悪魔が教会生活を始めるのは何かおかしいだろうか

ああああ

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第一章

お母さんが来た!

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「――というわけで、こいつらが家に住み込んでるんだよ」

「……すごい事に巻き込まれてるわね。頑張りなさいよ、真琴」

「……え? それだけ?」

 とりあえず、静かな怒りを見せていた母に一通りの説明が終わる(勿論、母に従兄妹という手は使えず、二人が悪魔であるという事まで伝えた)。
 しかし、その反応はかなり薄いともいえるようなものだった。

 まるで他人事のような、ちょっと軽い怪我をした時のような反応である。
 あと二、三個は追加説明を予想していた真琴だけに、この反応には逆に母が心配になった。

「そちらのココさんとドラさんもお疲れ様」

「いえいえお義母様」

「誰がお義母様だこの馬鹿野郎」

 思った何十倍ものスピードで物事を理解した母は、ココとサンドラを労るほどの余裕までできていた。
 またもや誤解を招くような言い方をするココだったが、そこは慣れたもので、これ以上誤解を招くわけにはいかない真琴は、すぐさま鋭いツッコミを入れる。

「それでも血だらけだったのに、よく回復したわねぇ。やっぱり悪魔って凄いわぁ」

「……そういえば、何であの時血だらけだったんだ?」

 悪魔といっても、普通の人間と大差のない見た目をしているため、真琴の証言が半ば信じられないようだった。
 そして、真琴からは聞こうと思って忘れていた事が口に出る。
 すぐに怪我が治った事ばかりに目が集まり、何故あんな大怪我をしていたのかは教えてもらっていない。
 誰かにやられたというのは考えにくいので、何か事故的なものであろうか。

「あぁ、あれは人間界に来る時の転移に失敗しちゃったんですよ。油断してましたね」

「普通はあんなミス有り得ないなの。居眠り転移するからあんな事になるなの」

 居眠り運転――のような言い方だった。
 サンドラの様子からすると、本当に有り得ないミスだったようで、ココもしっかりと謝っている。
 少しミスをしただけであんな怪我をするとは、かなり命懸けの移動手段だが、悪魔界と人間界を繋ぐとしたら仕方ないのかもしれない。

「まぁ、無事で良かったじゃない。真琴も人助けなんて立派よ」

「流石私のダーリンですね」

「ダーリンって言うな。そういう事言うから誤解をされるんだよ。というか母さんもココたちに馴染みすぎじゃない?」

 ココは母がいるということもあって、妙に恋人アピールをしている。
 ガツガツいきすぎて、肉食系という範囲には収まらないほどだ。

 しかし、真琴が気になったのはココのアピールだけでなく、妙に縮まっている母とココの距離もあった。
 初対面の人には必ず敬語を使うといったような母だったが、それこそ真琴の妻であるかのようにココを受け入れている。

「ココちゃんもドラちゃんもいい子じゃない。そんなに突っぱねちゃ駄目よ。イエス様も言っていたでしょ、隣人愛よ隣人愛」

 ついにココたちの味方になってしまった。
 地味に、さん付けからちゃん付けへと変化している。
 これは、母と二人の距離が更に縮まっていることを顕著に表していた。

「ご、ごめん……」

 これには、流石の真琴でも逆らうことはできない。
 それに、イエス様の言葉を出されてしまっては勝てるはずもない。
 この場は自分がアウェーであるという事をいち早く理解した真琴は、ボコボコにされる前に大人しく撤退する。

「ドラちゃんも真琴と一緒で大丈夫? 嫌になったら私に連絡してきていいのよ」

「分かったなの」

「おいおい、何か変な連盟を作ってるんじゃない。というか母さん、何でここに来たのかそろそろ教えてほしいんだけど……」

 撤退をしたといっても、目の前で作られているよく分からない組織的なものを見過ごすわけにはいかない。

 話を切り替えるという意味でも、単純に気になっていたという意味でも、母が何故ここにいるのかを問う。

「ん? 出張で近くまで来たから寄っただけよ。心配しないで、泊まっていくなんてことはしないわ」

 意外とまともな理由だった。
 何を考えているのか分からない母は「仕事辞めちゃった」くらいなら平気で言うので覚悟をしていたが、杞憂に終わったらしい。

「それに、ココちゃんと真琴の邪魔をしてもいけないしね」

「最悪だ!」

 フフ、と母の含み笑い。
 悶絶するようにジタバタする真琴を見てなのか、それとも真琴とココの関係を想像してなのかは分からないが、真琴からしたらどちらも恥ずかしいなんてものではない。


「……ちょっと寄っていくつもりが、かなり長居しちゃったわね。でも楽しそうだから良かったわ」

「あぁ、うん……色々大変だけど、何とかやってるよ。母さんも仕事頑張って」

 時間など気にしていなかったが、そこそこ長いやり取りだったことに時計を見ることで気付いた。
 分刻みで行動しなくてはいけない母にとっては、かなりのミスだといえたが誰もそれを攻める者はいない。
 家族との時間を大事にした結果だからだ。

「ココちゃんもドラちゃんも、真琴をよろしくね。こう見えても弱い子だから」

「お任せ下さい、お義母様!」

「了解なの、ママ」

 もう真琴にツッコミを入れる気力はない。
 諦めの境地にいた。

「真琴もココちゃんとドラちゃんを大事にするのよ。隣人愛だからね」

「分かったよ、母さん」

 そう言い残すと、母はガチャリとドアを開けて出ていく。
 玄関には真琴とココとサンドラの三人が残っていた。

「真琴さん、何してるんですか」

「……え? 何って」

「お見送りですよ。早くしないと間に合いませんよ」

 ガッとココに手を引っ張られ、三人は外へ追いかけるように出る。
 母の車は、少し先をスピードに乗るように走っていた。

「さようならー! お義母様ー!」

「バイバイなのー!」

 母に声が届いたかどうかは分からなかったが、真琴たちは笑顔で送り出す。

 これが隣人愛か――と、真琴は二人の事を少しだけ誇らしく思ったのだった。


 この後、真琴が二人を相手に対戦格闘ゲームで無双したのは、また別のお話。
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