上 下
28 / 79
第二章 ジェニーがんばる

謁見

しおりを挟む

「王よ、失礼致します」

「失礼します」

「うむ、入っておくれ」

 王の待つ部屋にクルトとジェニーが入る。
 先に城に戻り、客室らしき部屋で待っていた王は、まだ興奮冷めやらぬ様子だった。
 最初に会ったときより、少し若返っても見える。それほどの感動だったのだろう。

「さて、何でも聞いてくれて構わんぞい。一応クルトも下がらせた方が良いかの?」

「いえ、そこまでしていただく必要はありません」

「そうか? なら良いのじゃが」

 王はジェニーの話を聞く準備は万端のようだ。
 クルトを、部屋から退室させる提案をするほど余裕がある。
 これは、ジェニーを信用していないと、絶対に出来ない提案だ。
 最近訪れたばかりの旅人と、一国の王が一対一で話すなど通常なら有り得ない。
 実際、クルトもジェニーがその提案を断った事に安堵している。

「まず一つ、王は魔王について、何か知っていることはありますか?」

「魔王? おかしな事を聞くもんじゃ。確かに知ってはおるが、それは百年ほども前の事じゃ。あまり詳しい事は分からんの」

「……そうですか。なるほど」

「今更魔王の話とは物好きじゃのお。歴史家の仕事でもしておるのかい?」

 王は不思議そうに首を傾けた。
 百年前の魔王の話をされるとは、全く想定していなかったからだ。
 魔王の事を知らない大人もいる現在で、十四歳ほどの少女が、魔王について調べていることにも疑問を覚える。

「そ、そういうわけではないです……。えっと最後にファルジック国の事なんですが」

「うむ。遠慮なく聞いてくれて構わんぞ」

「ファルジック国で一番強いのは何方どなたなのでしょうか?」

「それなら、すぐそこに居るぞい」

「え?」

 ジェニーの質問に対する答えはシンプルだった。
 王はジェニーの後ろ側に指を指す。
 まさか、と思いつつもジェニーが振り返ると、やはり思い違いでないことが分かる。

 そこにはクルトの姿があった。

「く、クルトさんですか!?」

「そうじゃ。クルトほど優秀な騎士はいないじゃろう。ファルジックの宝とも言えるの」

「分かりました……。質問はこれで全部です。ありがとうございました」

「ん? もういいのかえ?」

「これ以上、王の時間を割かせる訳にはいきません。分かりやすく答えて頂き、感謝しています」

 ジェニーは、クルトについて驚いてはいたが、すぐに通常の余裕を取り戻す。
 納得出来ない事では無かったからだ。

 ジェニーの質問はもう終わったようで、礼を言った後立ち上がり、もう一度礼を言った。

「最後にワシからも一ついいかの?」

 部屋から出ていこうとするジェニーに、王はちょっと待つように話しかける。
 ジェニーは、ピタッと足を止め、目線を王の方向に戻した。

「何でしょうか?」

「お主は旅人なのであろう?」

「はい。その通りです」

「ファルジック国に定住する気はないか?」

 王からの話とは、ファルジック定住の勧誘だった。

「お主のように英雄級魔法ヒーローズマジックを使える者は、人間全体から見ても希少な存在じゃ。しかもさっき見た様子だと、まだまだ伸びしろがあるように思える。お主は流すには惜しいのじゃ」

「……前向きに考えたいと思います」

「そうか! 期待しておるぞ。もし定住してもらえるなら、お主の負担が少なくなるように、積極的に支援を行うとしよう」

 ジェニーの答えに、王は明らかに嬉しそうな表情を見せる。まるで、大きな魚でも釣ったかのような様子だった。

 実際にジェニーは、逃すには惜しい人材ではある。英雄級魔法ヒーローズマジックを使えるというのは、それ程までに重要なファクターなのだ。

 現在は、この国に敵対するような国は無いが、それでもジェニーがいるだけで抑止力になるだろう。
 逆にジェニーに攻めてこられるとなると、かなりの苦戦を強いられる事になる。
 ならば早めに手の内に入れておきたい。

「返事はいつでも構わんぞい。いい返事を待っておる」

「分かりました。早いうちにお答えしたいと思います。では、これで失礼します」

 ジェニーは、再度丁重に挨拶を交わすと、今度こそ部屋から退出する。
 クルトも付いてくるかと思ったが、どうやら今回はそうではないらしい。

「はぁ……」

 久しぶりに自由になったジェニーは、疲れを吐き出すかのように溜め息をついた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...