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第十一章
サンの紅茶
しおりを挟む「あ、サンちゃんは今何やってるのかなぁ。リリ気になる!」
「はい。サン様には今部屋の掃除を任せています。お呼び致しましょうか」
レレーナは、サンがいるであろう部屋へと向かう。
サンとはかなり久しぶりの再開だ。
かつて人間界で奴隷として働かされていたため、心の傷を癒す目的も含めて魔王城に預けていた。
このように美味な食事を毎日味わえると考えると、ウィルも魔王城に住み着きたいほど羨ましい事実だったが、健康な日々を送っているという裏付けとなる。
やはり、魔王城へ預けたのは正解だったようだ。
「……皆さん。お久しぶりです」
「あ! サンちゃんだー! 久しぶりー!」
少しの時間を置いて、サンはウィルたちの前に現れた。
モジモジと体を動かしているところから、かなり緊張しているのだろう。
メイドの態度としては、恥ずかしがりすぎなのかもしれないが、レレーナがそれを責めるようなことはしなかった。
「サン様。せっかく来ていただけたのですから、もっとお話されてはいかがですか?」
「そ、そうですね……えっと、リリ様はお元気でしたか……?」
「うん!」
「…………」
言葉に詰まるサン。
会話はすぐさま終わってしまう。
これまでの会話相手のほとんどが、よく喋るソフィアであったため、自分から話しかけるということができないのだ。
一瞬だけ気まずい空間に包まれる。
「そ、そうだ! サンちゃんはメイドさんなんだよね! 何か得意技とかある?」
「得意技……とは言えないかもしれないですけど、紅茶を淹れるのはできるようになりました……」
「すごーい! 見せて見せて!」
突然すぎる無茶振り。
どうしようかとレレーナを見ると、何故か紅茶セットが用意されていた。
「で、では……」
サンは緊張で震える手を無理矢理止めて、何度も繰り返した紅茶を淹れる行程を思い出す。
内気なサンが成長するための試練のような物だ。
息を整えながら、まずは沸騰したお湯をポットに入れる。
そして、ポットが十分に温まったところでお湯を捨て、人数分の茶葉と新しいお湯を手早く入れた。
茶葉は魔王城がこだわりを持っているものであるため、どれほど適当にやってもそれなりの美味しさにはなるだろう。
しかし、ウィルたちに少しでも良い思いをしてもらうため、手を抜かず完璧にこなしていた。
「……よし」
最後に三分ほど蒸らしたら、ウィルたち五人へ均等に注いだ。
紅茶の一番美味しいと言われている最後の一滴は、ウィルのカップへ淹れられることになる。
「ほう……これは凄いのお」
「……驚きました。毎日飲みたいくらいですね」
ウィルたちの中でも、舌に自信があるエルネとレフィーからの高評価。
この二人に認められた時点で、サンの腕が一級品なのは明らかだった。
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