22 / 35
pain (苦痛) ヘレン編
21
しおりを挟む
ヘレンは聖パッセンジャー・ビジョン大学付属古代図書館のレファレンスルームでアーネストと魔術書(グリモワール)を探していた。ヘレンもアーネストも額に汗が浮き出ても必死に見つけようとしていた。12もの壁に寄り掛かかった本棚、16もの並列した本棚、壁面を彩る幾つものガラス窓の下の40にもおよぶ小さな本棚などから受付嬢から聞いた形状の本を探す。
その形状はずっしりと重い黒い分厚い本だった。
小一時間はしただろうか。
奥にある暖炉の薪がパチリとした。
ヘレンは背筋が凍るような不吉な気分をどうしても払拭したかった。
それは、早朝に掛かった一本の電話が始まりだった。
「やあ、ヘレン。ジョンという男がレファレンスルームから借りた本がわかったぞ。受付の嬢ちゃんが調べてくれたんだよ。どうやら古代のグリモワールだったんだそうだ」
アーネストは急に小声になった。
「それもグリモワールではもっとも禁断とされる『レメゲトン』だった。きっと、その男はここホワイトシティで悪魔の偽王国でも作ろうとしてるんだろうねえ。今日のお昼から一緒に事の真偽を探してくれないかい? 本物の『レメゲトン』なら大変だ。希望的観測だが、その本じゃなければいいんだがねえ」
「『レメゲトン』……いいわ。一緒に調べてあげる」
ヘレンは女中頭を呼んで、ノブレス・オブリージュ美術館の一斉清掃を言い渡し、早速黒の厚着のコートに着替えた。
窓の外は、この上ない不吉な気持ちを煽る猛吹雪だった。
「……ないな。『レメゲトン』は一冊もないな。これはマズイな」
アーネストは広いレファレンスルームの一角の椅子に腰掛けると、一息ついた。かれこれ三時間で全ての本を調べ上げた。
ヘレンは窓の外を覗いた。外は吹雪が止み代わりに真っ赤な血の雨が降りだしている。
両肩を擦って、ヘレンは不気味さも不吉な気持ちも抑えるのがやっとだった。
「ええ。まったくないわね。後で、モートに言っておくわ」
「ああ、そのほうがいい」
ヘレンはもはや不吉な気持ちの正体がありありと見えてきていた。
悪魔の偽王国の到来。
一瞬、そんな恐ろしい言葉が脳裏に写った。
激しく降るようになった血の雨はヘレンの不安を見事に抉るかのようだった。
その形状はずっしりと重い黒い分厚い本だった。
小一時間はしただろうか。
奥にある暖炉の薪がパチリとした。
ヘレンは背筋が凍るような不吉な気分をどうしても払拭したかった。
それは、早朝に掛かった一本の電話が始まりだった。
「やあ、ヘレン。ジョンという男がレファレンスルームから借りた本がわかったぞ。受付の嬢ちゃんが調べてくれたんだよ。どうやら古代のグリモワールだったんだそうだ」
アーネストは急に小声になった。
「それもグリモワールではもっとも禁断とされる『レメゲトン』だった。きっと、その男はここホワイトシティで悪魔の偽王国でも作ろうとしてるんだろうねえ。今日のお昼から一緒に事の真偽を探してくれないかい? 本物の『レメゲトン』なら大変だ。希望的観測だが、その本じゃなければいいんだがねえ」
「『レメゲトン』……いいわ。一緒に調べてあげる」
ヘレンは女中頭を呼んで、ノブレス・オブリージュ美術館の一斉清掃を言い渡し、早速黒の厚着のコートに着替えた。
窓の外は、この上ない不吉な気持ちを煽る猛吹雪だった。
「……ないな。『レメゲトン』は一冊もないな。これはマズイな」
アーネストは広いレファレンスルームの一角の椅子に腰掛けると、一息ついた。かれこれ三時間で全ての本を調べ上げた。
ヘレンは窓の外を覗いた。外は吹雪が止み代わりに真っ赤な血の雨が降りだしている。
両肩を擦って、ヘレンは不気味さも不吉な気持ちも抑えるのがやっとだった。
「ええ。まったくないわね。後で、モートに言っておくわ」
「ああ、そのほうがいい」
ヘレンはもはや不吉な気持ちの正体がありありと見えてきていた。
悪魔の偽王国の到来。
一瞬、そんな恐ろしい言葉が脳裏に写った。
激しく降るようになった血の雨はヘレンの不安を見事に抉るかのようだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる