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第一章
出会い
しおりを挟む黒江真琴は高校生だ。
日本には高校生が数百万人いるというが、その中の一人でしかなく、それ以上でもそれ以下でもない。
平均も平均。頭脳に身体能力、通っている学校でさえ平均だ。
仮に真琴が他人と違うといったら、身体が柔らかいとか、キリスト教を信仰している――いわゆるクリスチャンとかだろうか。
だがこれは自慢できるようなものではないし、少しだけ珍しいという程度である。
真琴はそんな自分の代わりがいくらでもいるような人生、伝記にしたら数ページで完結するような人生に嫌気がさしていたのかもしれない。
ただ毎日を過ごすだけの日々。
特に思い出を残すこともなく、気がついたら夜になっている――そんな日常。
これまでの人生で、それくらいのことしか経験していなかった真琴は、現在――血まみれになっていた。
「だ、大丈夫か!」
真琴は背中に背負った自分と同年代くらいの女の子、そして片腕で支えることが出来るくらいに軽い小学生くらいの女の子へ声をかける。
しかし返事はない。
意識はあるが、返事をすることすら困難なのだろう。苦しそうな声が背中と腕越しに聞こえていた。
何よりそれは、彼女たちが出している血の量が顕著にあらわしている。
何があったのかは分からないが、まだ生きているのでさえ不思議なほどの出血だ。
「……あとちょっとだ」
真琴は火事場の馬鹿力ともいえるようなもので、彼女たちを自分の家の中まで運ぶ。
本当なら真っ先に病院へ連れて行くべきなのだろうが、如何せんここは田舎だ。
病院へ行くためには、バスなどを利用しなくてはならない。
そんな暇はないだろうし、そもそも今は夜である。
「と、とりあえず止血か……」
といっても、普通の高校生である真琴に手当てをすることは出来ない。
まだ出血の原因すら分かっていない状態だ。
「す、すいません……何でも良いのでお肉をいただけますか……? それで回復しますから」
初めて彼女が口を開いた。自分と同年代のくらいの女の子の方だ。
「……は? ど、どうしてだ……」
「……詳しいことは後で説明させていただきますから、今はお願いします……」
普通ならこんなことを言われても、気にせずに真っ当な処置をするだろう。
しかし真琴はある種のパニック状態だ。
真琴は包帯のある所ではなく、急いで冷蔵庫へと向かった。
「よ、よく分からないけど、持ってきたぞ! 冷蔵庫にあるの全部だ!」
真琴は冷蔵庫にあった肉類を、全て彼女たちの元へ集める。
客観的に見れば、血まみれの女の子の元へ肉を差し出すのは異常な行為だが、客観的に自分を見れるほど真琴は落ち着いていない。
ただ、言われるがままに大きめのモモ肉を差し出した。
「――うわっ!」
すると、まるで獲物を待っていたチョウチンアンコウのような勢いで女の子は肉へと食いつく。
一口だ。
一歩間違えたら指ごと食われていたかもしれないほどの勢い、人間を超越したような現象だった。
「……嘘だろ……?」
血が止まった。
どういった原理なのかは分からないが、さっきまで流れていた血は一切流れなくなる。
まさかと思ったが、今度はもう一人の女の子。小学生くらいの子の方へ肉を近づける。
ばくり。
こちらも同じように食らいついた。
そして当たり前ともいえるように血が止まる。
「に、人間じゃない……」
二連発で起きた信じられない出来事に、真琴は開いた口が塞がらない。
彼女たちが何者で、何故傷が回復したのか、そもそも何故怪我をしていたのか、それらは全く分からなかったが、一つだけ分かったことがある。
彼女たちは人間ではない。
それだけは自信を持って言えた。
「これは夢か……?」
真琴から出たのは現実逃避のセリフ。
もし夢だったらどれだけ安心するだろうか。
想像すらできないが、そうあってほしい。
「申し訳ありませんが、このお肉全部いただきます」
「……私も……なの」
そんな真琴の願いを嘲笑うかのように、目の前の女の子たちは、用意された肉を生のままバクバクと食い続ける。
肉食動物が捕食している時のような光景を、包み隠さず見せつけられた真琴は、グロテスクからなる衝撃に耐えられず、気を失ってしまった。
腰も抜け、悲鳴をあげることも出来ず、挙句の果てに気絶までしてしまった真琴を、少し心配そうにしながらも、彼女たちは食事を止めなかった。
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