないのです……けれども、ウエストタウンの一角で灰色の魂が物凄い勢いで集っています。これは一体何でしょう? 凄く嫌な胸騒ぎがします」
ヘレンは何を言っているのかは理解できるが、それが何を意味しているのかは皆目見当が付かなかった。
「さあ、行きましょう。モート君が待っている。そして……今にも大勢の命が危険に晒されているかも知れません……」
ヘレンは突然に考え込みだしたオーゼムとノブレス・オブリージュ美術館へと向かった。停留所でバスを待っている間も、それからオーゼムは一言も話さなかった。
時間通りに到着したノブレス・オブリージュ美術館行きの16時12分の路面バスの中で、オーゼムは考え込んでいたが、ハッとして突然に大声を発した。
「そうだ! ダンスホールだ! ここホワイト・シティに唯一あるんだ! ウエストタウン! そこに灰色の魂が集まっているんだ!」
オーゼムは驚いているヘレンを放っておいて、運転手にすぐに停まるように叫んだ。驚いた運転手は急ブレーキをした。
大きな様々な悲鳴と共に路面バスが急停車した。
オーゼムはバスから飛び降りると、真っ先に近くの店に入った。
ヘレンはしばらくして冷静さを取り戻すと、オーゼムは電話を借りに行ったのだと考えた。
Lust 3
「え! なんだって! ウエストタウンのダンスホールにすぐ行ってくれだって?!」
オーゼムからの切羽詰った電話を切ると、モートはノブレス・オブリージュ美術館の絵探しを中断して、アリスとシンクレアにここに好きなだけいてくれと言い残し、ウエストタウン行きのバスを探しに大急ぎで館内を出た。
ウエストタウン行きの路面バスはすぐにつかまった。
嬉しいことにダンスホールまで2ブロックのところに、バスの停留所がある。薄暗くなった空には美しい白い月が浮かび上がっていた。
モートは交差する車や歩行者を通り抜けながら、道路と建物を真っ直ぐに突き進んでいく。かれこれ奇跡的にエンストを起こさなかったバスから降りてから30分が過ぎていた。
モートの目にも見えて来た。
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