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第三章

生贄

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「あ、あなたたち、今ドラゴン様を倒すと言いましたか!?」

「あぁ、そうだった。肝心なことを思い出したよ。俺たちはドラゴンを倒しに来たんだ」

 ユキは目を丸くする。
 ウィルが何を言っているのか、すぐには理解できなかったようだ。

「や、やめてください! あなたたちが無駄に死ぬだけです! いえ、それどころか、ドラゴン様を怒らせてしまうと、村のみんなが危険な目に――!」

 ユキは必死にウィルの考えを変えようとした。
 もしウィルが知り合いだったとしたら、頬を引っぱたいていたであろう勢いだ。

「そもそも、あなたたちには関係ありません! ドラゴン様とボクたちの村との関係なのです!」

「いや、この雷はドラゴンの仕業だろ? なら俺たちも困ってるんだ」

「ぐぐっ……」

「それに、生贄だなんて見逃せるはずがないよ。簡単に死のうとするもんじゃない」

 しかし、ユキの説得もここまで。
 逆にウィルによってユキが説得される形になった。

 ユキの口を止めたのも、ユキ自身の生きたいという感情故である。

「……無駄に優しいの、ご主人様」

「流石に人間としてこれは認められないよ。生贄なんて間違ってる」

「儂らには分からん感情じゃが、ご主人様は間違っておらんと思うぞ」

「リリ、ウィルお兄ちゃんのこと見直したよー」

「たまには良いこと言うんですね、マイマスター」

 パーティー内でウィルが初めて褒められた瞬間かもしれない。


********


「ユキちゃん、ドラゴンの情報を教えてくれないか?」

 ユキを落ち着かせたウィルは、改めてドラゴンのことについて尋ねた。
 都合良く雨に濡れない場所も見つけたため、ユキも冷静になれたのだろう。

「……ドラゴン様は、昔から私たちの村を支配されている御方なのです。月に一度若者の生贄を捧げなければいけません」

「……なるほど、それでユキちゃんが生贄に選ばれたということだね」

「はい。でもボクが生贄に出るのが遅れてしまったので、ドラゴン様がお怒りになられているのです」

 ユキは自分が知っていること、生贄に出るのを躊躇ってしまったこと、全てをウィルに教えた。

 ウィルたちを信頼しているという表れである。

「随分と勝手なドラゴンじゃの。ドラゴンは温厚なタイプが多いと思っておったが、勘違いだったようじゃ」

「それに、人間なんて脆弱な種族を支配するというのも気に入りませんね」

「リリもそーいうのきらーい」

 ドラゴンに怒りを覚えたのは、ウィルだけでなくエルネたちも同じらしい。

 久しぶりに、四人の気持ちが重なった気がしたのだった。

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