夜を狩るもの 終末のディストピアⅡ meaning hidden

主道 学

文字の大きさ
上 下
19 / 37
Sweat (汗) アリス編

18

しおりを挟む
 モートは即座に右手を真横にヒュッと振った。
 一瞬で男の首が真上に吹っ飛んだ。血飛沫が電車の天井に向かって彩りを与えた。男が崩れ落ちると、男の首は足元へと落ち音もなく転がっていった。

 しかし、倒れたはずの男は首なしの状態でも、ゆっくりと起き上がりだした。そして、即座に片手を挙げる。

 途端に走行中の電車の屋根が無数の小さな跳ねる音でうるさくなった。
 鳥の足音だろうと、モートは直観的に思った。

 モートは天井へと飛び込んだ。
 電車の天井を通り抜けて、血の雨で真っ赤になった電車の屋根に着地すると、焦ってアリスたちの元へと全速力で走った。

 鳥の正体は所々、肉体が欠損したカラスの群れだった。
 血の雨は激しさを増し天変地異を思わすかのような豪雨となった。

 モートが走り出すと同時に後方からも激しい羽音が追ってきていたが、モートは気にせずに何色にも見えない魂が乗る車両へと走り続けた。

 滝のような雨となった空からの血液によって、全てが赤い色に染まる。

―――

 アリスは目をつぶり両耳に手を当てた。バサバサと何もかもを覆いつくすかのような鳥の群れの羽音が近づいてきていた。

「このままここで非難していましょう。さあ、賭けの時間です。モートくんに全てを賭けるのです」
「ちょっと、オーゼムさん? 賭けって何のこと?」
「……」 

 更に大きな音になる羽音を恐怖したシンクレアが震える声を発したが、隣で目をつぶるアリスは不気味な羽音がすぐに消えることを信じていた。
 
 アリスの耳に次第に凄まじい羽音が聞こえなくなって来た。
 車窓から外を見ると、バラバラと無数の鳥の肉片が無残に落ちていく。

 その時、ドタドタと連結部分のドアから一人のサラリーマンが大勢のゾンビを連れて速足で歩いてくるのが見えた。
 オーゼムはそれを見て、オールバックを整えて呟いた。
 
「ふふっ、またもや死者ですか……リッチーですね」

 アリスとシンクレアは小さな悲鳴を上げる。

「死者? リッチー? あのサラリーマンの人がですか?」
「そうです。アリスさん。人の形に騙されないでください。れっきとした死者ですよ。それも儀式によってなり果てた強力なアンデッドなのです」

 サラリーマンと死者の群れがこの車両に着くと同時に、天井から体中を真っ赤に染めたモートが床に着地した。

 すぐさまモートは、ゾンビを連れたサラリーマンの元へと突っ込んでいった。

 巨大な馬によって割れた車窓からは、豪雨のような血の雨が車内へと入ってきていた。車内の床や壁。全てが真っ赤になる。

 それが、モートの狩るゾンビの残骸によって、濁った血で真っ黒に汚れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アポリアの林

千年砂漠
ホラー
 中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。  しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。  晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。  羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。

夜を狩るもの 終末のディストピア seven grimoires 

主道 学
ライト文芸
雪の街 ホワイト・シティのノブレス・オブリージュ美術館の一枚の絵画から一人の男が産まれた。 その男は昼間は大学生。夜は死神であった。何も知らない盲目的だった人生に、ある日。大切な恋人が現れた。そんな男に天使と名乗る男が現れ人類はもうすぐ滅びる運命にあると知る。 終末を阻止するためには、その日がくるまでに七つの大罪に関わるものを全て狩ること。 大切な恋人のため死神は罪人を狩る。 人類の終末を囁く街での物語。 注)グロ要素・ホラー要素が少しあります汗   産業革命後の空想世界での物語です。 表紙にはフリー素材をお借りしました。ありがとうございます。 主に かっこいいお兄さんメーカー様  街の女の子メーカー様  感謝感激ですm(__)m

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ショートホラーストーリー「帰宅途中に」

『むらさき』
ホラー
短い短編です。帰宅途中などに読んでもらうと幸いです。

歩きスマホ

宮田 歩
ホラー
イヤホンしながらの歩きスマホで車に轢かれて亡くなった美咲。あの世で三途の橋を渡ろうとした時、通行料の「六文銭」をモバイルSuicaで支払える現実に——。

闇に蠢く

野村勇輔(ノムラユーリ)
ホラー
 関わると行方不明になると噂される喪服の女(少女)に関わってしまった相原奈央と相原響紀。  響紀は女の手にかかり、命を落とす。  さらに奈央も狙われて…… イラスト:ミコトカエ(@takoharamint)様 ※無断転載等不可

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

しちせき 14.4光年の軌跡 

主道 学
SF
学校帰りの寄り道で、商店街へ向かった梶野 光太郎は、そこで街角にある駄菓子屋のガチャを引いた。 見事不思議なチケット「太陽系リゾート地。宇宙ホテル(宇宙ステーション・ミルキーウェイ)」の当たりを引く。 同時刻。 世界各地でオーロラが見えるという怪奇現象が起きていた。 不吉な前兆を前に、光太郎たちは宇宙ステーション・ミルキーウェイへ宿泊するが……。 度々改稿作業加筆修正をします汗 本当にすみません汗 お暇潰し程度にお読みくださいませ!

処理中です...