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stigmata (聖痕) アリス編
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サラサラな肩まである金髪をゆっくりと掻き上げて、アリスは屋敷でフィッシュ・アンド・チップスにビネガーを入れ、軽い朝食を摂っていた。今朝のサン新聞には、またもや首なし事件がウエストタウンで発生したと書いてある。このところウエストタウンを中心に三件もの首なし事件が起きていた。
アリスは憂いの顔で紅茶を口に運ぶと、この屋敷の唯一の使用人の老婆が紅茶のお替りを持ちながら悲鳴を上げた。
「まあ、アリス嬢ちゃん! 手首に傷ができてますよ! すぐに洗って消毒を……今、お湯を持ってまいります! いいですか、そのままでお待ちくださいね!」
老婆はよろよろとキッチンへと向かった。
「あら? 痛みはないわ……一体? いつの間についたのでしょう?」
「アリス? どうしたんだい?」
窓辺の椅子からアリスはその声の方を向くと、一室の隅に忽然とモートが立っていた。
モートはアリスの手首を鋭く見つめると険しい顔を作った。
「すぐにオーゼムに知らせないといけない……それは聖痕だ……」
アリスはモートが外へ出た後も老婆がお湯で手首の傷を洗ってもらっていた。
「まあまあ、ばい菌が入ったら大変大変!」
老婆はあまりにも大きな傷なので、悲しみのあまり次にハンカチを薬湯に浸して絞ると、アリスの手首に巻いた。
アリスは何気なく。窓の外を覗いた。
霜の降りた路上に粉雪が無音に降っていた。風はなかった。
これから聖パッセンジャービジョン大学へと通学しないといけなかった。
モートがどこかへと行ってしまってから、時間なのでアリスはいそいそと路面バスに乗ろうと屋敷から道路へと繋がる橋を歩いた。
橋の上の雪は今朝に老婆が雪かきをしてくれている。
アリスは嬉しさで心が一杯になった。
アリスの屋敷があるヒルズタウンから途中エンストを三回起こしたが、聖パッセンジャービジョン大学まで路面バスは通常運転ができた。イーストタウンのバス停でシンクレアが乗ると、アリスはシンクレアと手首の傷のことを一度ころりと忘れて楽しくお話ができた。
けれども、アリスはやはりモートのことも気掛かりだったが、シンクレアは「この街を一度救ってくれたんだもの。モートのことなら何もかも任せてしまえばいいのよ。何も心配なんかいらないのよ。ねえ、そうだわ。モートなら何も言わずにまたこの街を救ってくれるはだわ」と励ましてくれた。
車窓からの風のない雪の降る景色に急に光が射しこんだ。ここホワイトシティでは珍しく光の下を鳩が飛んできた。
「まあ!」
アリスは何もかも幸福な出来事に感極まって、次第に手首の傷がほんの些細なことのように思えてきた。
アリスはモートのことをまた考えた。
いつも無口で感情的になることがないが、頭が良く対人関係ではある種のとても奇妙な強さを持っていた。
そんなモートはアリスにとって素晴らしいフィアンセだった。
アリスとシンクレアがバス停から聖パッセンジャービジョン大学の石階段を登るころには、……何故か天空が真っ赤に染まっていた。アリスは不思議に思って空を見上げた。シンクレアはそれでも陽気に話し掛けてきた。
「あら? ねえ、アリス……空が真っ赤よねえ?」
空から何か大きなものが地へと落ちてくる。それは赤い色の塊だった。その次は多くの赤い水滴が降りだした。まるで空がガラスか何かで傷つけられたような光景だった。
ホワイトシティが一斉に血の雨で真っ赤になり出した。
アリスは憂いの顔で紅茶を口に運ぶと、この屋敷の唯一の使用人の老婆が紅茶のお替りを持ちながら悲鳴を上げた。
「まあ、アリス嬢ちゃん! 手首に傷ができてますよ! すぐに洗って消毒を……今、お湯を持ってまいります! いいですか、そのままでお待ちくださいね!」
老婆はよろよろとキッチンへと向かった。
「あら? 痛みはないわ……一体? いつの間についたのでしょう?」
「アリス? どうしたんだい?」
窓辺の椅子からアリスはその声の方を向くと、一室の隅に忽然とモートが立っていた。
モートはアリスの手首を鋭く見つめると険しい顔を作った。
「すぐにオーゼムに知らせないといけない……それは聖痕だ……」
アリスはモートが外へ出た後も老婆がお湯で手首の傷を洗ってもらっていた。
「まあまあ、ばい菌が入ったら大変大変!」
老婆はあまりにも大きな傷なので、悲しみのあまり次にハンカチを薬湯に浸して絞ると、アリスの手首に巻いた。
アリスは何気なく。窓の外を覗いた。
霜の降りた路上に粉雪が無音に降っていた。風はなかった。
これから聖パッセンジャービジョン大学へと通学しないといけなかった。
モートがどこかへと行ってしまってから、時間なのでアリスはいそいそと路面バスに乗ろうと屋敷から道路へと繋がる橋を歩いた。
橋の上の雪は今朝に老婆が雪かきをしてくれている。
アリスは嬉しさで心が一杯になった。
アリスの屋敷があるヒルズタウンから途中エンストを三回起こしたが、聖パッセンジャービジョン大学まで路面バスは通常運転ができた。イーストタウンのバス停でシンクレアが乗ると、アリスはシンクレアと手首の傷のことを一度ころりと忘れて楽しくお話ができた。
けれども、アリスはやはりモートのことも気掛かりだったが、シンクレアは「この街を一度救ってくれたんだもの。モートのことなら何もかも任せてしまえばいいのよ。何も心配なんかいらないのよ。ねえ、そうだわ。モートなら何も言わずにまたこの街を救ってくれるはだわ」と励ましてくれた。
車窓からの風のない雪の降る景色に急に光が射しこんだ。ここホワイトシティでは珍しく光の下を鳩が飛んできた。
「まあ!」
アリスは何もかも幸福な出来事に感極まって、次第に手首の傷がほんの些細なことのように思えてきた。
アリスはモートのことをまた考えた。
いつも無口で感情的になることがないが、頭が良く対人関係ではある種のとても奇妙な強さを持っていた。
そんなモートはアリスにとって素晴らしいフィアンセだった。
アリスとシンクレアがバス停から聖パッセンジャービジョン大学の石階段を登るころには、……何故か天空が真っ赤に染まっていた。アリスは不思議に思って空を見上げた。シンクレアはそれでも陽気に話し掛けてきた。
「あら? ねえ、アリス……空が真っ赤よねえ?」
空から何か大きなものが地へと落ちてくる。それは赤い色の塊だった。その次は多くの赤い水滴が降りだした。まるで空がガラスか何かで傷つけられたような光景だった。
ホワイトシティが一斉に血の雨で真っ赤になり出した。
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