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次期魔王は友だちを作る

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「こんにちはー! アルフ様っ!」

「こ、こんにちは……」

 いつも通り元気なアレアは、笑顔でアルフを迎える。
 ベストコンディションでこの日を過ごすため、しっかりと二十時間睡眠を取っていた。

「今日は魔王城を紹介しますね! どこか気になる場所はありますか?」

「すみません……よく知らないので、オススメの場所を教えてください」

「ありがとうございます! それじゃあ行きましょう!」

 アレアは一歩踏み出す。
 アルフをエスコートするために、何度もシミュレーションした道のりだ。
 緊張によってルートが飛ばないよう、完全に体で覚えている。

「アルフ様の好きな食べ物って何ですか?」

「好きな食べ物……難しいですけど、やっぱりお肉が好きですね」

「それなら任せてください! 魔王城のレストランなら何でも食べられますから!」

「え!? 魔王城にレストランがあったんですか!?」

 とりあえずアレアは、プラン通り昼食へ向かう。
 いつもアレアが通っているレストランであり、味には絶対の自信を持っている。

 アルフの好みが肉だという時点で、アレアは勝利を確信していた。

「ご飯は母が作ってくれていたので、レストランを利用したことはありませんでした……」

「ローズ様のご飯も確かに魅力的ですけど、レストランもきっと満足していただけると思います!」

 ちょうどアルフはレストランに行ったことがないようで、新鮮な体験になるはずだ。

 上手くいくと、一緒に通える仲になれるかもしれないという期待。
 アレアのモチベーションは最大に跳ね上がる。

 その足取りは、何倍も軽くなっていた。


*************


「いやー、美味しいですね、アルフ様!」

「本当だ……母のご飯より美味しいかも――」

「ア、アルフ様! そこから先はダメです!」

 レストランの料理は、アルフを唸らせるほどの味を誇っている。
 ついつい口が滑ってしまうほどの味だ。
 アレアは周りを確認して、ローズがいなかったことにホッと息を撫で下ろす。

「と、とにかく! 頼めば大抵の物は出てきますよ! 万が一無理だったとしても、アタシが何とかして用意します!」

「いやいや、そこまでは……」

 猛烈に自身のやる気をアピールするアレア。
 アルフのためなら何でもするという忠誠心の表れだったが、少々空回り気味である。

「アレアさんって、エルフでしたよね。この魔王城には、色々な人がいるのでとても面白いです」

 この場の空気を変えるため、アルフは別の話題を切り出した。
 といっても、無理やり捻り出したような話題ではなく、ずっとアルフが気になっていたものだ。

 魔王城には種族の統一感がなく、宿敵とも言えるような種族同士が共存している。
 現にエルフと魔族というのが良い例だろう。
 しかし、下僕同士で不仲という問題は少ない。同種族の世界以上に秩序を保っていた。

 これも、全てを受け入れるローズの影響なのかもしれない。

「あ、そうですよね! みんなローズ様によって集められたんですよ! エルフの他にも魔女とかヴァンパイアとか、邪神だっているんですから」

「え? 邪神?」

「あ……い、いえいえ! 何でもないです!」

 アレアはバッと口を押さえ、自分の言ったことを整理する。
 そして、失言してしまったと判断したため、苦しい言い訳で誤魔化した。

 次期魔王になるアルフならいずれ知ることになる情報だろうが、ローズの許可なしに教えてしまったというのが問題なのだ。
 この出来事によってローズの教育方針を変えてしまうとなると、それは許される行為ではない。

「そ、それより、アルフ様は何か困っていることはありませんか? もしございましたら、絶対に解決して見せます!」

 今度はアレアが、空気を変えるために別の話題で切り込んだ。
 悩みというのは、誰にでも存在するものである。
 しかしそれでも、アルフの心に悩みがあるというのは許せない。

 どのような問題でも受け止めるつもりで構えていた。

「友だち……が欲しいんですよね」

「……へ? 友だち……ですか?」

 アルフの悩みとは、全く予想していなかったものだ。
 アルフ目線だと、ローズを除いた魔王城の全員が下僕になる。

 それで問題ないようにも思えたが、アルフが望んでいるのは、下僕ではなく友だちだった。
 アレアには分かりにくい気持ちだったが、相談を受けた以上は解決をしなくてはならない。

「まずは私で一人目です! これからもよろしくお願いします!」

 アレアはガシッとアルフの手を握る。
 下僕としてはかなり攻めた行動だが、これからは友だちとしての関係だ。

 水臭いことを言っていては、逆にアルフに失礼となるだろう。

「い、いいんですか……?」

「勿論です! アタシの友だちで、アルフ様が気になってる子もいるので、今から行ってみませんか?」

「そうなんですか!? 是非行きましょう!」

 アルフは期待を胸に抱きながら、アレアの友人の元へ向かう。
 アレアのプランとは大きく外れた道のりだったが、とても充実した一日になった。


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