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第一章
寝過ごすことは許されません
しおりを挟む「おはよー、真琴くん。元気?」
一時間目が終わった後、かなりの疲労感に包まれている真琴へ、一人の女子生徒が話しかける。
真琴としては追い返そうかとも考えたが、わざわざ好意で来てくれた相手にそんな事は出来ないだろう。
特に彼女――唯川梨花には難しい。
「元気そうに見えるか? 理由あって朝食も抜いてきたし、授業はつまらないしでヘトヘトだ」
「へぇ、それはお気の毒だねー」
それで――と、唯川は本題に入るように話を立て直す。
少し嫌な予感が真琴に過ぎったが、何でもないことを願うのみだ。
「昨日の礼拝、どうして来なかったのかなー?」
真琴の予感というのは当たっていた。
唯川梨花は、真琴と同じ教会に通う仲間である。
その教会はそれほど大きい教会ではないため、誰が休んだかはすぐに分かるだろう。
「す、すみません。寝過ごしました……」
真琴は、使用する言葉をタメ口から敬語へと変え、誠意を伝えられるように謝罪する。ここで下手な答えをして、唯川を怒らせるわけにはいかない。
唯川を怒らせた時のトラウマを思い出しながら、真琴は唯川の返事を待つ。
「……そんなことだろうと思った。今週は絶対に忘れたらダメだよ。もし忘れてたら迎えに行こうかなー」
「い、いえいえ、そこまでさせるわけにはいきませんよ!」
真琴は、教会仲間なのか手下なのか分からないような口調で、唯川の訪問を阻止しようとする。
女子に迎えに来てもらうというのは、真琴の薄っぺらいプライドが許さない。
ましてや、今は家にココとサンドラがいる状況だ。
考えたくもないが、もしそれがバレて噂となり、近所に広まってしまったら、それだけで真琴の高校生活も終わりを告げる。
自分の高校生活が唯川にかかっていると考えると、かなり恐ろしい話だが、最悪のパターンを考慮し唯川はここで止めておくに越したことは無い。
「分かった分かった。別に遅れなければいいだけだって」
「そ、そうだよな。僕としたことが、少し取り乱してしまったようだ」
「今更かっこつけなくていいから。……あ、授業始まりそう。じゃーね」
言いたいことは言い終わったように、唯川は自分の席へと戻る。
一難去った後の真琴は、授業を受けた後より疲弊していた。
これで今度の礼拝を休んだら、唯川がどのような反応をするのか少し気になったところだが、その反応を受け止める勇気はない。
ココとサンドラなら、目覚ましくらいの役割はやってくれるだろうか。
そんなことを考えながら、真琴は二時間目の授業に臨んだのだった。
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