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第三章おまけ 不死身の奴隷

助っ人

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「メリルネがさらわれた」

 それが発覚したのは、メリルネと別れた翌日だった。
 恐らく実際に攫われたのは、メリルネと別れた直後だろう。
 つまりは自分が完全にメリルネから目を離した瞬間だ。

 アルフスは苛立ちを抑えられない。
 まさかメリルネが攫われるとは微塵にも思っていなかった。

 しかし、内心がどんなものであろうと、アルフスは冷静だ。
 レフィカルには既にディストピアへ戻ってくるように指示してある。

 レフィカルがプロメシル王国統治のため、多忙なのは重々承知している。
 だが、プロメシル王国の内部でメリルネが攫われたのも事実だ。

 ほとんどの確率で、犯人はプロメシル王国の者だろう。
 ならば、何かを感じ取った下僕がいるかもしれない。
 怪しい動きをする者がいれば、必ず目に止まるばずだ。

 悔しいが、地の利に関しては向こう側に軍配が上がる。
 情報もなしに闇雲に探していては時間が無駄になるだけだ。

 今はただ、レフィカルの到着を待つ。

「…………」

 レフィカルを待つこの時間。
 アルフスの発するピリピリとした雰囲気に、側に控えていたメイド人形は、生きた心地がしなかった。

 ほんの少しの音も出さないように、息を潜め、緊張から出る汗と謎の涙を堪えながらレフィカルの到着を只只待っていた。


****

「アルフス様。レフィカル様で――」

「入れ」

 メイド人形がレフィカルの到着を告げる。
 待ちわびていたアルフスは、メイド人形が最後まで言い切る前に入るように促した。

「よく来てくれた。レフィカルに――エマ?」

「お久しぶりです! アルフス様」

 アルフスの元へ来たのは、レフィカルだけではなかった。
 同じく冥府の八柱。
 死霊使いネクロマンサーのエマだ。

「エマがここに来たのは……メリルネのことでいいのか?」

「はい! メリルネちゃん救出のために来ました」

 エマは元気よく答える。
 どうやら、メリルネのことはレフィカルが既に伝えていたようだ。
 それならエマが自ら動くのも納得である。
 そして、そうなると話は別だ。

「アルフス様、メリルネのことに関しては、エマに任せておいて問題は無いかと考えます」

「そうだな。エマが動いてくれるなら話は早い。レフィカルの負担も減るしな」

 正直に言うと、ここでエマが自分から動くのはアルフスにとっても嬉しい誤算だった。
 エマは基本的にアルフスの命令以外では、自分から行動することは少ない。
 ディストピアの外へ出るなど、以ての外である。
 かなり珍しいことだ。

 そこまでしても、メリルネはエマにとって手に入れたい存在なのだろう。

「ないと思うが、もし自分の身が危険に晒されたら、メリルネよりも自分のことを優先するようにしてくれ」

「分かりました! 犯人はアルフス様に引き渡した方がいいですか? それともエマが自由にしていいですか?」

「ああ、自由にして構わないぞ。好きにするがいい」

 やったー、とエマは喜ぶ。
 エマからしたら、メリルネに加えて玩具おもちゃが更に付いてくるというおまけ付きだ。
 エマにとって、こんなにおいしい話はない。

「犯人を探す時は、出来るだけプロメシル王国の市民に被害を与えないようにしてくれると嬉しいですね。ただでさえ混乱している状況なので、これ以上刺激を与えられると面倒になりますから」

「むー。分かってるって、レフィカルー」

 エマは頬を膨らませて、控えめな地団駄を踏む。
 言われなくても分かっていると言いたいのだろう。
 これまでに前科があるので、信じてはもらえないだろうが。

「……うむ。どうしようかと迷ったが、エマが出てきてくれるなら何も言うことはない。レフィカルと上手に協力して動いてくれ。レフィカルも余裕があるならエマのサポートをしてやるといい」

「「かしこまりました!」」

 レフィカルとエマは、並んで綺麗に跪く。
 体格の差はあれど、そのスピードの差は一切なかった。

「よし、では二人ともプロメシル王国へ向かってくれ。お前たちの健闘を祈る」

「「はっ!」」

 二人は返事と共にプロメシル王国へと向かう。
 レフィカルは瞬間移動テレポートで。
 エマは暗黒門ダークゲートで。

 その部屋にはアルフスとメイド人形が残されていた。



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