34 / 79
第二章 ジェニーがんばる
フォルタレッサVSクルト
しおりを挟む「な、何ですか!?」
爆音と共に地面が揺れる。
何が起こったのか理解が追いつかない。
クルトの叫びも爆音に掻き消されてしまう。
地震かとも考えたが、それならある程度の時間は揺れが続くはずだ。
しかし、クルトとジェニーを襲ったのは一発の衝撃。
例えるなら、巨大な鉄球を高い所から地面に落とした時のような現象だ。
「ジェニーさん、ご無事ですか!」
「わ、私は大丈夫です……」
「一旦外に出ましょう! このままでは危ないかと!」
クルトは急いで馬車から飛び出そうとする。
馬車の中では危険だと判断したからだ。
もたついていたジェニーの手を取って、扉を蹴り破り、転がるようにして馬車の中から脱出に成功する。
外に出たクルトが真っ先に目撃した物は、二、三メートルはあろうかという巨大な塊だった。
地面には塊を中心に大きなヒビが入っている。
さっきの衝撃は、この塊が降ってきたと考えていいだろう。
今するべき事はこの塊の正体を掴むことだ。
安全を確認して、塊に近付こうとしたクルトだったが、近付ける事は叶わなかった。
というのも、その塊がひとりでに動き出したのだ。
たくましい足が二本現れる。
塊はその足でクルトたちの方へ振り向いた。
「何者なんですか……コイツは……」
クルトは一歩引き下がって様子を見る――いや、それも言い訳だろう。
様子を見るなんて余裕はクルトには無い。
体が勝手に一歩引き下がっていたのだ。
「……対象ヲ把握シタ。イザ、尋常ニ」
「っ! 喋るだと! ゴーレムではないのか!?」
振り向いた塊は、クルトとジェニーを目次すると、呟くように喋った。
これは戦闘の始まりを意味している。
戦いの火蓋は切って落とされた。
クルトからしたら、この相手は未知の領域である。外観からゴーレムと想定していたが、腑に落ちない点が幾つかあった。
一つは体に傷一つ付いていなかった事だ。
地面にできたヒビの大きさから、かなりの高さから落下してきたものと推測できる。
しかし、このゴーレムにはダメージを負った雰囲気など欠片もない。
普通のゴーレムなら、砕け散ってもおかしくないほどの衝撃だったはずだ。
二つ目は喋ることが出来るからだ。
クルトは、ゴーレムが喋るなど聞いたこともない。
口らしき所も動いていないため、どのようにして喋っているのかは不明だ。
これらの情報だけで、相手が超越的な存在だと分かる。
恐らく逃げる事も不可能だろう。
それならクルトがとる行動は一つだ。
「ジェニーさん! 手を貸してください! 二人でいかないと勝てません!」
「…………」
「ジェニーさん!? 何をしているんですか!」
クルトの発言に対する答えは沈黙だった。
ジェニーは下を向き、クルトと目を合わせようとしない。
戦意喪失――とは、また違う何かを感じ取れる。
しかし、迫り来るゴーレム相手に、ジェニーに気をかけている余裕はない。
クルトは、ジェニーの方からゴーレムの方へ視線を戻す。
「無駄ダ」
ゴーレムのその一言と共に、クルトの体は天高く打ち上げられた。
大きな体から放たれる、下から持ち上げるようなアッパーに、人間であるクルトが耐えられるはずもなかった。
そのまま行くと、宇宙まで行ってしまいそうなほどの勢いだ。ただでは済まないだろう。
クルトがいなくなったその場には、ジェニーと巨大なゴーレムが取り残される。
「ゴ苦労ダッタ、ジェニー」
最初に口を開いたのはゴーレムの方だ。
「いえ、フォルタレッサさんのおかげで、スムーズに作戦が進みました。ありがとうございます」
「……礼ナラ私デハナク、アルフス様ニ言ウトイイ」
「は、はい……」
ジェニーの言葉を、フォルタレッサはそっけなく返す。
無愛想――と言うよりも、照れ隠しのつもりなのだが、ジェニーは違う方向で解釈してしまうだろう。
『下僕たちよ、作戦は成功した。速やかにディストピアに帰還せよ』
もう一度空から声が聞こえてくる。
それは作戦成功の知らせだった。
成功したという事は、ネローの方も終わったのだろうか。
早すぎる気もするが、納得できないわけではない。
たとえ王を守る兵がいたとしても、ネローの前にはいないも同然だ。
一秒だって時間を稼げる人間はいないだろう。
「……サテ、ネローノ方モ終ワッタヨウダナ」
「みたいですね。帰還しましょうか」
と、ジェニーが言った刹那、ジェニーとフォルタレッサの体は光に包まれる。
少しビックリしたものの、何故か安全なものだと頭が理解する。
どこかで見た事がある光だ。
ジェニーは、糸をたぐるように過去の記憶を思い出す。
ジェニーの記憶力をもってすれば、答えに辿り着くのに、そう時間はかからない。
その光は、アルフスが瞬間移動を使う時に現れる光だった。
ジェニーが瞬間移動を使ったわけではない――そもそも、ジェニーはまだ瞬間移動を使うことはできない。
フォルタレッサからも使った様子は見て取れない。
使えないことはないだろうが、魔法を唱える時特有の雰囲気を、一切感じとることが出来なかったのだ。
となると、遠く離れた自分たちを一度に転移させることが出来る人物。
偉大なる大魔王。
考えれば考えるほど一人しか思いつかなかった。
ジェニーたちは、アルフスの待つディストピアへと帰還する。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
【完結】会いたいあなたはどこにもいない
野村にれ
恋愛
私の家族は反乱で殺され、私も処刑された。
そして私は家族の罪を暴いた貴族の娘として再び生まれた。
これは足りない罪を償えという意味なのか。
私の会いたいあなたはもうどこにもいないのに。
それでも償いのために生きている。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる