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第五章
戦闘人形は出発する
しおりを挟む「おーっす。久しぶりにゃ」
「お待ちしておりました、ネロー様」
「お久しぶりです、ネロー様」
ネローが到着したのは、集合時刻の五分後だ。
ネローのフランクな挨拶に、ヴァイスとシュヴァルツは丁寧な挨拶で返す。
戦闘人形やメイド人形である以前に、目上の人への当然の対応だ。
「よーし。じゃ、さっさと集めにいきますかにゃー。ボクは走っていくけど、二人はどうするにゃ? ついてこれる?」
「さ、流石にネロー様のスピードについていくのは、厳しいです……」
「申し訳ありません……」
ネローの提案は恐ろしいもので、ヴァイスもシュヴァルツも、申し訳なさそうに断りを入れる。
ディストピア最速ともいえるネローについていける者など、限りなく少ない。
ましてや純粋なスピードで、だ。
「うーん。ボクも足に使えるようなモンスターは使役してないし、どうしよっかにゃー」
「そ、そういえば、レフィカル様から転移用のアイテムも預かっておりました。人魚の元へ辿り着いたネロー様に、私たちがこのアイテムで転移するというのはどう……でしょうか……?」
シュヴァルツは機転をきかせ、ある一つの案を提案する。
それは勿論レフィカルが想定していたもので、最も効率的なものだった。
「お、なるほどなるほど。分かったにゃ。じゃ人魚の所に辿り着いたら連絡するにゃ。地図は貰ってるから御心配なくー」
そう言ってネローは、開いていた窓から勢いよく飛び出す。
飛び立った衝撃で、部屋の中にはかなりの風が巻き起こった。
風が止む頃には、とうにネローの姿は見えない。
目にも見えないようなスピードで移動しているのだろう。
そのことからネローが飛び出す瞬間、かなり手加減していたことが分かった。
「…………あ、合図だ」
「も、もう着いちゃったの!?」
早すぎる合図が二人の元へ届く。
ネローが飛び出しておよそ一分ほどだろうか。
これには、ヴァイスも驚きを隠せない。
「と、とにかく転移するわよ。掴まって」
「う、うん」
しかし、ネローを待たせるわけにはいかないので、作戦と同じように転移を試みる。
そしてそれは一ミリの狂いもなく実行された。
「お、来たにゃ」
「お、お待たせしました」
ヴァイスとシュヴァルツは、転移した場所から少し先にいたネローの元へ駆け寄る。
辺りを見渡すと、どうやら海の前のようだ。
「じゃあ、レフィカルから預かってるっていうアイテムをちょーだいにゃ」
「あ、はい。えっと、アイテムというより装備みたいですね」
レフィカルから預かっていた袋の中には、三つのネックレスがあった。
ネローとヴァイスとシュヴァルツで三人分だろう。
そのネックレスには、水中戦に特化した効果が付与されていた。
一つ目は水中での呼吸不要。
二つ目は水中でも陸と同様に動くことができる。
三つ目は水中でも遠くが視認できるようになる。
大まかなところはこんなところだ。
実際は、もう少しちょっとした効果が付与されているが、特に無視して良いレベルのものだ。
「それじゃ、出陣にゃ!」
ネローはヴァイスとシュヴァルツの首元を持って、海へと勢いよく飛び込む。
かなり深い海。
海の中でも陸上と変わらないように重力を受けながら落ちる三人が、ネックレスによる視覚補助によって真っ先に確認したものとは、人魚――ではなく人魚の城に襲撃しようとしている魚人の群れだった。
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