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第四章
自由時間
しおりを挟む「着いたぞ。ここが私たちの群れだ」
「ご苦労。カトレアもジェニーも大丈夫か?」
「大丈夫です!」
「ご、ご心配なく!」
ララノアの案内により、それなりの時間をかけてエルフの群れに到着した。
一応カトレアとジェニーに安否を確認したが、元気そうな声が返ってきたので大丈夫だろう。
「さて、私は姫様にご報告したいことが沢山あるので、ここで失礼する。ここからは自由にしてくれて構わない」
そう言ってララノアと別れることになった。
つまりは取り残されてしまった。
「これからどうしますか? アルフス様」
「そうだな。姫様――という者の所へ向かってもよいが、少し用心しておこう」
と、アルフスはカトレアに向けて何かを手渡した。
カトレアはそれに気付くと両手を丁寧に差し出す。絶対に落とさないように慎重を期していた。
「あのー、これは何でしょうか?」
手渡されたのは指輪だった。
魔力や攻撃力を上げる物だろうか。しかし、そのような反応は感じられない。
「それは希薄な指輪といって、我々の強さを感じ取れなくさせるものだ。避難しているという体だから、強すぎることがバレてしまっても面倒だ」
「あ、なるほど! やっぱりアルフス様はすごいですね!」
カトレアは、指輪を左手の薬指に填めながら敬服する。
アルフスとカトレアから出るオーラが完全になくなったのを、ジェニーはしっかりと感じていた。
指輪の効果は確かなようだ。
「すまないが、ジェニーの分は現在持ち合わせていない。どうしても欲しいなら造ってもいいが……」
「大丈夫です! そもそも私には必要ありませんから!」
「そうか、では行こう。強い反応があるのはあそこだな」
アルフスが指を指した先には、明らかに周りの家とは違う家が建っていた。
エルフたちの家は大木に巻き付くように――木に生えるキノコのような形で作られている。
その中でも格段に大きな木に、エルフ姫の家があった。
「多分あそこで間違いないですね! でも、いきなり行ったら怪しまれませんか?」
「当たって砕けろだ。失敗しても悪い方向には転ばないだろう」
アルフスの提案に二人は納得したようで、エルフ姫の家に向かうアルフスの後ろをトテトテと付いていく。
向かう道程にいたエルフたちは、怯えたような目つきでアルフスたちを見つめていた。
エルフたちからしたら当たり前の反応だ。
「…………!?」
何故かジェニーも怯えていた様子だったので、カトレアが隙だらけの脇腹をくすぐる。
ジェニーの緊張をほぐすために考えた、カトレアなりのリラックス方法だ。
ひゃっ、と声を上げてジェニーはアルフスの元へ近付く。
安全な場所への緊急避難である。
しかし、今日のカトレアはしつこい。
アルフスの元へと避難したジェニーに、更なる追撃を加えた。
「ひゃああぁぁ! 助けてください、アルフス様ぁ」
「フフフ、仲良くするんだぞ」
ジェニーの助けを呼ぶ声もアルフスには届かない。
アルフスとカトレアは楽しそうに笑っている。
この空間にジェニーの味方はいなかった。
(でも、アルフス様が笑ってくれてるから良かった……)
ジェニーは割り切った考えだ。
これでアルフスが笑ってくれてなかったら、地獄の時間だっただろう。
カトレアの行動はエスカレートして、ジェニーは手の中でクルクルと回されているが、それすらもアルフスのためなら我慢できる。
むしろ、アルフスにそういう事をしてもらえたなら、どんなに幸せだっただろうか。
そんな事を考えながら、ジェニーはカトレアに付き合わされていた。
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