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第三章 アルフス様に作られたゴーレムの無念を晴らす戦い
事件発生
しおりを挟む「……なんだと?」
「どうかなさいましたか! アルフス様!」
アルフスの呟くような声、そしてそれを心配するメイド人形の声が、執務室の中で反響する。
メイド人形は通常、アルフスの一言一句全てに全神経を注いでいると言っても過言ではない。
そんな中で、アルフスから何かあったと思わせるセリフが飛び出したのだ、焦らないはずがない。
もしかすると、自分の不備による発言かもしれないのだから。
「……ある男に渡していたゴーレムがさっき死んだ」
「ある男、ですか?」
「名前は確か、バルカと言ったな――ともかく、これは少し気になる話だ。レフィカルを呼ぶように手配してくれ」
「かしこまりました!」
アルフスは、すぐさまレフィカルを呼ぶように手配する。
アルフスが創造したゴーレムが死んだのだ。これは無視できる問題ではなかった。
勿論、無視できない理由として、自分の造ったゴーレムが殺されたことに腹を立てた、などの感情的なものではない。
自分の作った、ある程度の力を持ったゴーレムが殺されたことだ。
人間では到底敵わない程の強さに設定してある。
これをどう捉えるべきか。
真っ先に考えられるのは二つ。
一つは驚異的な力を持った、英雄クラスの人間がいるということ。
もう一つはそれなりの強さを持った、魔物が攻めてきたということ。
どちらかと言うと、後者の方がまだ納得できる。人間では考えにくいが、魔物ならあのゴーレムを倒したとしてもおかしくはない。
しかし、それでもあのゴーレムを倒すとなると、油断はできない相手だろう。
「ジェニーと同格、もしくはそれ以上といったところか」
ひとまずアルフスは、大まかに敵の強さを想定する。
少なくともジェニー並の力を持っているだろうという評価だ。
正直に言うと、想定をするよりも、すぐに確認をしに行く方が懸命なはずである。
だが、アルフスはそれが出来ない。
アルフスは、勝手にディストピアから出ることが出来ないのだ。
もし、何も言わずに出ていくと、下僕たちはアルフスを探すため、大パニックに陥ってしまう。
そもそも、アルフスがディストピアから外に出ようとすると、かなりの反対意見が飛び交うだろう。
実際に最近、アルフス自ら外に向かおうとすると、カトレアとローズブラッドがすごい剣幕で反対してきたのだ。
一人で外出など言語道断である。
なので、ゴーレム死亡について、今すぐ確認をしに行きたいのを我慢し、レフィカルの到着を待つ。
日頃から待つことに慣れていないせいか、レフィカルを待つ時間は、いつもより数倍ほど長く感じてしまう。
レフィカルがアルフスの元へ到着するのは、それから数分後のことであった。
****
「お待たせいたしました、アルフス様」
「うむ、待っていたぞ」
「私をお呼びになるとは、何かあったのでしょうか? 教えて頂けると嬉しく思います」
レフィカルがアルフスの部屋へと到着すると、真っ先にアルフスの元へ跪いた。
アルフスとしては見慣れたものなので、特に反応する様子はない。
それより、と言わんばかりに話を進めたそうだ。
「少し前に、魔物の集落にゴーレムをプレゼントしたのだが、そのゴーレムの生命反応が急に消えたのだ」
「……なるほど。殺されたと見るのが普通でしょうか。アルフス様のお造りになったゴーレムを殺すなど、許される事ではありませんが、我々が最初にするべき行動は敵の確認だと考えます」
レフィカルの最もな意見に、アルフスは「うむ」と頷く。
こういう場面で冷静な意見を提示してくれるのが、レフィカルの特徴だ。
他の冥府の八柱なら、アルフスの造ったゴーレムが殺された時点で、「許せない!」と言って飛び出すだろう。
アルフスもレフィカルの意見に異論はなかった。
アルフスを含めて、ディストピアには現在情報が無い。
眠っていた百年の間に、強力な新しい勢力が増えていてもおかしくはないのだ。
「レフィカルの意見に概ね賛成だ。問題は誰が確認をしに行くか――だが」
「是非私に向かわせて頂きたく思います!」
やっぱりか、とアルフスは頭を悩ませる。
何となくこうなることは予想できていた。
「うーむ…………」
正直に言うと、レフィカルをディストピアの外には出したくない。
ディストピアの頭脳とも言えるレフィカルを、もし失ってしまうと、その被害は想定しきれない。
「と言いましたが、やはり私が向かうにはいけませんね。冥府の八柱の中から適任者を選びましょうか」
「すまないな……。選出はレフィカルに任せよう。できる限り早めに向かわせてほしい」
「かしこまりました。十分後には向かわせるように致します」
レフィカルは候補から自らを辞退させた。
アルフスの考えを察してからの行動だ。
自分が行きたいからという理由で行ったとしても、その危険性に勝るほどの利益を得る事は難しいだろう。
レフィカルは冥府の八柱の中でも、戦闘においては最弱と言ってもよいほどだ。
もし何かの間違いでレフィカルが倒されたとなると、お詫びの言葉も出てこない。
これが最善の選択なのだろう。
レフィカルは少し残念に思いながらも、頭の中で確認に向かうべき下僕を選出し始める。
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