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第五章

ユニコーン

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「ここっぽいな。慎重に行動しろよ。逃げられたら面倒だ」

「は、はい……」

 ジェニーとベルンが辿り着いた場所には、ユニコーンの群れがあった。
 地面は美しい花々で覆われており、自然が豊かすぎるような場所だ。
 間違いなくここはユニコーンのテリトリーだろう。
 そして、このような広大な土地を独占できるということは、ラチーナ山の生態系の頂点にユニコーンが立っているということを顕著にあらわしている。

 ジェニーとベルンはユニコーンに逃げられないよう、木の影でヒソヒソと作戦をたてていた。
 ユニコーンがジェニーたちに気付く気配はない。
 ベルンが上手に殺気を隠しているというのもあるが(ジェニーから殺気は出ていない)、ここではユニコーンの危険察知能力が低さが目立つ。
 支配者としての驕りだろう。

「そこそこ数はいるな。……あの一番デカイのがボスだろうな。さて、どうする?」

「群れで生活しているのなら、ボスである個体がやられたら間違いなく全体は混乱するはずです。ボスに一点集中して戦った方が良いと思います」

「なるほど。いい判断だぜ、ジェニー」

 ジェニーの提案に反対は無かった。
 こういった場面で、ジェニーの冷静さと優れた頭脳が遺憾無く発揮される。

 そしてここからはベルンの出番だ。
 ジェニーは作戦を立てたとしても、実行できる力はない。
 相手は油断していると言えども、ラチーナ山の頂点に君臨する支配者だ。ジェニーとの力の差は歴然である。

 しかし、それはまだまだ子どもであるジェニーと比べたらの話。
 今回ユニコーンを相手にするのは、冥府の八柱最強の称号を持つベルンだ。

 ベルンとユニコーンではまた力の差が、見当もつかないほどに離れていた。
 ユニコーンたちには不幸と言うしかない。
 災害と言えるほどの者に狙われてしまったのだから。

「じゃあ仕掛けるぞ」

 ベルンはそう言うと、今までに隠してきた殺気を全て解放する。
 同時にユニコーンたち全員の視線がこちらに向いた。そしてユニコーンたちは全員が完全に固まる。
 まるでその光景は時間が止まってしまったかのようにも見えた。

 そしてそれは、となりにいたジェニーとて例外ではない。
 自分に向けられた殺気ではないと分かっていても、震え上がる体を抑えることはできなかった。
 少しだけ顔色も青くなる。

 隣にいるだけでもこの影響力、真正面から受けているユニコーンたちはどのようなものなのだろう。
 そんな考えがジェニーの頭の中によぎったが、それ以上考えることはしない。

「〈石化の邪眼〉」

 ベルンが発動したスキルによって、既に動けずにいたユニコーンたちが逃げることはもうなくなった。
 ユニコーンたちの足が石化している。
 最初は何とか足を引きずりながら動く者もいたが、途中で力尽き止まる。
 しかしその中に例外がいた。

「お、ボスのユニコーンなだけあって、ちょっとは耐性もってるな。面白くなって来たぜ」

 動くことができないユニコーンたちの中、一匹だけいつも通り歩いている。
 他のユニコーンたちよりも一回りほど大きい。特に角に関しては二倍ほどあった。
 これが群れのボスだと確信できるほどの風貌だ。

 ただ一匹だけ動くことができるのに気付くと、ボスユニコーンはゆっくりとベルンの元へ近づいてきた。
 勿論石化が効いていないわけではない。だが石化したといっても今のところは足だけだ。

 ベルンが〈石化の邪眼〉の効果を強めたらすぐに勝負はつくだろうが、今回は勝利することが目的ではなく、角を入手することが目的なため、リスクがあるような行動はなかなかとれなかった。

 石になった角は素材としての価値がゼロになる。
 たとえ石化を戻したとしても、質は間違いなく落ちているだろう(当然だか攻撃して角にダメージが入った場合も同様だ)。

 つまり、ユニコーンにダメージを与えすぎないようにしつつ、角を入手するということがベルンには求められていた。

「俺様の威嚇にもビビんねぇか。久しぶりに骨がある相手だぜ。かかってきな」

 ユニコーンはベルンの威嚇に怯むこともなく、悠然と歩みを続けた。
 ジェニーからしたら、ベルンの威嚇に怯まないのは敵であろうと何であろうと、凄いと思ってしまう。
 ジェニーはベルンの威嚇に足が震えて、まともに戦うことができない。

 ただ、これから始まるベルンとボスユニコーンの戦いを眺めることしかできなかった。



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